51話
ちなみに、威力が馬鹿みたいに高くなった原因は指向性を持たせてその方向に力が集中したせいだということにしています。
科学的におかしいところもあるかもしれませんが‥‥‥まぁ、魔法ですのでそのあたりのツッコミはご勘弁ください。
‥‥‥天井が吹き飛び、そこから見える青空に輝く太陽の位置から、今は大体昼過ぎぐらいだとルースたちは理解した。
「ちょっとこれ、下手すりゃまずかったかもな…‥」
上部が吹き飛び、地下室に地上の光が差し込んでいる状態から、ルースはそうつぶやく。
先ほど使用した、三人の力を合わせての大爆発。
指向性を持たせて上部のみを吹き飛ばせたとはいえ、もし失敗して全方位に向けての爆発だった場合、ほぼ確実に悲惨な結末になっていたからだ。
「少なくとも、合わせてこれなのはとんでもないわよね」
「魔導書の扱い方次第では、こんなこともできるのか…‥」
シャレにならない威力に、エルゼとレリアはごくりと唾を飲み込んだ。
原理自体は単純。
再現するのも、ルース抜きだとしても黄色や水色、赤色の魔導書を持つ者さえいれば、さほど難しくはないだろうが‥‥‥それ故に、簡単に戦争などに利用される可能性はあり、その危険性に気が付いたのである。
「っと、そんな呆けている場合じゃないか。『召喚タキ』!」
今のこの状況を思い出し、ルースは素早くタキの召喚を行った。
おなじみの煙がぼふっと出た後、召喚時になっている巨大な九尾の狐の姿のタキが、その場に姿を現した。
【ぬ?召喚主殿に呼ばれてきたが…‥‥なんじゃこの状況!?】
召喚早々、周囲の吹き飛んだ光景に驚愕したのか、タキはそう叫んだ。
「こ、これがルースの召喚したモンスター…‥あの尻尾、確かにモフモフしたいな」
タキを見て、ぽつりとレリアはそう言葉を漏らした。
うん、その言葉には非常に同意できる。モフモフを理解しているのであれば、あとでタキを存分にも降らせてあげよう。
タキ本人の意思?それは‥‥‥まぁ、うん、強制という事で。
「タキ!ここから俺たちを背負って、この場から都市メルドランまで逃げるのを手伝ってくれ!」
【メルドランへかのぅ?ここからすごい近いぞ?】
「え?」
タキのその言葉に、ルースたちは首を傾げた。
とりあえず周辺の状況把握のために、タキの背中に乗り、元地下室だった場から飛び出て地上に降り立ってもらうと…‥‥
「‥‥‥ああ、確かに近いといえば近いな」
「あれは時計塔ベルビックン‥‥‥思っていたよりは近い位置ね」
「確かに間違いないな。少々小さく見えるとはいえ、帰れぬ距離ではないな」
地下室だった場所の低い視点からはわからなかったが、地上の視点に戻ると、やや遠くの方に都市名物の時計塔ベルビックンの姿をルースたちは見つけた。
どうやら、すぐさま国外とかまで運ばれてはおらず、いわばこの場所はルースたちを攫った者たちが拠点として利用していたに過ぎないところだったのであろう。
「ま、いいか。探す手間も省けたし、このままタキに乗って」
ブシュッツ!!
「っ!」
タキに乗ってこのまま楽して向かおうとした時、その音が聞こえた。
その音は、ここに来る要因となった‥‥‥眠り薬が混入していたらしい煙の発生音である。
音がした方向を向くと、案の定、モクモクと急速に白い煙が立ち込め始めていた。
しかもスピードが早く、あっという間にリューたちの周囲をその煙がとり囲んだのである。
だがしかし、2回目となれば馬鹿のように同じ手にかかるほどルースたちは阿保ではない。
すばやく息を止め、吸わないように対策をする。
そして、タキの方は煙がうざったいのか、尻尾を回し始めた。
ぶんぶんと勢いよく、九本もある尻尾が動き、あっという間に煙は散らばって溶け込んでいった。
「ふぅ、タキのおかげで早めに対処できたな」
【当然じゃな。何やら臭い煙ゆえに、嗅ぎたくなかったからじゃ】
ルースの言葉に、タキがエッヘンというかのようにそう返答を返す。
そして煙の発生源の方へ彼女は体を動かした。
【‥‥‥ほぅ、どうやらお主達が原因か】
「ひぃぃぃっつ!?」
「な、なんだこの化け物は!?」
そこにいたのは、なにやら気味の悪い色をした袋を持つ禿げ気味のおっさんと、まだ若そうなのに、落ち武者のような髪形をした男が、そこで腰を抜かしていた。
タキの睨みを見て腰を抜かしたようだが、どう見てもというか、明らかに今回の件の犯人につながる者たちであろう。
‥‥‥少々衣服が焦げているのは、多分先ほどのふっ飛ばした時に燃えかすが散らばったようなので、それに巻き込まれたのが原因と見られた。
「何で王女を捕らえたはずなのに、こんな化け物が出てくるんだ!?」
「さっきのもこいつの仕業か!!」
明らかに怯えているというか、心が折れているというべきか。
どうやらタキに対して、物凄い恐怖心を抱いたようである。
‥‥‥さっきのふっ飛ばした時の魔法、どうやらタキが原因と勘違いしているなこいつら。
【なんか今、我に冤罪が掛かったような気がするのじゃが!?】
タキが叫ぶが、それは無視である。出来ればこのままそのふっ飛ばした魔法をやらかした人、いや、モンスターとなってほしい。
「待てよ?あいつらは…‥‥なるほど、うちの属国の者か」
「え?レリア分かるのか?」
ふと、タキの上からその二人組を見てレリアがそうつぶやいた。
「ああ、いつも独立を叫んだり、問題を起こしていた一味で指名手配されていてな‥‥‥そのあたりはしっかりと覚えていたんだ」
レリアのその言葉で、今回の事が代替理解できた。
どうやら彼らはモーガス帝国の属国にいるやつらでも、従順じゃない系統の人の中で、かなりの問題児に当たるようである。
その為、帝国を逆恨みに近い形で恨んでいるようであり、その復讐のためかそれとも身代金をとって資金とする目的のために、レリアを攫ったようである。
ルースとエルゼは、偶々近くにいたからということで巻き添えになっただけのようであった。
そう考えると、いかにお粗末で杜撰な奴らなのかよく理解できた。
もともとレリアだけを狙っていたというのであれば、金属製の枷が彼女だけにつけられ、ルースたちには予備の縄程度の物で拘束するだろうしね。
不測の事態に備えて、他にも捕える者が出来てもいいように同様の物を用意しなかったのが、彼らの過ちであろう。
タダの縄であったからこそ、ルースが抜け出し、皆の拘束を解放するに至ったのだから。
そう考えていると、レリアがタキの上ですっと彼らを見下ろすように立った。
「おいお前たち!!この私を攫って帝国に損害を与えるつもりだったのだろうが、その野望は今、砕かれた!!ここでおとなしく縄につき、お仲間ともどもすべて白状すれば命だけは助けてやる!」
そう言い放つと、そのレリアに気が付いたのか彼らは驚きつつも、すぐに何とか異性を取り戻したようである。
「王女か…‥まさか、捕らえたと思ったらこうも見事にあっという間に抜け出し、しかも再び捕えようとしてもそのモンスターの手によって二度は通じぬとは、名前ばかりの戦姫と侮っていたが、ただの小娘ではなかったようだな」
悪い顔をしながら言う彼らであったが‥‥‥生憎、先ほどの腰を抜かした姿を見ているせいで、いま一つか格好付かない。
「だがしかし!!ここで投降し、仲間を白状するほど我々は緩くはない!!我等こそ帝国に骨抜きにされた祖国を今一度立て直し、導くのだ!!そのためにも、王女、貴女をこの場で捕えて人質とし、帝国から金を抜き取り、我等の復興のための礎兼士気向上のための奴隷になってもらわねばならないのだ!!」
あまりにも勝手な言い方に、ルースたちはムカッと来た。
「なんだそりゃ?結局お前らは、人を脅すして生きていくことができないような存在か」
「な、なんだと!!」
ルースが思いっきり馬鹿にして言うと、彼らは顔を赤くして激怒した。
「だってそうじゃん。国から解放されるために、確かに暴力という手に訴えたりするのは分かる。けれども、そんなろくでもないやり方で本当にお前たちがその祖国とやらを指導できるのか?むしろ滅びの道へ進ませたり、内部分裂を引き起こして混乱を招きそうだし、人望がないからこそ、指名手配されていたりするんじゃないかなぁ?」
「ぐっ、ぐぐぐぐぐっつ!!」
ルースのその言葉に、何も言い返せないのか、赤色を通り越してさらにどんどん激怒した表情に彼らはなっていく。
「そもそも、そんな手段というか明らかに女性に対してそんな卑猥というか、屈辱的な事を強制させようとしている時点で相当屑ですね。いや、それ以前にまともじゃないからこそ、馬鹿なのね」
【うんうん、こういう自分達こそがよく出来るのだと豪語している輩にはまともな者も確かにいることはいるが、この場合こ奴らは屑の方にいるのぅ】
その言葉に同意するように、エルゼとタキは続けてそう言った。
その言われように激怒しすぎたのか…‥‥ぶちっ、と何かが切れたような音がした。
「ゆ、ゆ、ゆる、許さんぞきさまらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ならば今ここで、我が祖国のためにこのわたし自らがこの道具を使って血祭りにあげ、帝国への手土産にしてやるわぁぁぁぁあ!!」
「‥‥あ、完全にキレたな」
煽り過ぎたようで、なにやら血管も逝ったのか血が彼らの頭から少々噴き出していた。
「このマジックアイテムを、今ここで使うべきときだ!!」
懐をガサゴソと探り、何かを彼らは取り出した。
「…‥なんだあれは?」
試験管のようだが、その中には不気味な色合いの液体というか、薬品が入っているようであった。
どこかで見たことがあるような、何色にもないような混とんとした…‥
「さぁ、あの商人が使っていたマジックアイテム!!今こそ我が祖国に仇成す者どもを成敗するために、この身に力を与えよ!!」
そう言い切って、彼らはその中身を飲み干した。
「ぐぶっつ!?」
「ごぶばぁ!!」
飲んですぐに、彼らは胸を抑えた。
汗がだばだばと出てきて、明らかに尋常じゃない状態になっているようだ。
「まさか‥‥‥毒でも飲んだのか?」
「いや違う、自害するつもりでもないようだし、毒ではなかったようだ」
「でも、あの薬品は一体?」
ビクンビクンとそのうち痙攣し始め、彼らは…‥
じゅわわあぁぁぁぁあぁ!!
「うわっ!?なんか溶け始めた!?」
「しかも混じっていくわよ!?」
体がドロドロに溶け始め、二人いた彼らは混ざり合い、一つになっていく。
その表面色はあの呑んだ液体同様の気味の悪い何色とも言い難い混沌とした色へと‥‥‥
「って、これってまさか!?」
そこでルースは思い出した。
以前にも、似たようなことがあったことを。
とある液体が、都市で暴れまわった時の事を。
そして、その色は今、彼らが成りつつある何かと同様であったことを。
【‥‥‥召喚主殿、これまた嫌なにおいがしてくるのじゃ】
タキがそうつぶやき、毛を逆立てて警戒し始める。
あれよあれよという間に、彼らは一つの大きな塊となり、徐々に形を作っていく。
質量というか、体積が異常に増えて行き‥‥‥大きな一つの巨大などろどろとした、上半身だけ微妙な人型の何かになった。
足元はドロドロで、まるで地面から泥人形が生えたかのようにも見える。
【ウボアァァァァァァァァァァァァア!!】
目や口に当たる部分に穴が開き、そこから咆哮が鳴り響く。
「っ、何になったんだあれは!?」
【‥‥‥ただの人間が、モンスターになったようじゃな】
リューの驚愕のつぶやきに、タキはそう答える。
【ちょっとまずいのぅ。あえは多分ゴーレムに近い類‥‥‥おそらく、どこかに核のようなものが形成され、そこを破壊せねば動き続けると思われるやつじゃな。名付けるならば、『溶解人間ゴーレム』じゃな】
ディゾルブゴーレムとなった彼ら、いや、やつは動き出す。
【ウボアァァァァァァ!!】
咆哮を上げながら、ルースたちに向かってそのドロドロの腕を振りかぶってくるのであった…‥‥
どろどろ上半身だけのディゾルブゴーレムとなり、襲い掛かって来た者たち。
このまま放置すれば明らかに大変なことになるのは目に見えている。
しかし、ルースたちの実力でどうにかなるのだろうか?戦略的撤退をすべきだろうか?
次回に続く!!
‥‥‥ゴーレムのネーミングセンス、我ながら無いなと思ったのはここだけの話。なんか某スライムのデルゲームにいたマ〇ハンドの上半身も出してみましたバージョンぽいのが想像できてしまった。




