56話
少々、時をさかのぼり‥‥‥
‥‥‥都市で秋の収穫祭が開催される、その3日前。
都市内にある路地裏にて、密かに集まる者たちがいた。
「そうか、完全にモーガス帝国でも警戒され始めたか」
「ああ、やはりただの何の考えなしの行き当たりばったりな集団に道具をいくら渡そうが、たいしたことにならないのはこれではっきりしたがな」
この間の一件‥‥‥都市内では『一瞬で消えた謎の巨大タコ』や『進撃の怪物』などとして噂されている事件があって以来、警戒がやや強化されている。
それでも、そこには必ず抜け穴と言う物が存在するのであり、彼らは‥‥‥反魔導書組織グリモワールの一員で、ここに潜む間諜たちは、この路地裏へ集合し、次の指示が来るまでの間、情報交換を行うことにしていたのだ。
「‥‥‥ちょうど試作品だったマジックアイテムの数々は少々改良の余地があるとはいえ、その効果は目の当たりに出来た」
「だがなぁ、あの人間を止めて高位の存在へ至ろうとした薬は失敗だったな。あれはただの化け物とした言いようがない」
「そこは組織の開発班に言ってくれ。俺達は間諜であり、変装して商人に化けて売るしかない‥‥‥いわば、現場と内部の違いによるものだ」
グダグダと文句を言いつつ、彼ら情報交換を進めていく。
「そういえば…‥あの怪物となったやつ、あれはいったいなぜ急に消えたのだろうか?」
「急激な変化で耐え切れず、自己崩壊を引き起こしたのではないだろうか?」
「いや、あれはどうやら魔法によるものの可能性があるようだ」
「あれだけの体積があるやつを一体どうやって消滅させる魔法があるんだ?」
「‥‥‥黄金の魔導書を持つ奴が、消滅させたという可能性がある」
「「「!?」」」」
怪物の話題で出てきた疑問に、間諜の一人がつぶやいたその言葉に、全員が反応した。
「…‥そうか、そう言えばあの臨床実験台になった者たちが誘拐した中に、紛れ込んでいたよな」
「遠くの方から観察してみたが、どうも強力な魔法が扱えるようだ。屋敷を吹き飛ばしたり、強大な力を持つモンスターを召喚したりと常識を壊すというのはこういう事なのかと学べてしまった」
「ん?ならお前はあの失敗作の怪物が消える瞬間も見ているんじゃないか?」
「いや、そのどさくさで飛んできた流れ弾というべきか、天から落ちてきた燃える屋敷の破片が直撃してな‥‥‥気が付いたら終わっていたんだ。ほら、見ろよこの無くなってしまった無毛地帯を」
「‥‥‥それはなんというか、ご愁傷様だな」
その間諜の痛々しいような、それでいてピカピカしている頭頂部を見て、その場にいた全員は何処か重い雰囲気になった。
哀れというか、仕事が仕事ゆえにリスクがあるのは理解しており、覚悟もできているのだが…‥‥
「とにもかくにもだ、あの金色という今までにない魔導書の色を持つ奴はしばらくの間うかつに接触しないほうが良い」
「そいつは気が付いていないようだが、どうも周辺の警備が強化されているからな。帝国の王女がいるからというのもあるかもしれないが、この国の公爵家の令嬢もいたせいか、気が付かれないよう密かに守りが固められているからな」
「しかし、言い換えればそれだけの力を持ち、重要視されているという事である…‥‥ならば、どこかでこちら側に引き込めればいいのだが」
うーんとうなる間諜たち。
「‥‥‥そうだ、その者は一応男だろう?」
「ああ、そのようだがそれがどうした?」
「ならば、古来より伝わる方法で籠絡させるか、もしくは使い物にならないほど骨抜きにしてやればいのではあかろうか?」
その提案に、皆はなるほどとうなずく。
「その手の部隊を要請したとして、どのぐらいで準備に取り掛かれそうだ?」
「そうだな‥‥‥3日後、つまり収穫祭が始まる頃合いまでには終わるだろう」
「ならば、あとはそいつらに任せよう」
そう情報交換も企みの練り合いも終わり、報告へ向かうために解散する間諜たち。
果たして、彼らのその企みがうまくいくかは、神のみぞ知る…‥‥
「‥‥‥なんでしょう、ルース君に何か危機が迫るような気がするわね」
エルゼは密かに、乙女の勘で何かを感じ取ったのであった。
あ、これ完全に失敗するやつだ。
鉄壁のディフェンスがいるんだが。
すでにその間諜たちの作戦が失敗に終わっているような気がしつつ、次回に続く!!




