2話
本日3話目!!
‥‥‥エルゼに起こされ、朝食後ルースとエルゼはバルスト村の中央広場に向かっていた。
「今日いよいよ、あの『叡智の儀式』を受けられるね!!」
「なんか偉そうな儀式名だけど、ようは『魔導書』を受け取る儀式だろ?しかも確実にというわけでもないしな」
ワクワクしながら言うエルゼに対して、ルースは落ち着いた様子で返答した。
『叡智の儀式』‥‥‥それは人が『魔導書』と呼ばれる書物を顕現させ、己の物にするという儀式である。
年齢が14~15歳ごろになった者たちが必ず受ける儀式だそうで、簡単に言えば成人式のようなものだろう。まぁ、この世界での成人年齢は18歳らしいけど。
そもそも、魔導書とは人に力を与える書物らしい。
人によって魔導書は色が異なっているようで、その色に対応した属性の力が手に入るのだとか。
現在、確認されているのは赤、青、緑、黄、茶、白、黒の7色。
赤色は何もかも燃やし尽くしたり、料理の際に微細な火力調整も行える炎に関する力を与える。
青色は何もない場所から泉を創り出したり、その派生なのか氷も扱えるという水に関する力を与える。
緑色は森や林、花畑などに干渉し、木々を活性化させたりなどと、植物に関する力を与える。
黄色は落雷、電撃、麻痺させるなど、電気に関する力を与える。
茶色は地割れを引き起こしたり、土の壁や地震を起こしたりなど、大地に関する力を当てる。
白色は傷を治し、リラックスさせ、辺りを照らすなど、光や癒しに関する力を与える。
そして、黒色は煙幕を張ったり、辺りを暗くしたり、陰に入り込んで移動できるなど、闇に関する力を与えるのだ。
‥‥‥まぁ、ここまで例え話を出しているけど、実際に魔導書を取得できない人もいたりするし、出来たとしてもその人の才能によって力に差が出るのだ。
赤色だと、ロウソクの火程度か、火山の噴火並みの炎かという差ぐらいかな。鍛えたりすることでいくらか力を底上げもできるそうだが…‥‥要は、その本人の力次第だろう。
手に入れることができた場合は、3年間は国の育成機関に寮暮らしの無料保証で入れられるらしいけどね。まぁ、それだけの力を手に入れることができる分、きちんと国も管理をしておきたいのだろう。
「ふっふっふっふ、あたしがもし手に出来るとしたら黒色かな!!こっそり陰からルース君を見ること出来るし、拘束する技も豊富らしいもん!!」
神様がいたとしたら、できればどうかエルゼに黒以外の魔導書をお願いします。もしくは与えないでください。ストーカー能力が向上してしまいます。
エルゼの言葉に、ルースは心からそう思った。
「そういえば、ルース君は手に入れることが出来たとしたら何色が良いの?」
見る人が見れば、見た目だけは可愛い顔でエルゼがルースに尋ねてきた。
「ん?俺としてはそうだな‥‥‥白色かな?リラックスさせる力もあるというし、うまいこと利用できればモフモフした生物を虜に出来るだろ?」
ぶっちゃけ、この世界では人間以外の生物はモンスターか、魔族と呼ばれる者たちである。
だが、モフモフしたところがあるものたちもいるので、出来ればモフモフを獲得するためにも利用できそうな白色の魔導書があったほうが良いのだ。
チートとかよりも、モフモフを手に入れられる能力の方が絶対いいからね。
‥‥‥あと、黒色が欲しいというエルゼの対照的なものを望んでいるというのもある。互いに対照的であれば、それだけエルゼのストーカー能力に対抗できそうだからね。いや本当に望みたい。
ちなみに、ルースが他に望むとすれば黄色である。エルゼを麻痺させて逃げるという手段が取れそうだからであった。
村の中央広場に着くと、既に悲喜こもごもの歓声が入り混じっていた。
「よっしゃぁぁぁ!!赤色の魔導書を手に入れたぜぇぇぇ!!」
「ちくしょう!!俺は手に入らなかったぁぁぁあ!!」
「白色を手にいれたわ!!これで学んで上手い事扱えれば医者になれるかも!!」
「あいぇぇぇ!?なんで?なんで?緑色ぉぉぉぉぉぉ!?望んでいたのは黄色であーーーる!!」
バルスト村の、今回の叡智の儀式を受けたらしい同年代ほどの少年少女の声はあたりに響き渡る。
「他に儀式を受ける者はおらぬか―!!」
見てみれば、中央の方に何やら熊のようにでかい鎧を着たおっさんが、さらに家ほどのサイズのある大きさの水晶を背に呼び掛けていた。
その水晶こそ、魔導書をこの世に顕現させる特別な水晶らしい。
‥‥‥運ぶのが大変そうだが、実は見た目に反して物凄い軽いそうで、重石を付けてようやくまともに設置できるほどなのだとか。
ちなみに、そのおっさんはこの叡智の儀式のために、国から派遣されてきた監察官だとか。あれどっちかと言うと、監察官と言うよりも戦場を走り抜ける熊にしか見えない。
「はいはーい!!あたしたちがまだ受けていませーん!!」
おっさんの呼びかけに対して、ルースの手をつかみながらエルゼが答えた。
「ああ、あの二人まだ受けていなかったのか」
「可愛いけど、まぁ、なんというかお似合いだしな」
「ストーカーに付きまとわれたらああなるという、いい例のコンビか」
‥‥‥うん、エルゼのストーカーって言う認識はすでに村に浸透しているんだね。
エルゼは見た目だけは良いので、本来であれば同年代の男子からだと怨嗟とか嫉妬がありそうなものだが、この村内にいる全員から「どう見ても哀れな被害者もしくは捕食対象者」とルースは見られているのであった。
「では、この水晶に手をかざすのだ!!」
水晶のようなものの前まで行くと、熊のようなおっさん、略してくまっさんが儀式のやり方を説明した。
叡智の~とか仰々しい名前がついている割には、物凄く簡単に水晶に手をかざして、それで自分の前に魔導書が顕現するか否かという事らしい。
儀式名を付けたやつ、せめてもう少しかっこいい感じにしようと考えたのだろうけど、どう考えてもやり方が名前負けしているぞ。
なお、顕現したら後はその魔導書に触れることで、自動的に体に取り込まれ、以降は魔導書を出るように念じるだけで出現するのだとか。
「それじゃ、一緒にやりましょう!」
にこにことエルゼがルースに顔を向け、ルースは少し溜息を吐いた後に、合わせてあげることにした。
「それっ!」
「よっと」
テンションに差がありつつ、二人が水晶に手をかざし‥‥‥そして、水晶が輝きだした。
「おおっつ!!これは二人とも間違いなく魔導書を手に入れられるぞ!!」
その反応から、くまっさんはどうやらルースたちに魔導書が顕現すると分かったようだ。
‥‥‥ルースの内心には、冷静とはいえ少しだけワクワクする心もあった。
期待の目で見て、そして魔導書が二人の前に顕現したのだが…‥‥
「は?」
「え?」
エルゼの前に顕現した魔導書は黒色ではなく、青色だったのはまだいいだろう。
だがしかし、ルースの前に顕現した魔導書は異なった。
「‥‥‥き、金色?」
それは、今朝の夢で見たような、物凄くキラキラと輝く金色の魔導書であった。
「なんだあの魔導書・・・・」
「金色?今まで確認されている色にはない色よね?」
「黄金の魔導書ってなんなのさ?」
その予想外の色の魔導書の顕現に、見ていた人たちがざわめき出す。
赤、青、緑、黄、茶、白、黒の7色以外の色の魔導書の話は聞いたこともなく、どのような力を持っているのかわからない。
辺りのざわめきの中、恐る恐るルースはその金色に光り輝く魔導書に手を触れてみることにした。
まだ儀式の最中でもあり、その最後の過程「触れて取り込む」をやってみることにしたのだ。
どのような力があるのかわからない、金色の魔導書。
そして、ルースが触れた途端に‥‥‥すっとその魔導書はルースの中に溶け込むようにはいり込んだ。
「ッツ!?」
取り込んだその瞬間、彼の頭の中には見たことが無いような文字や何かの記号、そしてその魔導書が与える力についての知識が流れ込んでくる。
そして、情報量が多すぎたのかひどい頭痛を起こし、そのままルースは気絶するのであった‥‥‥
主人公・・・・・今回は苦労性なのかも。
今までの作者の主人公は周囲に苦労させたりしたけど、今回は本人にも苦労してもらいます。