7話
ある意味主人公がうらやましい。
作者もモフモフした可愛い生物を愛でまくりたい。
‥‥‥犬や猫は苦手だけどね。可愛いと思うのに、なぜか怖く感じてしまう、そんな矛盾に悩んでいるのです。
‥‥‥ルースのモフモフ欲求が発散されたころ、ようやく何とか場のカオスな状況は収まった。
「ふぅ、物凄く望んでいたモフモフに思わず理性が吹っ飛んだよ」
「ルース君がモフモフを望むのなら、あたしがこの女狐の毛皮を全部はぎ取ってプレゼントするのだけどね」
【何やら命の危機を感じるのだが‥‥‥我、思いっきり召喚される相手を間違えたじゃろうか】
モフモフ欲求が発散され満足げなルースに、ルースをずっと奪われていたように感じて不満げなエルゼに、その嫉妬の視線を感じて命の危機を感じる九尾の狐。
はたから見たら、なんだろうこの集団と思うであろう。
【とにもかくにも‥‥‥ううむ、まだ足腰が余韻で動きづらいが‥‥‥お主が、我を召喚した者でいいのじゃな?】
「ああ、そうだ。お前を召喚したのは俺だ」
改めて向き合い、確認するかのように問いかける九尾の狐に対して、ルースは返答した。
【人間の中には魔導書とかいうもので、我々を呼び寄せる者がいると聞くが‥‥‥まさか、我自身が呼び寄せられるとは思っていなかったぞ。しかも、その召喚場でモフモフされるとはなぁ…‥】
少し遠い目をする九尾の狐に、少しルースは気まずくなった。
どうやら召喚されるモンスターはここ最近ほとんどおらず、今回の召喚でこの狐は少しだけワクワクしていたようなのである。
そんな矢先に、まさか召喚場でモフモフされまくるとは夢にも思わなかったのであろう。
【人間には、我々を呼びだして力の弱い者なら傷をつけて帰したり、力が強ければ無理やり従うように強要する輩もいた。だが、お主は‥‥‥力に関係なくモフモフしまくるという新しいパターンを創り出しおったな】
呆れたように言われて、なんか新しい例を作ったように言われてますます気まずいルース。
「仕方がないじゃない、ルース君は癒しが欲しかったのよ」
そんな一人と一匹のやり取りを見て、エルゼが会話に入ってきた。
【癒しじゃと?】
「そう、ルース君はこれでも苦労が多いのよ。シングルマザーであるお母様と暮らして、日常生活を手伝ったり、ツッコミが不在なカオスな場になったらツッコミを入れてくれるし、どこか困っている人を放ってはおけなくて、手助けをするような優しい人だし、私物がたまに無くなることがあるけど黙って我慢して、新しいものが手に入った時にはあたしは罪悪感でもっと質の良いものを渡しゴホンゴホン。まぁ、とにかく彼は優しい人であるがゆえに、苦労を背負いやすいのよね」
(‥‥‥今何か自供しなかった?)
(なんじゃろうか、この娘。この召喚主の事をどれだけ見ているのかはわかったが、どことなく犯罪臭が娘から漂ったぞ)
そうルースと、話を聞いていた九尾の狐は思ったが、先ほどの「毛を刈る宣言」の時の威圧を思い出し、そのツッコミを入れるのを止めた。
【ふぅ、まぁ事情は分かったのじゃ。召喚主よ、お主苦労しているのじゃなぁ‥‥‥】
話を聞き、なんとなくルースの苦労を察した九尾の狐。
哀れみの視線を向け、心から同情されているのだとルースは理解した。
【それほど苦労して、それで我を呼びだして癒されようとしたのであれば別に咎めはせんのじゃ。ちょっと気持ちよかったしのぅ。‥‥‥おい娘よ、ちょっとその水で出来たでかい包丁を持ち出すのはやめてくれぬか?】
九尾の狐の言葉に、はっとしてエルゼはそそくさと魔法の発動を中断し、ルースに見られる前に無かったことにしようとした。
だが、ルースは見た。
気持ちが良いと、この狐が言った際に物凄い殺気をエルゼが出していたことに。
‥‥‥モンスターすら恐れる殺気って、どれだけだよ。これで一応、公爵家の令嬢でもあるんだよ?
その後、九尾の狐とルースたちは話し合い、とりあえず召喚相手として再び呼びだすことがあった時に来てくれることを約束してくれた。
【まぁ、我でさえも知らぬ金色の魔導書を扱うのは驚いたが‥‥‥それで召喚されたとなれば、我も有名になるかのぅ】
どこか打算的なところがあるようだが、次回からまた呼びだした際にモフモフが確定しているのは悪い話ではない。
話し合って分かったが、この九尾の狐はどことなくジジババ風な口調をしているけど、中々気さくそうで親しみやすいのだ。
【とはいえ、次は手加減を頼むのじゃ。あれは魔性のモフモフの触り方‥‥‥我以外にモフモフしている者たちならば虜に出来てしまうかもしれぬが、逆に破滅を招きかねないからのぅ】
「モフモフでどう破滅を招くんだよ?」
「あれじゃないかな?ルース君のその手腕で、ついうっかりこの女狐の毛が抜けて埋もれるんじゃない?」
【我はそんな脱毛はせんぞ!?】
とはいえ、そろそろ時間のようである。
どうやらこの召喚魔法、一度呼びだすとずっといるのではなく、少々時間制限があったらしい。
「じゃ、もうお別れか…‥。そういえば狐、お前は何て名前だ?」
ここまで狐とかしか言っていなかったが、ふと気が付けば詳細な種族名や名前を聞いていなかったことをルースは思い出した。
【ん?我の名前ならないのじゃ。我はモンスターであり、人からは種族名で呼ばれてはおったが、もう忘れてしまったのじゃ】
「そうか。それじゃぁ、次呼ぶときにでも不便だし、今名前を付けようか?太郎丸とか」
【いや我はメスなんじゃが…‥‥そしてなんじゃその微妙なセンスは】
「良いんじゃない?惑わせる魔性の女狐にはそんな名前でさ」
その名前にウケたのか、エルゼがくすりと笑い、狐は拒否した。
となれば、別の名前の方が良さそうだな。
九尾の狐と言えば、妲己や玉藻…‥‥となればこれか?
「それなら『タキ』でどうかな?」
玉藻と妲己のそれぞれの名前を合わせただけだが、これならまだましだろう。
【ふむ。タキか…‥‥いいだろう、我の名前はこれよりその名前で名乗ろう】
うんうんと、満足げにうなずく九尾・・・・タキ。
【では、もう時間じゃし、そろそろお別れじゃ。再びモフモフしたければ、我の名を呼んで召喚せよ‥‥‥黄金の魔導書の持ち主よ】
そう言い残し、タキの姿がふっと消え、それと同時に描かれていた召喚用の魔法陣が消え去った。
次回以降の召喚で、再び魔法陣を描かずに召喚する際にはタキが出てくれるようだし、これによってモフモフ成分は補充できるだろう。
「ま、とにもかくにもいい思いしたなぁ」
「ルース君がご機嫌なら‥‥‥まぁいいか。今度あの女狐が出てきた時のために、毛皮をはぎ取る魔法でも模索しておきましょう」
‥‥‥何やら怖いエルゼの言葉は気にしないようにしつつ、ルースたちは帰路に就いた。。
ルースとしては、今回の召喚は己のモフモフ成分を補給できる相手を手に入れることができたのだという事で、満足いく結果になっていた。
だがしかし、ルースは知らなかった。
タキ・・・・あの九尾の狐は体が大きいだけで、そこまで強いモンスターだとはルースは思っていなかった。
けれども、実はかなりやばいレベルのモンスターだったのだが…‥‥タキはあえて口にしていなかった。
己の召喚主ならば、そんなことは気にしないだろうと考えて。
そして、その事実をルースは後々知ることになる‥‥‥
ちなみに、人型になるのかならないのかは検討中。
ありきたりのもどうかと思うし、かと言ってテンプレも大事だしなぁ。