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25話

一日一日がのんびりと進んでいるなぁ。

一気に進ませたいのに、なかなか進まないジレンマがある。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!それマジでヤバイ!!語彙力がないからそれしか言えないけど、バルション学園長、それ本気で絶命するって!!」

「んー?この『サウザンドライトニードル』の雨あられってそんなーに防ぐのが難しーいかなー?」

「難しいわよ!!というか、これは本当に大変すぎます!!」

「ぎぇぇぇぇ!!」

「どわぁぁぁ!!」




…‥‥放課後、バルション学園長は宣言通り、召喚魔法の授業で召喚拒否があった生徒たちに加えて、ほぼ強制的に参加させられるルースとエルゼも一緒に、訓練を実施していた。



 本日の学園長放課後訓練は、空から大量の光の針が降ってくるから、それをいかにして出来るだけ無傷で済めるかというものである。


 やめさせるには、学園長自身を押さえつけたりすればいいらしい。


 傷ついても、白い魔導書(グリモワール)を持つ学園長は死なない限り完璧に治すと言っているのだが、それはつまり死ぬ可能性もあるのではないだろうか?



 凶悪な光の太い針がどんどん大量に落ちてきて、交わしつつ、魔法で迎撃や防御を行ったりなどをしているが、さばききれない人が続出する。



「いっだぁぁぁぁぁ!!足に刺さったぁぁぁぁ!!」

「おうふぅ!?背中に痛みがぁぁぁぁ!!」

「絶対に死んでたまるかぁぁぁぁ!!」

「俺、これを乗り切ったらあの子に告白するんだ!!」

「はぅわぁっつ!?ケツに刺さったぁぁぁぁ!!」



 阿鼻叫喚の地獄絵図とはまさにこの光景なのだろうか。というか、よくこんな人がこの学園の学園長に慣れたような気がするのだが…‥‥まさかとは思うけど、その力で脅していないよね?



「『アクアウォール』と『アイスウォール』!!」


 ふと、エルゼの声がしたのでルースが見てみると、彼女はうまいこと何とかしのいでいた。



 エルゼの持つ魔導書(グリモワール)は青色で、水や氷に関する力を与える。


 ルースみたいに複合まではできていないようだが、それでも一つ一つをずらして発動させることで、疑似的に似たようなものを創り出しているようだ。



 水の壁を創り上げた後、氷の壁を出現させて、さらに大きな氷の壁にして防いだりと、なかなかうまい事学園長の攻撃を受け切っているようである。


‥‥‥そういえば、水って氷になると体積が増えるんだっけ。そりゃ水の壁を氷の壁の冷気で凍らせたらより大きな壁が出来るだろうな。



「ふふふ、ルース君をいつかこれで監禁コホン、囲んでみようと思っていたけど、その耐久力をテストするにはちょうどいい機会ね!!」



 何だろう、今明らかにエルゼの野望の一つを聞いてしまったような気がする。






「と、気にしている場合じゃないし。壁を作るにも削られて壊されるなら避けるのが良いか?」


 すばやく黄金の魔導書(グリモワール)を顕現させて、ルースはある魔法を選択した。


「『ミストハリケーン』!!」


 水と風の複合魔法。


 細かな霧状にした水を、風魔法で一気に拡散させるのである。


 

 入学式当初の学園長の魔法を防ぐために利用した魔法から経験もあって、今度は学園長に利用されないようにこちらから風魔法で干渉することで防げるはずなのだ。




 一気に霧が拡散し、あたりがもやに覆われ始める。


 バルション学園長が光魔法の圧力で集めようとしても、暴風の渦で邪魔されて上手い事働かず、なんとか利用されずにすんだようだ。



…‥‥だがしかし、ここで思わぬ弊害が発生した。


「全く見えねぇ!!」




 霧が深くなって、もはや何も見えない状況になったのである。


 ホワイトアウト・・・・・・いや、あれは吹雪とかだから違うか。


 そもそも、光魔法を屈折したりして、その集中した部分を拡散して威力を無くすための霧だったのだが、欠点として多く出過ぎて逆にこちら側の視界が防がれたようである。



 けれども、ここでルースはこの欠点の打開策を思いついた。


 人の五感の視覚が使えぬのならば…‥‥


「『召喚タキ!!』」



 召喚魔法でタキを出して、モンスターの彼女の力で学園長の位置を認識しながらやれば、何とかなるのではないだろうかと。


 幸いというか、召喚魔法の使用は禁止されていないので使用可能である。




【よっと、こうやって呼びだされる感覚はなかなか慣れぬのぅ…‥‥って、何じゃこの霧!?全く見えんわ!!】


 あ、やっぱりタキも視覚が制限されるようだ。


「タキ!!ちょっとお願いがあるんだが!!」

【この声は召喚主殿?どこら辺にいるのじゃ?】



‥‥‥ここで失念していたのが、タキの大きさである。


 人型の状態ならまだしも、召喚先でエルゼがいる可能性を考え、召喚した時にはタキはいつもあの大きな九尾の狐のモンスターの姿である。


 そして今、視界が防がれた深い霧の中では足元を気にすることが出来ず、全く見えていない。


 臭いとか熱とかで感知してほしいものだが、どうも抜けているのかそこに思い当たらないようであり‥‥‥



【お~い、召喚主殿~】

プチッツ!

「ぐべぇっつ!?」


「た、タキちょっと待て!!」

ブチュッツ!!

「へちまぇっつ!?」

【おや?こっちかのぅ?】



【というか、さっきから何じゃこの不快な感触は?】

グシュッツ!!

「へぶぁぁぁぁ!?」

「動くなよタキ!!」


【ん?なんといったかのぅ召喚主殿?声はすれども姿は見えず】

バキィ!!

「ぎぇぇぇぇぇぇ!?」

「だから動き回るなって!!」



【…‥‥もしかして今我、誰かを踏んづけて歩き回っちゃったのかのぅ!?】

ゴキッツ!!

「ぐっばぁぁぁ!!」

「その通りだから、動くなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 こういうのを天然というべきか、素で気が付いていなさすぎるというべきか。


 どうやら、更に訓練的にはハードモードにしちゃったようであった。
















【すまんのぅ、召喚主殿。危うく2,3人を踏みつぶすところじゃった】

「それではすまない数の悲鳴が聞こえたけど‥‥‥何とか俺の指示が届いてよかったよ」


 音から察するに、何人かは逝ってしまったかもしれないけど‥‥‥バルション学園長の訓練が無茶すぎるという事でいいだろう。


 踏みつぶされかけたが、何とかタキの背中にルースは乗り込んだ。


「タキ、お前の鼻やその他の感覚でバルション学園長の位置を探って、そこに向かえ。前足とかで叩きのめして、その後に俺が魔法で捕縛するからな」


 この訓練の終了のためには、バルション学園長を押さえつける必要がある。


 その為、タキの協力が不可欠であった。


【了解かのぅ。ふむ・・・・・あそこじゃな!!】


 クンクンと臭いをかぎ、タキが一気にジャンプした。



 蔓延した霧の中から抜け出し、タキがその位置へ向けて上空から一気に攻め込む。


 視界が利かない濃霧の中で、さらに死角からの強襲である。






 これで決着がつくかと思われたのだが‥‥‥‥‥そうは問屋が卸さなかった。



【でぇえぃやぁ!!‥‥‥って、これ服だけじゃが!?】

「何っつ!?」


 タキがとびかかり、霧ごとふっ飛ばしたつもりだったのだが…‥‥彼女が感知した場所にあったのは、学園長が着ている上着。


「ふーふふふ、確かーにいいアイディアだーけど、わざわーざ耳で聞こえーるような声で会話したのがダメねー!」

「げっつ!?」




 気が付けば、バルション学園長が背後に回り込んでいて…‥‥その更に背中には、先ほどよりも多い光の針の山がロックオンしていたのであった。



「せっかーくだから、こーの魔法で最後にするねー。『ミリオンライトニードル』!!」

「か、数が増えているんですが!?」

【のわぁっつ!?か、帰るのじゃ!!】


 ボンッツっと音を立て、タキが素早くその場から消え失せて逃げた。


 どうやら自力で召喚状態から解除してこの場から逃げたようである。




 後でモフモフしまくって骨抜きにしてやろうかとルースは思いつつ、バルション学園長が放った魔法を、悲鳴を出す間もなく、くらうのであった…‥‥



学園長の治療によって、傷は確かに治るかもしれない。

だがしかし、トラウマは治らないような気がする。

肉体と精神に効くような癒しの魔法を求めたほうが良さそうであった。

次回に続く!!


‥‥‥なお、死亡フラグが立っていた人がいたけど、何とか生き延びたそうです。しかし、玉砕したそうであった。

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