69話
歯茎に魚の骨が刺さった。
…‥抜けたけど、歯との間にぐさってかなり痛い。
冬が徐々に近づく中、戦争の情勢はどうやら余り思わしくないようだという噂が流れ始めた。
ルンブル王国側から何やら秘密兵器のようなものが投入され、被害が出始めたのだという。
「秘密兵器ねぇ‥‥‥だから戦争をこの時期にやって来たのだろうか?」
昼、食堂にてルースは昼食のメニューを食べながらそうつぶやいた。
本日の食堂メニューはカツ丼・・・・・・というか、生物的には豚ではなくモンスターの「オーク」と呼ばれるものからとった肉で作られたものである。
この世界は人間、魔族以外がモンスターとされており、その中でもオークはテンプレとも言うべきモンスターであろう。
繁殖方法がオーク以外の異性とであり、数多く存在するモンスターの中でももっとも嫌われる存在であるのだが、それなのになぜか肉がうまいと評判なのである。
その為、嫌悪すべき存在から食肉目的で狩りつくすべき存在とシフトされ、見つかればすぐさまオーク狩りの専門家たちが向かい、あっという間に討伐し、解体し、その肉は各食卓へ届けられるのである。
本日のカツ丼に出たオーク肉はどうやら昨日出現したやつのようで、この学園の食堂へ今回流されたようなのであった。
―――――旨イヨ!
小さく切り分けたカツにかじりつき、バトがものすごくうれしそうに触角を動かしキラキラした目で食べている。
「本来女性にとっての敵でもあるのだが、こうやって食材になると意外なほど旨いんだよな・・・・」
ちょうど同じ席で一緒に食べていたレリアもそうつぶやく。
ちなみに、エルゼは何か実家の方であったらしくて、一時帰宅という事で今この学園にはいない。
彼女のいるのは公爵家だし、何か王家からの方で重要な事でもあったのだろうか?
まぁ、お見合い話とかではないだろうな…‥‥あの親バカ公爵がそう許すわけもなさそうだし、エルゼも受諾はしないだろう。
というか、あのストーカーにお見合いしてくれる相手がいるのだろうか。事情を知らない人から見れば後ろ盾とかを考えると魅力的だろうけど、内情知ったら多分押し付けてくるな。
スアーン?ああ、奴ならば保健室にて気絶中である。
なぜなら・・・・
【にしても、ここの食堂はうまいのぅ。特に、このカツ丼が中々美味じゃ!】
「…‥タキ、そろそろ帰らないの?というか、送還したはずなのになんでここにいるんだよ!!」
【送還後に徒歩で来たに決まっているじゃろ。ほれ、学園長殿からの許可書もあるのじゃ】
横で人型になってカツ丼を食べているタキに対して、ルースがそう問いかけると、彼女は懐から許可書だという紙を出してきた。
実は昼前の授業が召喚魔法についての授業であり、タキを出した時にその悲劇ならぬ喜劇は起きた。
召喚魔法でタキを召喚したのだが…‥‥その場所がちょっと悪かった。
「『召喚タキ!!』」
いつもの通り、召喚してタキを出したのだが…‥タキが出る範囲の召喚場所に、運悪く吹っ飛んできたスアーンがその場所に落ちてきたのである。
なぜスアーンが吹っ飛んできたのかといえば、奴は違う科目を受けていて、本当は別の場所にいたはずなのだが、そこで何やら不幸にもすっころび、女子生徒の一人のスカートをつかみ、そのまま引きずり落とした。
で、その女性生徒には彼氏がいて、その彼氏は武術の科目を受けていたようで、その持ち前の武術で怒りながら昇〇拳というか、強力なアッパーをかましてスアーンをふっ飛ばしたらしい。
そして偶然にもふっ飛ばされた先が召喚場所であり、気が付いたときには召喚してしまい、タキがそのまま上からあの大きな九尾の狐の姿でぷちっと潰したのである。
幸い、モフモフな尻尾の部分で潰されたために衝撃が和らぎ、命は助かったのだがある意味不幸な事故であった。
そのまま保健室にスアーンは運ばれ、現在は気絶したままである。
まぁ、偶然とはいえ元はスアーンがやらかしたことなので何とも言えないが、おそらく目覚めるのは放課後辺りであろう。
その後、召喚魔法の授業は何事もなかったかのように行われ、タキを送還したはずだったのだが…‥‥どうやらお腹が空いていたようで、料理を作るのも何なので、楽しようと思ってここの食堂に来たのが理由だそうだ。
「というか、モンスターが料理なんてするのか?」
その話しを聞いていたレリアがそう尋ねてきた。
【うむ、するといえばするのじゃ。焼き払う・煮詰める・切り刻む・すりつぶすなどが出来れば、そこそこはできるかのぅ(味は保証せぬが)】
…‥物騒な言葉で言いつつ、ぽつりと小さくつぶやいたのは聞き逃さなかったぞ。
「ふーん、しかし面倒くさがって食堂に来るとは思わなかったけど‥‥‥良いのかタキ?」
【何がじゃ召喚主殿?いや、今は召喚されておらぬからルース殿と言ったほうが良いか?】
「それは自分の判断で任せるけど‥‥‥お前今人型だよな?」
【そうじゃが?元のあの姿で食すには少々不便じゃし、こっちの方が食べやすいのじゃが…‥】
「今エルゼはここにいないが、この件が知られたらどうするんだよ」
ルースのその言葉に、タキがぴしりと固まった。
【…‥ま、まぁ、大丈夫じゃろ。匂いをかいだりして見たが、今はこの学園におらぬようじゃし、知られなければ問題ないのじゃ!!】
物凄く動揺してそうごまかすが、ふとルースがレリアを見てみると、どうやらルースと同じ結論に至ったようで、どこか哀れな眼でタキを見ていた。
…‥‥エルゼのストーカー力を舐めないほうが良い。
彼女の手にかかればどんな情報だろうと瞬く間にさらけ出され、今タキがこの場に人型で来ているのを見ぬくであろう。
というか、人型になっているタキの姿はそもそも目立つ。
学生が利用する食堂で目撃されまくり、その美しさなどから見て噂になるのは間違いないし、そこからエルゼにかぎつけられるであろう。
となれば、待っている未来も予測可能である。
そう思い、タキを見た後、レリアと目を合わせるとやはり彼女もその予想が出来たのであろう。
そして周囲を見てみれば、他の生徒たちが嫉妬の目線で見るよりも、憐れんだ目でタキを見ていた。
エルゼの事をよく理解している同郷の奴らも同じ顔だ。
タキを待ち受けているであろう未来が見え、その場はちょっと重い雰囲気になったのであった。
・・・・というか、そもそもタキが面倒くさがって食堂に来るというのもおかしな話だよな?
いままで来る機会もあったのに、今日に限って一緒に昼食をとるとは意外というか、なんか裏があるような。
まぁ、難しく考えていてもどうしようもないし、別に良いか‥‥‥
副題としては、「表」とかのほうが良いのかな?
次回に続く!!




