85話
真の愚者とは何だろうかと最近思う。
婚約破棄物を書いてみたいけど、そういう時にそう思う。
「リディア=バルモ=エーズデバランド!!貴様はなぜここにいるんぎゃぶっつ!?」
‥‥‥あ、舌を噛んだ。
いまいちしまりの悪い叫びをあげ、ソークジ=バルモ=バズカネェノとかいう男は舌を抑えた。
なんというか、この時点ですでに頭足らずというか、物凄い阿呆な気がする。
とはいえ、なにやら口出しが出来なさそうな問題なので、ルースたちは黙ってその行方を見守ることにした。
「ソークジ様、なぜここにいるのでしょうか?それに、このような場で大声で叫ぶなど、何か厄介な事でもあったのかしら?」
ソークジに対して、リディアがそう問いかけた。
舌をふぅふぅして痛みを抑えた後、ソークジはコホンと咳払いをした。
「いや、ただ単に貴様がこの場にいるのはどういうことだと言いたいからだ!!女は黙って屋敷におればいいものを、何故このような場に出てくるのだ!!」
何だろう、スゴイ何処かの誰かさんたちが聞いていたら起こりそうな言い方だな。
「わたくしだって、たまには外に出て買い物に出たりしますわよ。そんなことでいちいち大声で人に声をかけるのですか?」
「ええぃ!!黙れ黙れ!!そんなに買い物をする金があるのならば、このわたしに全てを渡せばいいではないか!!女の買い物に使われるお金よりも、よっぽど有意義に使ってやるからありがたく思え!!まぁ、貴様なんぞのためによりは、あの愛しいマリアーンヌにあげたほうがよっぽどいいだろうがな!!」
何処から同ツッコミを入れればいいのか、ルースたちはあっけにとられた。
婚約者がいる身なのに、その婚約者本人の目の前で堂々と浮気をしている宣言に加えて、どう考えても金を奪い取って自分のものへと横領すら宣言し・・・・・・途方もない馬鹿さであろうか。
少なくとも、ここまで堂々とした馬鹿野郎というか、屑野郎は見たことがない。
そういえば、「ソークジ=バルモ=バズカネェノ」ってバルモを抜かして並べ替えると・・・・「クズソーバカジ(足りないけどヤ)ネェノ」、つまり「屑そう、馬鹿じゃねぇの」って言えるな・・・・・
「ぷっ」
思わずそう考え、ルースは笑いが少し漏れた。
当たっているというか、作為的なものを感じる。
まさに目の前にいるソークジは馬鹿であり屑だし、間違ってはいないのだ。
「おいそこの男!!何を笑っているんだ!!」
と、ルースの笑いが漏れた声が聞こえたのか、ソークジがルースの方に顔を向けた。
「いや、何も笑ってはいませんよ」
嘘である。内心、物凄く爆笑したい。
「・・・・・なんだか気に食わん!!黙っているつもりなのだろうが、どうもわたしを馬鹿にしているようにしか思えんのだ!!」
いらいらしながら、ソークジはそう怒声を放つ。
少なくとも、馬鹿にしているのはあっています。
というか、周囲の皆様方全員思っています。
‥‥‥忘れているようだけど、ここは喫茶店。
護衛などが色々いるようだけど、その他の客がいないわけでもない。
明らかな騒音男を見て、皆不快な目線を送っているのだが、全く気が付かないのだろうか?
ああ、決定的な屑馬鹿だから気が付かないのも当たり前か。
「ぜったい何か馬鹿にしているだろう貴様!!見る限り平民のようだが、このわたしを心の中であろうと愚弄するのは許さんぞ!!」
っと、気が付けば無視されてけなされたと感じ取ったのか、ソークジは真っ赤なトマトのようになって激怒していた。
「おやめなさいソークジ様。こんなことでイライラしているのならば、いつか頭の血管がきれますわ」
「ええい!!黙れ!!皆このわたしにしたがえばいいだけなのに、どうもこいつだけは気に入らん!!サンシタ!コーモノ!!やってしまえ!!」
「「はっ!!」」
ルースが何も返答を返さないのが気に食わないのか、取りまきに命令を下すソークジ。
それにしても、取りまきは取りまきで馬鹿なのか?
「ソークジ様のために、礎となってしまえぇぇ!」
「我々はただ、お前を殺す気はなく、痛い目に遭ってもらうだけだぁ!!」
ルースにむかって殴りかかろうとするソークジの取りまきAとB。
名前はあるようだが、ABで十分である。
一応、剣とか刃物の類を出さず殴るだけのようだけど・・・・・この程度ならば魔導書を使うまでもない。
「てぇぇぇい!!」
「よっと」
右から殴られれば、首を傾けて軽々とかわし、
「ふぉぉぉぉぃ!!」
「はっと」
真正面からくれば、イナバウアーのごとく背を後ろにそむけてかわし、
「くらえよぉぉぉぉぉ!!」
「ひらりっと」
背後から隙をついてくれば、左手を添えるだけで見事にかわし、
「「よけるなこのやろぉぉぉぉぉ!!」」
「避けない馬鹿がどこにいる?」
らちが明かず堪忍袋の緒が切れた二人がラリアットをかまして来たら、ひょいっと飛び跳ねて見事に空振りをさせる。
「な、な、な、・・・・・ばかな!?あの二人はわたしよりでくの坊だが、それでも次期記事団長や副団長と呼ばれるぐらいの実力なんだぞ!!」
ルースが攻撃を回避する様を見て、驚愕するソークジ。
・・・・・そうはいわれても、こいつらってそんなに実力があるのだろうか。
詐称しているのではないだろうかと、ルースは疑いたくなった。
まぁ、日常的に学園長の特訓で、光球1万発回避訓練とかやらされていたりしたから、こういう回避術だけならかなり上に行ってしまったのかもしれない。
それでも、ここまで来ると周囲がざわざわとしてきて、少し騒がしくなってきた。
この機会にスアーンが周辺の野次馬に対して色々と漏らしたようで、きちんと向こうの屑貴族が、たった一人の平民が気に入らないからという理由だけで暴力を振るおうとしているのだが、その取りまきたちも馬鹿だったようで、いとも簡単に交わされ続けていると説明したようであった。
その事情を聴いたのか、野次馬たちからはこのよけっぷりに応援をかけ、そしてソークジ達には軽蔑の視線を向ける。
ようやくというか、状況が不利だと悟ったらしいソークジは、顔色をどんどん悪くしていく。
「ぐっ、くっ、ぐぅぅ、こ、こうなれば・・・・・」
何かを思いついたのか、彼は懐から手袋を取り出した。
「・・・・・おいおいまさか」
なんとなく、ルースは彼が何をしようとしているのか予想が付いた。
こういう場合、この状況が不利だと悟れば逃げる方が正しいのかもしれないけど、そう悟るほどの頭がなければ・・・・・
「こうなれば!正式に決闘をしろこの平民風情が!!」
手袋を怒声を言いながらルースめがけて投げるソークジ。
貴族の中には、手袋をぶつけて決闘を挑む者もいるそうで、このソークジはどうやら日を改めて再び挑めば勝てると思った様である。
ただし、ルースはそれをひらりと交わした。
「んなっ!?」
あっさりと交わされると、この状況をみても考えていなかったらしいソークジが驚愕の表情を浮かべる。
なんというか、ここまでくればやつの頭の中身は自分に都合のいいお花畑ではなかろうか?
諦めが悪いのか、どこに入っていたんだという位の手袋をソークジがどんどん投げつけてくるが、ルースは全て交わした。
‥‥‥よく見れば、手袋販売業者なる人が出てきて、その場で現金で売りつけているよ。それを買っては投げつけ、買っては投げつけとやっている。
うまい事ぼろもうけというか、商売上手はどこにでもいるようだ。
とはいえ、これ以上騒ぎを大きくはしたくないので、物凄く仕方がなく、わざとらしく受けることにルースはした。
ぺしぃ
「うわー、当たったよー(棒読み)」
(((((すっごい棒読みだな!!)))))
ルースの棒読みっぷりに、思わず周囲はツッコミをこらえた。
だがしかし、わざとルースが当たったことに気が付かないのは屑だけだったようだ。
「ふははははは!!これで貴様はもう決闘から逃れられない!!貴族のこの決闘に置いて、改めて平民とこのわたしとの格差を見せつけてやろう!!決闘場所は、この都市の外にある平野で、代理人もありな状況にしてやるからありがたく思えぇぇぇ!!」
高笑いをしながら去っていくソークジ。
その去り方は勝利を確信しているかのようであったが・・・・・この状況で、どうやって勝利を確信が出来るのだろうか?
その思考が謎ながらも、仕方がなくルースは決闘を受けることにして‥‥‥
「・・・あ、リディアさん。あの人あなたの婚約者のようですけど、徹底的に叩きのめしても大丈夫ですかね?」
ふと、ここであの屑野郎の婚約者でもあるリディア令嬢に許可をルースは求めた。
決闘という事なのだが、仮にもあんな屑でもこちらのお嬢さまの婚約者。
そんな輩がもしフルボッコにされたとしたら、貴族社会的には大丈夫なのかと問いかけたのだが・・・・
「・・・・ええかまいません。もうあの方は、先ほど堂々と浮気も公言していますし、お父様に行って婚約破棄を叩きつけますので、赤の他人です。徹底的に、それこそ彼の山よりも高そうなプライドを粉砕してかまいませんわ」
にこりと、彼女は返答したのであった。
とっくの昔に愛想をつかされているというか、もうあの男社会的に終わっていないだろうか。
それとも逆に、民衆の前で堂々と醜態をさらしたあの勇気を称えるべきだろうか?
・・・・・・決闘を受けたとはいえ、この状況では目立ってしまう。
ルースの黄金の魔導書に関して色々隠していたりするが、この際一気に見せたほうが良いのだろうか?
秘匿しても限界があるし、この際邪魔が出ないように徹底すべしなのか?
次回に続く!!
ちょっと最近更新が遅れ気味かも。でも、もともと不定期投稿だから何とも言えないんだよあんぁ・・・・・




