49話
シリアスというべきか?
微妙なところ。
‥‥‥タキがいるエルモア先生の家へ向けて歩いていたルースたち。
だがしかし、その途中でふとルースは足を止めた。
「ん?」
「どうしたのルース君?」
急に足を止めたルースに対して、レリアとエルゼは尋ねた。
「いや、なんか妙に違和感というか‥‥‥道としてはあっていると思うけど、人通りがやけに少ない道になって来たなと思ってな」
先ほどまでは、それなりに人混みが行きかう道を進んでいたルースたち。
だがしかし、なにやら道路工事や露店などが出てきて、別の方向からも行けるはずだと思って道なりに向かっていたはずなのだが…‥‥どうも人通りが少なくなってきて、そこにルースは違和感を覚えたのである。
「普通ならこういうところでも誰かいそうだけど、もうほとんど人がいないじゃん」
「そういえばそうよね‥‥‥自然過ぎて気が付かなかったわ」
「ふむ‥‥‥もしかすると誰かに誘導されているとか?」
違和感を感じたルースにエルゼは同意し、レリアがその推測を述べた時であった。
ブシュゥゥゥゥ!!
「「「!?」」」
突如として、ルースたちの周囲に何か煙幕のようなものが噴き出してきた。
「なんだこりゃ!?」
「なんなのよ!?」
「しまった!!罠か!」
ルースとエルゼは驚愕し、戦姫と呼ばれていただけあってレリアは直ぐに何か罠にかかってしまったのだと悟った。
すばやく皆で魔導書を顕現させ魔法で対処しようとしたが・・・・・・・・時すでに遅し。
「っつ…‥」
「なんだか・・・・」
「ね、眠り薬の類か…‥‥」
急な眠気に襲われ、3人はその場に倒れるのであった。
‥‥‥ガタゴト ガタゴト ガタゴト‥‥
「ん‥‥‥」
ふと、何か揺れているような気がしてルースが目を覚ますと、なにやら荷馬車のなかに入れられているようであった。
目隠しはされていないが、しっかりと締め切られており、口元にはさるぐつわのようなものをさせられ声が出ないようになっている。
また、手足も縄でしっかりと縛られ、身動きができない状態であった。
(‥‥‥誘拐?)
ルースの脳裏には、なんとなくその言葉が思い浮かんだ。
と、気が付けば周囲にもエルゼとレリアがルース同様の状態にされていた。
ただし、なぜかレリアに関しては完璧に頑丈そうな金属製のような枷を付けられていたが。
ルースとエルゼは縄だというのに、何だろうかこの差。
二人ともまだ目を覚ましていないようで、寝ているようである。
‥‥‥あと、この状況だから不謹慎だけど、前のめりに寝ているゆえに少々レリアの方が見づらい状態になっていた。
うん、これエルゼが起きていたら考えを呼んで本気で殺しに来る可能性があるな。
そう思い、すぐさま冷静になってルースは状況をより正確に把握するために、なぜこうなったのかを考えた。
あの場での眠り薬だったらしい煙の噴出。
人通りが徐々に少ない場所に誘導されたかのような事も考えるのであれば…‥‥数人がかり、もしくは十数人単位での誘拐のようである。もしくは人さらいというやつであろうか?
とはいえ、ルースたちを攫う理由となると…‥‥
(‥‥‥ああ、考えてみたらあるな)
そう考え、ルースはエルゼたちを見た。
エルゼは公爵家の令嬢であり、レリアは帝国の王女。
身代金目的などを考えるのであれば、ありえない話ではない。
それに、ルース自身はただの一般人だが、扱う魔導書はこれまでに確認された事のない金色。
となれば、その珍しさから引き込みたいと考える様な欲深い者がいるのかもしれないだろう。
…‥‥と、ここまで考えていると馬車が止まった。
とりあえず、まだ眠っているふりをルースは念のために取った。
「‥・・・おいおい、まだこいつらはぐっすり眠っているのかよ」
「あの商人から買った道具、もう少し効き目を確かめてから扱えばよかったな」
「まぁまぁいいじゃねーか、下手に暴れられるよりも、事が済むまでおとなしくしてもらった方が楽じゃん」
何やらがやがやと声が聞こえてきたが、どうやらルースたちを攫った者たちらしい。
狸寝入りをしているルースにその会話が聞かれているとも思っていないのか、ひょいっと寝ているルースたちを担ぎ、どこかへ運ぼうとしていた。
「おっと、この姫さん凶悪なものをぶら下げているな‥‥‥ガキの癖に」
「とはいえ、顔がにやけているなお前、くそうぅ、じゃんけんで決めなきゃよかったぜ」
「こちらは男を運ぶんだぞ!女を運べるお前たちの方が圧倒的にいいじゃん!!」
(悪かったな男で)
文句を言うルースを担いだ人物に、心の中でそう悪態をついた。
会話の内容などを考えるに、どこかの組織とかの物凄い下っ端なのではないだろうか。
というか、レリアの方はわかるとはいえ、エルゼにその内容聞かれていたら多分死ぬぞ。一応あるとはいえ、レリアにその部分で負けているのが気に食わなさそうだしな。
まだエルゼが寝ているようなので、起きていたらあったかもしれない惨状を防げたことに、思わずルースは心の中で安堵の息を吐くのであった。
カンカンカンっと階段を下りるような足音がしたことから、どこかの地下室に運び込まれたのだとルースは思った。
「ふぅ、あとは捕獲を完了したことをボスに伝えて見に来てもらわねぇとな」
「ああ、本当ならこの乳でか女を捕らえるだけで良かったが、オマケの処遇も聞かないだめだしな」
「さっさといくぞ」
手足を厳重に拘束し、声も出せないようにさるぐつわをはめていることから大丈夫だろうと判断したのか、地下室の部屋の中に入れられ、鍵がかかる音がした後、足音が遠ざかっていった。
もういい頃合いだろうとルースは思い、目を開けて周囲を確認すると、石造りみたいな堅牢な地下室の中であった。
目の前には格子があり、まるで牢獄である。
何とか体を動かしてみれば、すぐ近くにエルゼもレリアも寝かされていた。
(‥‥‥さて、どうするかな)
この状況、余り思わしくはない。
拘束された状態では身動きがとりにくく、そのボスとやらがどのぐらいで来るのかもわからないし、そもそも会話の内容的に、どうやらレリア狙いだったようで、ルースとエルゼがどうされるのかもわからない。
もしかしたら口封じのために殺害とか、はたまたは男のルースは用済みで、エルゼやレリアに‥‥‥
そう考えると、物凄く嫌である。
とりあえず、まずはこの状況をなんとかいい方向へもっていかねばなるまい。
魔法で当たりをぶっ放せたら一番良いのだが…‥‥
…‥‥今の状態で魔法が扱えるのだろうか?
いつもなら魔導書を顕現させ、魔法名を唱えて魔法を発動させる。
それを利用してこの拘束から解き放たれて、ついでに脱出もしたかったのだが…‥‥
口がふさがれ、魔導書を顕現していない状態で魔法を発動させたことが無い。
不確定要素をやる勇気が今は無かったので、まずは、この手足の縄を先にどうにかしたほうが良いだろうとルースは思った。
手が自由になれば、このさるぐつわも外せるからだ。
そう思い、ルースはまず手足の拘束を解くことを考えた。
手足を動かし、とりあえずルースの手足を縛っている縄の結び目をルースは探した。
そこから己の持つ縄抜け術でルースは何とか拘束を外した。
‥‥‥昔からエルゼにストーカーされていることはあったから、万が一の強制的な既成事実作りのために拘束されても抜け出せるように縄抜け術を会得していたのである。
しかも、日頃の学園長による訓練で体も鍛えられ、柔らかくもしていたので案外あっさりといけた。
出来た理由を考えれば、少々悲しくなるが。少なくとも、将来的にエルゼが拘束してきた時に完璧に抜け出せる自信はついた。
とりあえず、手足が自由になり、さるぐつわも外したところで、ルースは魔導書を権限させ、ついでにまだ寝ているエルゼたちの拘束も解除した。
レリアのは金属製であったが、こちらも万が一のエルゼ対策として会得したピッキングで解除。
「さてと、あとはどうするかだよな?」
逃げ出せたとしても、またあの睡眠薬のような煙を捲かれるとまずい。
そもそも、ここがどこなのかもわからない。
…‥‥となれば、盛大にやらかしてしまって、誰かの注目を浴びさせたほうが良いのではないだろうか。
そうすれば、ルースたちを攫った者たちも必然的に見つかるだろう。
その結論にルースはいたり、実行する前にエルゼたちを起こすのであった。
さぁ、盛大にやらかそう!!
少なくとも、二度と自分たちを狙いたくはないと思えるようなものでな!!
あと精神的に責めてやりたい気分。
…‥‥まずは二人を起こさないとね。




