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82話

ちょっと短め

・・・・・・グリモワール学園がついに冬休みへ突入した。


 ただ、今回の冬休みは夏休みに比べて期間が短いのもあって、帰郷する人数は少ないそうである。


 そして、寮も解放されているので、ルースたちも帰郷しなかった。



「夏休みと違って宿題もさほど多くないし、こういう時は楽だな」

「それに、たまには男二人で適当に街へ繰り出すのも悪くはないな」


 都市メルドラン内で、ルースとスアーンは久しぶりに適当に宛もなくさまよっていた。


 


 こういう休みの期間の間、たまには無駄に過ごしてみたくもなる。


 そういう考えで、二人は寮から出て適当に歩んでいるのだ。



・・・・・ちなみに、ルースの場合は、いつもならエルゼにレリア、バトと言った面子がいるので、こういうのも新鮮であった。


「そういえば、今年は例年よりも早く冷え込むとか噂されていたけど・・・・そうなっているか?」


 ふと、さまよっているとスアーンがそう尋ねてきた。


「言われてみればそうだな・・・・確かに、冷え込んできたとは思うけど、寒すぎるってこともないな」

「むしろ、村よりも暖かいよな?」

「そうだな。まぁ、寒いよりはいいんじゃないか」

「そうだな」


 なんとなく冷え込みがそう厳しくもなく、むしろちょっとぬるい程度の気温である。


 まぁ、寒くなるとか予測されていたとしても、この世の中で常に予測通りになることはないだろう。



‥‥‥というか、気候よりも気になることはある。


「なぁ、スアーン。さっきから誰かにつけられているような気がするのだが」

「そういえばそうだ。・・・・・・さりげなく振り向いてみるか?」


 なんとなく先ほどから背中に視線を感じ、ルースとスアーンは自然に後ろを振り向いてみた。


 だが、そこにはいつものように人が行きかっており、誰が見ているということはわからない。


「自意識過剰ってやつかな?」

「うーん、なんとなく俺は予想がついているけど、多分え」


ヒュンッ!!

ドスッ!!

ボスッ!!


「「・・・・・・」」


 スアーンが言おうとしたところで、何かが横を通り過ぎ、壁に2つ刺さった。


 見れば、つららのような氷柱と燃え盛る火の玉が刺さっており、ルースは誰の仕業なのか理解した。


 

 おそらく黙らせようとしたのだが、その手段は逆にルースにその正体を教えてしまっている。


(・・・・・気にしない方針で行くか)

(ああ、そうだな)


 なんとなく諦め、ルースはそう小声でつぶやき、スアーンも命が惜しいのか返答するのであった。




・・・・・・一緒に来るのなら最初から言えば良いのに。陰から付いてくるとはどうなのだろうか?


 というか、約一名何してんだ。まともだと思っていたのにその化けの皮がはがれてきていないか?










「・・・・・ふぅ、バレずに済んだようね」

「なんにせよ、私たちの存在を察知されなかったな」

―――――イヤ、バレテイルヨネ?


 汗をぬぐうエルゼとレリアに、レリアの胸ポケットに入っていたバトはそうツッコミを入れた。



 彼女達は現在、こっそり後方からルースたちを追跡しているのだ。


 理由としては、実は学園長に頼まれていることがあった。



「しかし、学園長の言う通りルース君に対して探りを入れようとか考える様な馬鹿がまだいるとは、そのしつこさにはあきれるわね」

「まったくだ。謹慎中に存在が薄れて探りを入れてくる奴がいなくなるかと思っていたのだが・・・・・都市内にとどまってすぐにこれとは、欲深い奴らの察しの早さに感心するよ」

―――――不審者達、皆首ヲゴキットシテイルケドイイノ?

「こういう馬鹿たちにはちょうどいいのよ」

「ああ、それに護身術やこっそり近づいて襲う隠密の修行にもなるしな」


 それはもはや貴族の娘としてどうなのだろうか。


 バトはそうツッコミを入れたかったのだが、自分は妖精であり、人間たちは考えが変わりやすいので言うだけ無駄ではないかと思い、黙ることにしたのであった。




 なんにせよ、今回彼女たちが学園長から頼まれていたのは、ルースの周辺の護衛である。


 彼女達の権力を使えばより一層厳重にできるのだが、そういう時に限って本当に何も起きない。


 ゆえに、彼女たち自身が後方につくことによって、相手側に油断をさせて捕縛できるのではないだろうかという考えの下、今日はルースの後を付けて、その近くにいる不審者たちを魔法で溺れさせたり、燃やしたり、関節を逆方向に曲げてあげるなどして陰から守っているのである。


 ちなみに、バトには攻撃手段が余り無いので、バルション学園長は気をきかせて彼女でも扱いやすいように、超強力な麻痺薬や眠り薬を塗った針を持たせて、不審者どもに突き刺しているのだ。


「とりあえず、現在29名突破。この調子なら今日中に100名行けるかしら?」

「おお、それはそれで面白そうだな」


 ふふふふ、と笑いあうエルゼとレリア。


 事情を知らない者たちから見れば上品な美しい笑みなのだが、知っている者から見れば、好意を抱いている者に対する害虫駆除をしている恐怖の笑みを浮かべており、バトは改めて人間の底知れぬ恐ろしさを理解した。




―――――コノ二人、何デコウイウ時ダケ息ガ合ウノカナ?マァ、主様ニ害虫ガ付クノヲ防止スルノハ分カルケドネ。


 そう思いながら、バトは見つけた不審者の下に素早くとびかかり、その爪の間に針をぶっ刺すのであった。

・・・・・普段仲が悪くとも、共通の目的があれば手を組む。

呉越同舟・・・・とはちょっと違うかな?

次回に続く!

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