53話
中身としては短め?
‥‥‥上か下、どっちが本体であろうか。
【【ウボァァァァァァァァァァァ!!】】
先ほどまでのディゾルブゴーレムの巨大な上半身、それ以上に大きな巨大なタコのような下半身が、地中から出現し、共に雄たけびを上げて大気が震えた。
「二人混ざっていたから、頭が二つあってもおかしくはなかったけど‥‥‥バランスおかしいな!?」
思わず、ルースはそうツッコミを入れた。
見る限り、巨大なタコの頭に人が下半身から突き刺さったようにしか見えない。
そして、そのタコの部分がでかすぎる。
「流石にこんなのに勝てるかぁぁぁ!!」
「でかすぎでしょ!!」
「小さな虫の気持ちがよくわかるなこの状況!」
【うわぁ、我よりも大きなモンスターってなんか久し振りじゃなぁ】
思わず叫ぶルースたち。
なんかもう、圧倒的不利な状況である。
【とりあえず、ここは逃げるのじゃ!!】
だっ、と背を向けて駆けだすタキ。
流石にこのサイズ差は分が悪すぎて、勝負にならないであろう。
その為、戦略的撤退が正解のようだが…‥‥そうは簡単にいかない。
【【ウボアァァァァァァァァァァ!!】】
ディゾルブゴーレムが雄たけびを上げ、その巨大なタコ足を振りかぶって来た。
見た目は先ほどまでのものと同様、超ドロドロしており、潰されるかそのドロドロに溺れる未来しか見えない。
タキが必死になって駆け抜けるが、いかんせん相手がでかすぎてかわしようもなく、その直線状から逃れるすべはない。
「もうだめか…‥‥!!」
振り下ろされ、目前に迫る巨大触手をルースが見たとき…‥‥
‥‥‥世界が停止した。
「‥‥‥え?」
なんというか、目の前に迫っているのに動いていないような光景。
見てみれば、タキの身体も、隣で目をつぶって覚悟しているエルゼやレリアも動いておらず、この一瞬の間に、その停止した時に放り込まれたような感覚をルースが感じた、その時である。
―――――主ヨ、助カリタイカ?
「っ!?」
その声に驚き、振り返ってみれば、そこには顕現した状態のルースの金色の魔導書が、宙に浮いて発光していた。
ページが開かれてはいるが、そこには何も書かれてはいない。
ただ、真っ白なそのページから聞こえるような声は、以前にも、あの夢の中で出会って話をした時と変わらないままである。
いや、少し異なるとすれば‥‥‥停止した時間の中のようだが、ここは現実。
夢ではなく、現実の中で魔導書が声を出したのである。
そしてその問いかけに対して、ルースが答えられるのは一つしかない。
「…‥ああ、助かりたい!ただし、俺だけじゃなくてエルゼやレリア、それにタキも助けて欲しい!」
魔導書に向き合って、ルースはそう叫ぶ。
この際、この絶望的状況から助けてくれるのであれば、そして友人たちを助けてくれるのであれば、魔導書にすがってもいい。
どうにかできるのであれば、どうにかしたいのだ。
―――――尋ネルマデモナイカ。自身ノ身ダケデハナク、他人スラモ一緒ニトイウ思イガアル、ソレデコソ、我ガ主デアル。
ルースの問いかけに、もう答えは出ていたという事が分かっていたかのように、微笑んだような優しい声を出す金色の魔導書。
―――――トハイエ、主ノ今ノ状態デハ実力不足。精々数十秒トイウ短イ間デシカ、主ノ体二アル『力』ハ解放デキナイ。
「俺の体にある力?」
―――――アア、ソウダ。主ノ前世ノ死因デモアル『力』ダガナ。
その言葉に、ルースは首を傾げた。
何にせよ、その死んだときに何か力がルースの中に入り、それは今もなお体内に眠っているのだと、魔導書はそう告げる。
そして、その『力』とやらは今のルースでは実力不足なので数十秒の間しか目覚めさせることしかできないが、それでも使いようによってはこの状況から助かるというのだ。
――――――ソレヲ告ゲルタメニ、今時間ヲ我ガ止メ、ソシテ答エハモウ聞イタ。サァ、主ヨ。今ココニ、解放シヨウ。
魔導書が輝き、その真っ白なページから何やら光の粒子のようなものがあふれ出し、ルースの体に浸透していく。
そして、浸透し終えたその瞬間、ルースは一瞬何かを幻視した。
そこは、何処の世界ともわからない場であり、誰かが戦っている風景。
力を持ち、守るべき物があるのに、孤独でもあった者たち。
そのほんの一瞬だけの幻視を終えると、時は動き出し、巨大な触手がもう目の前に迫っていた。
この距離では、普通すでにもうあきらめているだろう。
だがしかし、不思議なことにルースはそうは思わなかった。
先ほどの光景や、魔導書が解放したという力については気になるところもある。
けれども、今やるのは‥‥‥目の前の対象の消滅のみだ。
すっと手を前に出し、顕現させた魔導書をもう片方の手でもち、そしてじっと敵の全体をルースは素早く見て、魔法を唱えた。
「『--------------』」
何を言ったのか、自分でもよくわからない。
だがしかし、その魔法は発動し、魔導書が強く輝き…‥‥気が付けば、ディゾルブゴーレムが金色の粒子となって空に昇り、消滅していった。
抵抗や雄たけびもなく、何もなかったかのようにほんの一瞬の間でその巨体は消え去っていた。
幻ではない証拠は、その重みで潰され、砕けていた地面の後ぐらいであろうか。
そのあまりにも突然すぎる光景に、タキが足を止め、驚愕の表情で消えてしまったその後を見つめる。
エルゼもレリアも一体何が起こったのか、まったくつかめずに驚愕の表情をした。
そして、ルースは魔法が成功し、何かが再び眠るような感覚を感じ取り‥‥‥そのまま気を失うのであった。
その傍らで、ルースが気を失ったことにより、顕現状態から消える魔導書が、いつもと違う金色の発光をしていたことに気が付く者は、誰もいなかったのであった‥‥‥
‥‥‥ほんの一瞬、ルースは魔導書から力を解放させられ、そして敵を消滅させた。
光の粒子となり、相手は天へ昇って消滅していき、その場には重みの形跡しか残っていない。
一体何が起きたのか、つかめぬ間にルースは気絶したのであった。
次回に続く!!
―――――――
『本編に入れたかったけど、少々カットした部分』
ルース気絶後:
【あ、召喚主殿が気絶したら我は!?】
ドロン!
「…‥あの女狐消えてしまったぁぁぁぁ!!」
「そこそこの高さがあるから急に消えられると非常に困るんだが!?」
「(気絶中)」
‥‥‥その後、三人とも仲良く地面にたたきつけられたのであった。




