66話
ちょっと主人公不在回
前回、寒い湖の中に入ったし、今回は休ませよう。
「‥‥‥予想通りといーうか、よーくこれだーけの人が捕まったわね」
都市メルドランの衛兵たちが集まる詰所、その奥の地下牢で捕縛されている者たちを見て、バルション学園長はそう呆れたような声を出して呟いた。
彼らは昨日、バルション学園長がルースたちを訓練と称して都市外へ連れ出した時に、都市から出てきた不審人物たちである。
他国の間諜、いわゆるスパイとでもいうべき人達であり、この機会にちょっと釣ってみてどのぐらいいるのかを調べるだけであったのだが、ここにいるだけでも十数人と、中々の数が潜入していたのだ。
ちなみに、捕縛時は衛兵たちが協力してはいたが、大半が学園長の魔法で捕えていたりする。
ルースたちが泳いでいる隙に魔法で自身の幻影を創り出し、こっそりと離れて捕縛しに向かっていたのだ。
「で、ほーとんどがルンブル王国からってこーとね」
「はい、間違いないようです。丁寧にお話(と言う拷も・・・)をしてもらったところ、全員がそういいました」
見張りの衛兵の一人に尋ねると、すぐにどこから来たのかという情報を話してくれた。
「‥‥‥ルンブル王国ね」
学園長もたまに聞く、現在派閥争いが激しいとされている北の方にある国である。
好戦的、臆病、優柔不断などと統一性のない言われ方をされているようだが、その国から間諜がこうも送られてきているとなると、何かを企んでいるのは間違いないだろう。
「戦争が案外近いのか―もしれないわね」
敵国内に間諜を潜り込ませて、攻めやすい場所などを調べるのは定石手段。
だがしかし、人数がややさかれ過ぎているような気もバルション学園長はしていた。
そもそも、北から仮に戦争を仕掛けてくるのであれば、この都市に進行するまでにいくつかの都市が立ちはだかるはずである。
それなのに、ここにこれだけの人数が投下されているのも妙な話しなのだ。
「‥‥‥あら?」
ふと、バルション学園長は捕縛されている間諜たちの懐に、何かを見つけた。
ぐいっと奪い取り、見てみるとそれは小さな袋のような物。
だがしかし、その袋の色は何色とも言い難いような不気味な色をしており、中身を探って見れば‥‥‥不気味な色の液体があった。
「…‥ねぇ、所持品検査あまーくない?」
「いえ、こいつらの手が動かないようにしっかり捕縛したので、全部を奪い取るまではないとここの上司が…‥」
バルション学園長がそう尋ねると、見張りのその衛兵は何処かごまかしたそうな顔をした。
「‥‥‥もしかーして、後で全部取って私腹にすーるために売るためか、もしーくは何もできなーいだろうとろくに考えーていない阿保上司なのかしら?」
「…‥‥ついでに、部下の仕事を奪い、脅し、上へ訴えを握りつぶす奴でもあります」
「よーし、無能と他国との繋がりがあーるかもしれない容疑で解任決定ね」
勇気を出していったらしい衛兵に笑顔を向け、バルション学園長は速攻でその処分を自ら伝えに行くのであった。
数分後、詰所では不正をこっそり行っていた上司が締め上げられ、隙をついて反抗しようと試みた結果、翌日のルースたちの訓練に、魔法(ランス系ですごくとがっているやつ)の動く的として使用される目になったのは、また別のお話である。
学園へと戻り、バルション学園長はこの件について国王へ手紙を出した。
この都市にだけでもこれだけの間諜がいたことから、他のところに潜り込んで工作などされている可能性もある。
そして何よりも、北のルンブル王国との戦争の可能性についても入念に書き入れ、対応策の検討を進めておく内容も入れておくのであった。
‥‥‥戦争になった際に、この学園の生徒がすぐさま戦力として駆り出されないようにするためにも。
また、何やら嫌な予感がするので、念のためにこのどさくさに紛れてフェイカーが手出しを出してくる可能性も踏まえて、バルション学園長は黙々と考え始めるのであった‥‥‥
ちょうどその頃、北の国のルンブル王国では、開戦派が突如として動き出した。
その動きが余りにも早すぎたために、穏健派や中立派は抑えこまれ、一時的に国政が掌握されてしまった。
それから1週間後、ルンブル王国はグレイモ王国へ向けて宣戦布告を出すのであった。
ルンブル王国からの宣戦布告。
これを受け取ったグレイモ王国はすぐさま対応に乗り出す。
だがしかし、そこには想定内とも想定外とも言えるような、どっちなのかはっきりしないようなものが投入されるのであった‥‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥こういう戦争とかって、本当はあまり書きたくないんだよね。シリアスになりやすいというか、面白みに欠けるというべきか、今一つ盛り上がりに欠けるというか。
この世界だと魔導書があるし、戦法も多くありそうなんだよなぁ。




