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68話

主人公不在回

今回は少し真面目なお話

 グレイモ王国と仕掛けてきたルンブル王国との戦争。

 

 当初はこの戦争はどちらの戦力も同じぐらいだが、グレイモ王国の方が練度が高く、またモーガス帝国の支援もあるのでグレイモ王国側の方の勝利で終わるだろうと予想されていた。


 一応、驕っていては負ける可能性も高かったので油断せずに戦争に対して兵士たちは真剣に挑み、現在ちょうど互いの国の国境沿い…‥ややルンブル王国側に押し込んで、グレイモ王国が優勢の状態となっていた。




 そんな戦況で、もうしばらくすれば何とかルンブル王国側の兵士たちを押しきり、撤退させることが出来るだろうと思われていたその時であった。






 『ソレ』は朝早く、突如として戦場に投入された。




・・・・・・ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


「ん!?なんだありゃ!?」

「ルンブル王国側から何か来るぞぉ!!」



 地響きと共に、グレイモ王国へめがけて何かが突撃してきた。



 ルンブル王国側の魔導書(グリモワール)を扱う者が、召喚魔法で何かを召喚し、仕向けてきたのだろうか?


 いや、そんな話は聞いたことが無いし、それに召喚魔法で呼びだされたモンスターにしては、『ソレ』は異形すぎる様子であり、瞬く間に勢いそのまま攻めてきて、グレイモ王国の兵士たちに損害を与えていくのであった‥‥‥‥











「な、なんだと!?」


 グレイモ王国の王城、戦争に関しての会議をしている会議室にて、国王ハイドラはその報告を聞き、思わずそう叫んだ。


「その報告は本当なのか!?」

「はっ、間違いありません!!連絡を取ったところ、某日未明、突如としてルンブル王国側から謎の生き物とでもいうべきか、そのような者たちが突如として出現し、またたく間に我々の軍に大損害を与えてきました!!」



 何かの間違いであってほしいと、その場にいた家臣の一人が尋ねたが、間違いないという事を再度報告された。



「詳細は不明の化け物で、軍に損害をか‥‥‥あの国が戦争を仕掛けてきたのは、まさかそれがあったからか」


 戦争するにしても、もう間もなく完全な真冬になるこの時期。


 北のルンブル王国が戦争を起こそうにも、国民への影響が確実に懸念される時期でもあり、戦争を仕掛けようにも食料不足などに陥って途中でダメになる可能性もあった。



 それにもかかわらず、戦争を仕掛けてきたという事は、その前に勝利する可能性があり、それでやって来たのであろうが‥‥‥


「そんな物があるならば、何故最初から使用しなかったんだ?」

「準備に時間がかかっていたか‥‥‥もしくは、士気の下降が目当てでしょう」


 誰かの疑問に対して、この状況を冷静に判断した家臣の一人が発言する。



「我々はもう勝利も間違いないだろうと思っていました。ですが、そこから逆転されるような者が投入され、しかも圧倒的な損害を喰らった時、現場にいる兵士たちはどう思うでしょうか?」

「…‥なるほど、勝利を目前にして、逆転されるとかなりの煮え湯を飲まされたような気分になるな。それと同じか」

「そういう事です。逆に、相手側は不利な状況が一転、攻勢に回れたことで士気が向上し、戦場の風向きが我々にとって向かい風に変わってしまうでしょう」



 その説明に対して、場の空気は重くなる。


 しかも、未だにその損害を与えた者についての詳細も分かっておらず、現状打破する手立てが見つからない。



「…‥いや待てよ?その正体不明なものは…‥もしかしてフェイカーによる新たな兵器ではないだろうか?」

「まさか!?あの組織が今度はルンブル王国側につき、この国を滅ぼそうとでも企んでいるのか!?」


 反魔導書(グリモワール)組織フェイカー。


 その動きは今年に入って確認されており、再び息を吹き返しているのは分かっていた。


 そして、20年前にその組織を潰したこの国を恨んでいるのは間違いなく、ちょうどこの機会にルンブル王国に接触し、グレイモ王国を滅ぼすのに手を貸すのはあり得ない話ではないのだ。




「‥‥‥事態は非常に重いと見てまず間違いないだろう。あの組織は倫理的にも許されざることもしているし、今回のその正体不明の異形のものも‥‥‥その組織が新たに作り出したものとして見ても、ほぼ間違いない」


 ハイドラ国王のその言葉に、場の雰囲気がさらに重くなった。



「でも、どうしろというのだ!!」

「このままあの国に降伏しようにも、どうせ法外的な賠償金をむしり取られたり、国民への食糧配分と言って、わが国の食料を根こそぎ奪っていくのかもしれない!!」

「もしくは、資源を狙って主要個所を奪っていくかもしれないが・・・・・どう対応しろというのだ!!」


 会議室での議論だが、全くいい対処法が見つからない。


 有効打もなく、このまま放っておけば被害はさらに拡大していくであろう。





 そんな中で、一人がふと思い出したかのようにつぶやいた。


「…‥まてよ?正体不明の怪物と言えば、収穫祭の時期に、都市メルドランでも確認された報告があったな。それは一瞬で消えうせたと言う話もあったが‥‥‥」


 その言葉に、聞いたことがある者たちは気が付く。


「そういえば、そういう話題もあったな‥‥噂では一種の幻覚とも言われていたが‥‥」

「いや、明らかな情報操作で何かを漏れないようにしているのであろう。その噂が嘘ではないと思えないし、その根拠が何かあるはずだ」



 そうつぶやき、その者たちは会議室の中にいた‥‥‥ちょうど、この場に来て、意見を聞いていたバルション学園長へと視線を向けた。



‥‥‥バルション学園長。都市メルドランにある魔導書(グリモワール)を扱う者たちを育成するグリモワール学園の学園長にして、この場でも実はかなりの権力を持っていた。


 そして、何かできるとしたらこの人物しかおらず、皆はその内容を白状するように見てきたのである。



「‥‥‥あいにーくだけど、答えられなーいよ」


 視線にさらされながらも、バルション学園長はそう答える。


「うそだ!!貴様は絶対に何かを隠しているはずだ!!」

「煙に巻くようにしても、ごまかせはせん!!」


 バルション学園長に対して、高圧的に出る者たち。


 だが、その者たちに対してバルション学園長は威圧を込めて、冷たいまなざしで見た。


「‥‥‥はぁ、嘆かわしい事だ。人を脅すようにして、それで簡単に口を割ると思うのか?いや、むしろ普段からそのような事をして、何かいかがわしい事でもやっているのか?」


 いつもの延ばす口調ではなく、静かに述べる学園長のその冷ややかな言葉に、高圧的にとっていた者たちは背筋に悪寒が走り、思わず黙り込む。


 

 魔導書(グリモワール)を扱う者としてもバルション学園長が超一流であるのは間違いなく、本当は戦場に出てくれれば確実にこの状況をひっくり返せるのであろうが…‥‥彼女は自身が戦うのは苦手だと言って、あくまで回復などに徹しているとして、戦場に出ずに都市内に普段はとどまっている。


 こんな彼女がなぜこの会議の場に出てきたのかといえば…‥‥この話題になる可能性もあり、その為わざわざやって来たというのが正しいのであろう。


 ‥‥‥どう考えても、回復よりも戦場を蹂躙する悪魔と言った方が正しいのではないだろうかと、その場にいた全員は思っているのだが、どこ吹く風という様子である。




 硬直したその場の空気に、ハイドラ国王は動いた。


「・・・・・バルション学園長、ではせめて、話せる範囲だけでもどうにもならないだろうか?」


 国王はそう、バルション学園長に尋ねた。



 命令としなかったのは、この場で威圧的にやれば先ほどの者たちのように黙らされるのは分かっている。


 でもハイドラ国王はこの国の国王だ。


 少々下半身がだらしなく、隠し子がかなりいると噂されていても、それでもこの国のトップ。


 学園長は少し考え、限られた事だけを話すことに決めた。



「‥‥‥そーだね、まずはその都市に出た怪物だーが、それは本当にでーたんだよ。でーも、ちょうどその時にモーガス帝国の王女も巻き込まれーていて、迂闊に情報が洩れれば帝国との関係にひびがはいるーのだと思ったから、ある程度の制限をかーけて情報を保護したんだーよ」


 バルション学園長の言葉に、その場にいた者たちは思い出す。


 確かに現在、モーガス帝国の王女がグリモワール学園に留学していると言う話は聞いたことがあった。


 そして、その王女が巻き込まれていたと言う話は確かに下手をすれば帝国側に見限られ、今の状況を更に悪くする可能性があったのである。


 そうおいそれと話せるわけでもなく、少しづつ帝国に話していき、何とか収めてもらっているのだとバルション学園長はそう話した。


「だが、そうであるならばその怪物はどうなったのだ?」

「それーはもちろん、倒した者が、いや、瞬時に消滅さーせた者がいる。…‥‥けれども、それを話したところで、あなた方は彼を戦場へ送り込もうとしますよね?」


 伸ばした口調から、また真面目な口調に戻ってバルション学園長はそう全員に尋ねてきた。



「あ、当り前ではないか!!それだけの実力があるのならば、今のこの状況も‥‥‥」


 返答しようと勢いよく一人が言ったが‥‥‥バルション学園長の冷めた目つきを見て、思わず黙り込む。



「…‥詳細は述べません。ですが、私は学園長。生徒を守る義務があり、そして生徒を戦場へ行かせたくないという思いがあります。そもそも、そんな一人が出たところで本当に戦況が変わると思いますか?…‥それに、仮に戦況を変えたところで、貴方たちは今後その者をどう見るのでしょうかね?」


 バルション学園長のその言葉に、これ以上は踏み込んではいけないとその場にいた者たちは本能的に理解する。



 強い力を持つ者がいれば、確かに心強い。


 出来れば戦場にでて、この状況をどうにかしてもらえたらいいと思っているのだが‥‥‥その後をどうするのか。


 そして、バルション学園長はふと思いついたかのように、とある話を始めた…‥‥



 

…‥過去に、とある国には「光の魔女」と呼ばれた者がいた。


 その魔女はありとあらゆる不利な戦況も瞬くまにひっくり返し、その国を勝利に導き続けた。


 だがしかし、その力に魅せられた者たちが次第に悪用しようと考え、その魔女を酷使し続け、働きたくないと魔女が言ったある時、彼女の家族を人質に取り、無理やり酷使した。



 そして彼女が帰ってきた時、彼女は深い憎悪を抱いた。


 なぜならば、戦場に向かわされていた間、彼女の危険性を考えた者たちの中でも、思いっきり大馬鹿者が人質にしていた家族をついうっかり殺してしまい、その事が知られたのである。



…‥味方であれば、絶対的な勝利の女神のように魅せた彼女。


 だが、それは逆に敵に回れば絶望をもたらす破壊者となる。



 その国はまたたく間に怒り狂った彼女に滅ぼされ、一夜にして戦によって得た物で栄華を誇っていた国は消え失せ、その魔女もどこかへ去った‥‥‥‥






 その話を終え、バルション学園長は静かに退出する。


 そして、その場に残された者たちはその話を聞き、本当にこれ以上下手に踏み込めばまずいのだと理解し、きちんと今できる限りの範囲でどうにかしようと議論を始める。






 だがしかし、そのような例え話を出されたところで、考えを改めない者もいるのだ。


 勘づいた者はその者を止めようとしたが、気が付いたときにはすでに遅かったのである…‥‥









‥‥‥さてと、この話を聞きどう出るか。

愚者は愚者と出るか、それとも賢者が被害を抑えられるか。

強い力は希望にも絶望にもなるという事を、例えたのにね…‥‥

次回に続く!!


というか、そんなことをする前に他の権力者がどうにかして止めるだろうな。

もしくは…‥‥

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