70話
69話の裏話かな?
・・・・・・グレイモ王国の都市メルドランから離れ、馬車で2~3時間ほどの距離にある一つの屋敷。
そこは、ただ今回の件について話すだけに購入され、それだけでも金額はかなりかかるのだが、それをものともしないほどの資金や権力があることを示していた。
そして、その屋敷には今、ある一組の親子が対峙していた。
片方はエルゼ=バルモ=ミストラル。ルースの幼馴染にして、水色の魔導書を扱う少女。
ミストラル公爵家の3女だが、彼女は今目の前にいる父親のカイゼル=バルモ=ミストラル公爵を見据えていた。
カイゼルの横には、執事のセバスリアンが立っており、何があってもすぐに対応できるように黒色の魔導書を顕現しているのであった。
この屋敷に呼び出され、エルゼは冷静に状況を分析していた。
バルスト村の領主である父カイゼルは、普段村の方にある本邸か、もしくは王城近くにある貴族街の中にあり別邸にいるはずである。
だがしかし、なにやら重要なことを話すためだけに、わざわざこの屋敷を購入しているという事は、相当何かの面倒ごとの可能性が高いと彼女は思った。
「…‥お父様、今回は何の御用があるのでしょうか?」
入ってすぐに喋らないカイゼルに対して、エルゼはそう尋ねた。
「・・・・・うむ、娘よ。実は少々厄介なことになった」
「厄介な事?お父様だけでは対応しきれないような事があるのでしょうか?」
カイゼルの言葉にエルゼは首をかしげる。
このカイゼル公爵は王家とも繋がりがあり、そうそう脅かすような者はいないはず。
それなのに、厄介というからにはその権力外に当たることなのかとエルゼは予想した。
「ああ、その厄介事となったのはだな、お前も充分知っている相手・・・・・あの若造だ」
カイゼルのその言葉に、エルゼは眉を動かして何を言おうとしているのかわかった。
この父が若造という相手は一人しかいない。
父が認めていないような相手は若造とは言わずに基本馬鹿者とか、うつけものとか罵倒するのだが、そんな父は将来性などを認める相手には若造というのだ。
そしてその対象となるのは‥‥‥
「ルース君の事で、何か問題ごとでも?」
エルゼにとって好きでたまらない相手であるルースしか、その心当たりがなかった。
最近、帝国からの王女であるレリアも好意を抱いているようだし、ルースが召喚するタキもまたある程度の行為があるように思われ、出来るだけ自分のモノにしたいエルゼとしては厄介だが・・・・・
話はそれたが、どうやらルース関連で何かがあったらしい。
「王城の方であったことだが、今このグレイモ王国と北のバカたれコホン、ルンブル王国が戦争しているのは理解しているよな?」
「ええ、何やら秘密兵器が投入され、情勢が不利らしいという噂もあるのもしっているわ」
「その秘密兵器に関してだが‥‥‥どうやらフェイカーと呼ばれる組織が関わっているらしい。そして、それに対抗できるような相手を探るような輩がいるのだ」
・・・・・・公爵家としては、ルースはできればほしい存在。
今までにないような色の魔導書を顕現させたのもあるが、ルース本人の素質を見ぬいているカイゼルにとっては、まさに金の卵とも言っていいような相手でもある。
だがしかし、そのような金の卵を戦場へと考える様なやつがいるのだ。
「都市メルドランで起きた事件の事も、このセバスリアンは把握している。なんでも巨大な化け物がでたそうだが、あの若造が消滅させたという事もな」
エルゼが目を向けてみれば、セバスリアンが何やら一枚の容姿を取り出し、それを見せる。
そこには、あの時怪物へ向けて未だによくわかっていない魔法を撃とうとしているルースの姿絵があった。
その姿絵を作ったのは、おそらくセバスリアンの使用する闇魔法「姿写し」。
その魔法は対象の姿や景色を素早く写し取る魔法であり、お見合い写真などに使用される魔法でもある。なお、他の属性の魔法にも似たような物があるが、闇と光だけ姿がはっきりするのである。
だがしかし、その魔法を使用したとしても、あの時、あの場にはセバスリアンの姿はなかった。
・・・・・・つまり、誰にも気が付かれないような位置で彼はその魔法を使ったという事になり、セバスリアンもかなりの実力を持つことを示していた。
「それだけの実力を持っているのならいい。だがしかし、今はまだあの若造は成長過程だ。未熟でもあり、そのようなものを戦場へ送り込ませるのは良い判断ではない」
いかに力があろうとも、その力の使い道を間違った方へ使わせたくない。
それに、成長し切っていないような者を送り込むこと自体が言語道断なのである。
「だが、その力に勘づき始めた者たちがいる。そして、この戦争を終わらせ、なおかつ終戦したとしても悪用しようと企む馬鹿者たちがいることが判明したのだ」
ビキッツ!!
カイゼルのその言葉を聞き、エルゼのこめかみに青筋が浮き上がった。
「‥‥‥どこのどいつですかお父様。ルース君をそんな愚者のような奴らが利用するなんて、なんてひどいやつらでしょう。今すぐにでも、あたしの魔法で溺れさせ、凍死させ・・・・・いや、それですら生ぬるいわね」
ゴゴゴゴゴゴゴっと聞こえてきそうな迫力に、愛娘だけどついカイゼルは気圧されそうになった。
どうやら、ルースの利用を企むやつらの話で切れたようである。
この様子を見て、カイゼルは自分で動かなくとも、その手の奴らが勝手に潰されていくのではないだろうかと内心思った。
「いやまて、今はまだその時ではない。‥‥‥そもそも国王陛下に隠し子がいるぐらいだし、そんな王の下では確かに膿となるような者たちがいるのは間違いないだろう。陛下は王妃たちに搾り取られるのは確定しているが、今回の件はその膿となる輩への対処についてだ」
とりあえずエルゼをなだめ、カイゼルは本件に入る。
「で、その輩たちをどうすればいいのよ?魔法で首切って皮剥いで目玉をえぐり取るとかするの?」
「‥‥‥娘よ、そんなグロイ方法をどうやって思いつくのかは後で聞くとしてだ、その対処方法以外のやり方で対応がしたい」
カイゼルは少々呆れつつも、エルゼにその内容を聞かせた。
「‥‥‥なるほど。流石お父さま、あたし以上に腹黒いだけあって、中々真っ黒なやり方よね」
「この方歩であれば、何処のどいつを敵に回したのかもわかるだろう。ついでに、学園長殿は若造を教師の立場として守りたいと思ったようでな、そちらも協力してくれるそうだ」
「・・・・・あれ?いつ接触があったの?」
「その会議の場の後、退出後に素早く追いかけ、この案を持ちだしたら一発で返事がもらえた。ついでに、あの若造の周囲の防衛のために、色々と手を尽くしてくれるらしい」
「なるほど」
カイゼルの説明に納得して頷くエルゼ。
その顔は二人そろって真っ黒な笑みを浮かべていた。
「将来性ある若造のためにも」
「大好きな方のためにも」
「「どこのどいつを敵に回したのかを、はっきりと魂の底まで刻んであげよう」」
声がそろい、思わず笑うエルゼとカイゼル。
・・・・・・もし、ルースがこの光景を見ていたらどこのラスボスと裏ボスの会話だとツッコミを入れたであろう。
とにもかくにも、ルースのあずかり知らないところで、彼の周囲は着々と守備が固められていくのであった。
どう考えても、これ手を出そうとする相手いないよね?
出したとしたら相当詰むだろうし、逆鱗としか思えない。
・・・・・というか、主人公が今一つ目立たない。
次回に続く!!




