19話
本日2話目!!
「ふぅ、そろそろこの辺りで休憩しようか」
「ええ、そうしましょうか」
太陽が高く昇り、昼頃になったところで、ルースとエルゼは一旦昼食をとって休憩することにした。
都市内の店を巡り歩き、何処に何があるのか大体把握はできたのだが、まだまだ回り切れていない。
流石に1日では回り切れないが…‥‥やっぱりバルスト村は田舎の方だったのかもなと、ルースは改めて思う。
「今度の夏休みの時とかにでも、村へのお土産を買う店とかを決めたいけど、どれも決めがたかったなぁ」
「移動時間やあの馬車での混雑も考えると‥‥‥小物が一番良さそうよね」
生ものや大きな道具などはお土産向きではなさそうで、そこから考えると小物の方が良いのだろう。
そこそこの食器セットとか、石鹸、歯ブラシ、ネックレスといった物がその小物の例となるかな?
適当な飲食店で昼食をとっていた二人だが、ふと周囲が少し騒がしくなってきていることに気が付いた。
「おい、なんかおかしくないか?」
「いつも取りのはずなのに、なにか違和感を覚えますわね??」
いつも通りの都市内。
でも、どこか違和感を覚えさせるのは…‥‥
「そういえば‥‥‥音が鳴ってない」
「ベルビックンが故障でもしたのかしら?」
その違和感に、二人は気が付いた。
どうやらこの都市の住民たちも抱くその違和感の正体は‥‥‥都市のシンボルといえる時計塔ベルビックンの、昼の鐘の音が鳴っていないのである。
毎日、だいたい定時に鳴るので、学園で過ごしていたルースたちにとっても当たり前だった。
だがしかし、その当たり前が聞こえないのであれば、なんとなくの違和感を覚えたのである。
その違和感の正体に気が付き、徐々に時計塔の方を見て確認する人たちが多くなってきた時であった。
ズバブシュゥツ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「っつ!?」
「なんなのよ!?」
突然、辺りに突如出た悲鳴。
その悲鳴の前に何かが切れた音がして、その方向を見てみれば・・・・・
「なっつ!?」
赤い噴水…‥‥いや、噴き上がる血液が、そこにあった。
そしてよく見れば、その周囲にはいつのまにか何か不気味な色をした液体が囲んでおり、徐々に迫ってきていたのである。
「な、なんじゃありゃ!?」
時計塔の鐘の位置を見るために上を向いていたがゆえに、気が付かなかった足元へ迫りくる謎の液体。
それは徐々に迫り、それと同時に突然脈撃っては‥‥‥
びゅぶしゅうううううぅぅう!!
「ひっつ!?」
「逃げろ!!こいつに襲われたら切断されるぞ!!」
突然噴き上がる謎の液体は周囲にかかると、そこが綺麗に切断される。
まるでウォーターカッターのようだが、粘性があるのがべとべとしているらしい液体にその威力があるとは思いたくない。
けれども、すでに出ていた犠牲者の様子を見て、その場はいきなり混乱へと陥った。
「逃げろぉ!!斬られてしまうぞ!!」
「触れるなぁぁぁ!!」
「来るなぁ!!」
ブシュッツ!!
ズビュシュゥゥ!!
ズバッツ!!
謎の液体は脈を打つかのように震えながら、人が近くなれば吹き上がり、そして人体を切断しようとうごめく。
その恐怖に人々は逃げまどい、ルースたちも逃げた。
「三十六計逃げるに如かず!!ここは逃げるぞ!!」
「いわれなくても逃げるわよルース君!!何なのよあの液体は!!」
とはいえ、逃げると決めたけど、何処へ逃げればいいのだろうか?
「こういう時の避難場所ってどこだったっけ!?」
「学園の方ですわ!!なんでも過去に爆発を引き起こした馬鹿がいたらしくて、そのために万が一のための地下シェルターなる物が作られているという話よ!!」
‥‥‥なんだろう、逃げるための場所が分かったのはいいが、その過去の話が気になるんだけど。
とにもかくにも、今はそこへ逃げ込んだほうが得策‥‥‥
「って!!回り込まれた!?」
学園へ向かって逃げようと方向を変えると、そっちの方からもあの不気味な液体が押し寄せてきていた。
「液体なら凍らせてもいいかもしれないけど‥‥‥そもそも凍りそうにもなさそうよね」
冷や汗を流し、この状況に危機感をルースたちは覚えた。
絶体絶命というか、逃げ場のないこの状態。
せめてもの救いとすれば、どうやらこの液体は広範囲に広がるためかあまり深くはないようで、屋上とかにでも避難が出来れば助かる可能性はある。
というか、今更気が付いたが建物の中に飛び込み、逃げ込んだ人たちがいるようだ。
どうやらルースたちは逃げ遅れたほうのようだったが…‥‥
「‥‥‥そうだ!!『召喚タキ!!』」
ふとここで、ルースはその存在を思い出した。
人間の足で逃げられそうにないのであれば、モンスターの足で逃げればいいじゃないか。
【おおぅ、またあの娘がいる状況‥‥‥って、何じゃこの状況!?】
無事に大きな九尾の狐のモンスターであるタキが召喚され、どうやら瞬時にこの状況を理解したようである。
「タキ!!話は後で、とりあえず俺たちをお前の背中に乗せて今は上の方に逃がしてくれ!!」
「女狐の背中には乗りたくないけど、この際仕方がないしね!!」
【と、とりあえずわかったのじゃ!!】
タキがかがみ、その背にルースたちは乗り込む。
「とりあえず、ジャンプして建物上を飛び移れ!!」
【了解っと!!】
乗り込んで、すぐにタキが飛び上がる。
それと同時に、先ほどまでルースたちのいた場所にあの不気味な液体が押し寄せてきて、間一髪のところで助かった。
とんっと、適当な建物の屋上へ降り立ち、周囲の状況をルースたちは確認する。
「広がる速度はそこまででもないようだけど‥‥‥徐々に広がっているな」
「この様子だと、3~4時間ほどで全体が飲み込まれるかしらね?」
とりあえず、学園の方へ移動するために、建物から建物へとタキに飛び移ってもらう。
【ふむ…‥‥なんかこう、ドロドロとしたというか、気味の悪い液体じゃな。ヌメヌメもあるのか、テカリがあってさらに不気味じゃよ】
モンスターである彼女にとっても、この液体はものすごく不気味な物らしい。
人を切断し、広がっていく、無差別に切りつける不気味な液体。
【ぬ?】
「どうしたタキ?」
【召喚主よ、この液体の発生源はあそこのようじゃ!!】
タキが気が付いたように、目でその方向を示す。
その方向にあったのはこの都市のシンボルである時計塔ベルビックン。
よく見てみれば、先ほどから流れている液体の流れを辿るとあの塔の中から出ているようにも見えるのだ。
【あの塔の中に、発生源があるようじゃ。それも…‥‥モンスターである我の感覚じゃと、どうやら人もおるな。襲われてもないところを見ると、そ奴が犯人に違いないのじゃ!!】
「なるほど‥‥‥」
都市の中央にある時計塔。
そこで、何者かがあの液体を発生させて、そこから流出しているようである。
時計塔の鐘の音がならなかったのは、もしかするとその違和感で、皆が時計塔の上に注目し、そこから流れ出る液体から目を背けさせる意図があったのかもしれないのだ。
つまり、これは計画性がある犯罪…‥‥テロのようなものかもしれない。
「とはいえ、俺達が乗り込むわけにもいかないしな」
あくまでルースたちは学生であり、そんな主人公気質のようにすぐに飛び込もうなんて考えない。
発生源のようなので、迂闊にはいり込めばそこから一気にあふれ出す可能性もあるので下手には動けないのである。
しかしながら、ルースたちにはそんな悠長に判断を下すような真似を天はさせてくれないようであった。
【ッツ!?いかん!!】
何かに気が付いたのか、すばやくタキが移動する。
するとそこに…‥‥
ドボイシュッツ!!
「いっつ!?」
「狙撃されたのだわ!!」
どうやら、件の犯人らしい人は塔の上にいるようだ。
そして、そこからルースたちにめがけて不気味な液体を狙って撃ってきたようである。
このままよけようにも、建物上にかかるので中にいる人たちにも危害が及ぶ可能性がある。
「仕方がない、タキ!!あの塔の撃ってきた野郎のもとへ向かえ!!全弾回避でな!!」
【召喚早々扱いが荒いのぅ。でも、このまま放っておけないからわかったのじゃ!!】
ルースの命令にタキは従い、すばやく塔へ飛び移り、その壁に爪を立てながら登っていく。
塔の上にいる人物は狙うかのように撃ってきているが、全弾タキは回避していた。
「というか、ここまで液体を流せるのだから、上から丸ごとやってきてもおかしくはないような‥‥‥」
そこにルースは違和感を覚えた。
町全体へ広がるように、あの不気味な殺戮液体を流せるのであれば、わざわざ狙わずとも塔の表面にも同様の液体を流せば、簡単にルースたちを追い払えるはず。
それなのに、ちまちまとわざわざ撃ってきているという事はどういうわけなのだろうか?
その疑問を抱きつつ、その塔の上へとルースたちはたどり着き、中に入り込んでその人物を見た。
そこにいたのは、おそらく今回の事件の犯人。
‥‥‥だがしかし、彼もまた、被害者になっていたのかもしれない。
「なっ!?」
その人物の姿を見たとき、ルースたちは絶句した。
彼はすでに普通ではなかった。
白目をむき、何かをぶつぶつとうわ言のようにつぶやいているようだが、そこにもう生きている気配はない。
魔導書のような、それでいてあの不気味な液体同様の色を持った本のような道具を手にもって、宙に浮かべた状態。
まるで、ゾンビのような犯人の状態に、ルースたちは驚愕した。
「な、なんじゃこりゃ…‥‥」
【いかんな‥‥‥こりゃ呑まれておる】
その状態に、タキは何が起きたのかが分かったようだ。
原因はその犯人が持っている道具で、そこからあの不気味な液体がそこが尽きないかのように流れ出している。
そして、流れ出していくたびに犯人の身体が痩せていくことにルースたちは気が付いた。
【‥‥‥おそらく、あれはマジックアイテムであろう。あのような不気味な液体を生み出すようじゃが‥‥‥おそらく無から有を創り出せぬ。…‥‥この状態じゃと、多分、暴走して持ち主の生命力を飲み干しているのじゃろう】
タキの言葉が正解だと言わんばかりに、どんどん犯人が痩せこけていく。
「どうすりゃ止まるんだあれ…‥‥」
【魔法のようなものじゃから、発動主を止めればあの液体の流出もなくなり、消え失せよう。要はあのマジックアイテムをぶっ壊せばいい話じゃ】
反撃されないのかとルースは思った。
けれども、タキが見る限りその心配はなさそうである。
【先ほどまでの攻撃は、あのマジックアイテム自体による防衛機能。じゃけど、あの生命力がそろそろ底を尽きるがゆえに、攻撃にあまり力を裂けなくなったようじゃな】
つまり、このままにしておくだけでも自然と液体の流出は止まり、犯人の死と同時に機能停止するらしい。
だが、このまま死を見守るだけでは、なぜこんなことをしたのかも聞き出せないのだ。
仕方がないので、ルースは休日を台無しにされた怒りを含めつつ、止めさせることにした。
「『ショックボム』」
…‥‥魔導書を顕現し、その魔法をルースは唱えた。
宙に小さな火の玉が生まれ、その周囲を衛星のように小さな電撃が流れていた。
それを犯人にめがけて撃って…‥‥‥
ボム!!バリバリバリバリバリバリ!!
「&%#$’&#$#’&$’’%#’!?」
声にならないような悲鳴を上げ、犯人がその場にぶっ倒れた。
今の魔法は、単純にいえばスタンガンのようなものであり、少々火傷は擦れども相手を完全に気絶させることが出来る。
既に生命力をギリギリまで絞られているようで、気絶していたように見えたのだが‥‥‥辛うじてまだ起きていたらしい。
だがしかし、魔法が直撃した後完全に気絶したようで、液体の流出が途切れ、そして一瞬のうちに消え失せた。
‥‥‥あっけない幕引きに、ルースは休日が台無しになったことに溜息を吐くのであった。
その横では、デートのような気分だったのに邪魔された怒りで、般若のような形相になっていたエルゼについては…‥‥見なかったことにした。
・・・・・・あっけない幕引き。
けれども、それだけでこの事件が終わるはずもなかった。
いや、もしかしたら、これがすべての始まりを告げていたのかもしれない・・・・・・
次回に続く!
‥‥‥タキ、珍しく活躍である。




