179話
久し振りの主人公回。
とはいえ、今回はのんびり風味。
本日は休日であり、ルースは適当に都市内を出歩いていた。
将来に関してのものであれば、平穏無事に過ごせるようなものにすると決めたのだが…‥‥それ以外の部分、明確な細かいところを定め切れていないので、気分転換として気ままに散歩に出かけたのである。
エルゼにレリア、バトもいつもなら一緒にいるのだが、今日は生憎皆用事があるらしく、一人である。
…‥‥ちょっと女子会を開くとか言っていたので、入れそうな雰囲気もなかったから別に良い。
ただ、なんとなくあの3人の間にちょっとだけ火花が見えたような気がしたが‥‥‥喧嘩でもしているのだろうか?いや、仲良く女子会を開くとか言っていたし、喧嘩ではないだろう。
ついでに、暇つぶしの話し相手としてタキを召喚しようとも思ったが、ヴィーラと共に何やら国滅ぼしモンスター組合の話し合いという用事があって無理であった。
と言うか、その組合って色々話しているようだが、最近また物騒な話があるらしい。
【どういうわけか、ここから離れた国でちょっとした面倒ごとが引き起こされてのぅ】
【別にフェイカーなどは関係しテいナいのは判明しテいるケれども、色々とモンスターにとっテも都合の悪い事が起きそウだから、滅ぼすか否かの決議ヲ行うんダよ】
フェイカーが関わっていないのであれば別に良いかな?いや、国一つが滅びるかもしれないけど、そんなことルースの知った事ではない。
いちいち気にしてツッコミを入れたら負けなので、諦めて一人散歩を楽しむのである。
「にしても、ついこの間あんなことがあったのに、この都市の人たちのメンタルは強いなぁ」
いつもの変わらない都市メルドラン内のにぎやかな人込みを見て、ルースはそうつぶやいた。
先日、フェイカーの幹部がこの都市に襲撃をかけ、一時期混乱に陥ったのだが‥‥‥今はもう、其の襲撃の後はない。
考えてみれば、液体事件の時もすぐに復興していたし、この世界の人のメンタルは強いのだろう。
ミュルだって、エルゼ達にとんでもないほどのトラウマが刻まれたはずだが、しばらくしてから立ち直って来たしね。
とにもかくにも、この人でごった返す感じは人口がやや過密なような気もしなくはない。
人が行きかい、物資が満たされているからこそここまで活気づいているのだろうけれども、下手すると満員電車以上に過密な部分もあるので注意が必要である。
それに、これだけ人が行きかいしている中には当然悪党とかもいて、ひったくりやスリが活動しているのはいかんせん防ぎようがない。
まぁ、出たところでフルボッコかもしくは衛兵に連行されていく未来しかないからこそ、そこまで派手にやるような馬鹿はいないけどね。
「きゃぁぁぁぁ!!ひったくりよぉぉぉぉぉぉ!」
「どけどけどけぇぇぇぇぇい!!」
‥‥‥前言撤回。そこまで派手にやる馬鹿はいたのか。
声の方を見てみれば、ひったくりの騒ぎが起きていた。
「待ちやがれこのふてぇ野郎めがぁぁぁあ!」
「追いかけろぉぉぉぉ!」
「待て待て待てぇぇぇ!!」
見れば、怒声を上げて追いかける3人の男性に追われるのは、鞄を持って走るおっさん。
勇気ある野次馬たちが追いかけているようだが、ひったくりの方が早いのだろう。
「待てと言われて待つ馬鹿がいるかぁぁぁぁあ!!」
「そりゃごもっともなことで」
ひったくり犯のその叫びに、野次馬たちの中で同意するようにつぶやく声が聞こえた。
「ふはははは!!このひったくり道を極めし『ひったくり屋のボルン』に追い付ける奴なんぞいるわけが、」
「追いつく以前に、捕まえるけどな」
「へ?」
高笑いを上げながら走るひったくりに、その進行方向にいたルースは足を上げ、ひったくりがその声に気が付いたときには、その顔面に足がめり込んでいたのであった。
こういうのは不意打ちの方が良いからなぁ‥‥‥追いかけるよりも、待ち伏せしておけばいいんだよ。
ひったくり犯はそのままやってきた衛兵たちに引き渡され、連行されていった。
顔が潰れたアンパンのような、前が見えねぇという状態になっていたが、他にも余罪があるようなので同情されることはなかった。
ついでに、協力してくれたということで、追いかけていた3人とルースは、ひったくりの被害にあった人にお礼をもらい、ちょっといいことをした気分になったのだった。
「たまにはこういう小さな善行も良いなぁ」
のんびりとしつつ、こういう小さな善行を積むのも悪くはない。
機嫌よく歩きつつ、適当に歩き回っているうちに、ルースはいつの間にか路地裏へ迷い込んでいた。
ちょっとガラの悪そうな輩も見るが‥‥‥一応、それなりに自衛手段はあるので大丈夫なはずだ。
モヒカン頭とか、眼帯スキンヘッドな人も見るが‥‥‥
「へいへいへーい!婆さん、お荷物を持ってあげるぜえぇぇl!」
「おや、済まないねぇ」
「おいそこのねぇちゃん、ここいらは危ないぜぇ。あっちが路地から出られる道だぜぇぇい」
「ありがとう、迷っていたのよ!」
‥‥‥人は見かけによらないと言うが、世紀末とかにいそうなガラの悪い見た目の人達が手助けしている光景は違和感しかない。
と言うか、ここってこんな親切にあふれていたっけ?以前はもっと、こう閑散していたような。
「おーぅい、そこの兄ちゃん、ここいらは少々物騒だから、さっさと通り過ぎた方が良いぜべいべぇ!」
と、ルースもその見た目だけ柄が悪そうなおっさんに声をかけられた。
「ん?いや、腕には自信があるから大丈夫だ」
「そーかい?んん、確かに若そうだが腕に問題は無さそうだなぁ。それならこの辺り一帯を治める『アイアンクイーン』に『トラウマ製造機クイーン』に出くわしても、大丈夫だろう」
「‥‥‥なんだ、その物騒な人は?」
「知らねぇのかぃ?数日前からここいらを仕切りだした女帝コンビだぜぇ!」
気になったので聞いてみると、親切に教えてくれた。
なんでも、元々ここいらはそこそこ閑散しており、ガラの悪い奴らも見た目通りだったそうだ。
だがしかし、つい数日前にこの路地裏に二人の少女が現れたときから、ここは改革が始まったそうだ。
「ここいら一帯は、俺様たち『ブッチギリドーンズ』という生かした悪党集団も縄張りを持って居たのだが、その少女たちにコテンパンに叩きのめされたんだぜぃ」
「へー、どんな少女たちなんだ?」
「普段は深いフードをかぶって素顔は見えないが、それはそれはめちゃ強い少女たちだったぜぇーい。俺様たちのリーダーであったハゲマルさんが、その少女たちを自身の女にしようとしたのだが‥‥‥返り討ちに会って、ボッコボコにされたのをきっかけに、女帝コンビはここいら一帯を治めだしたんだぜーい」
そのボッコボコ事件によって、その少女たちはこの路地裏の支配に乗り出したらしい。
と言うのも、治安が悪いのは嫌だったという理由からだそうだ。
悪い事をする理由が力があり余った馬鹿というならば、その力の方向を悪い方へ向けるのではなく、人助けのために活かすように矯正して言ったらしい。
最初は反発する人も多かったが、人助けをしていくうちに、ありがとうと言われたりするお礼の快感に痺れ、悪事をしていた者は足を洗い、格好は変えずとも人助けに乗り出すようになったそうな。
「それからと言う者、ここの路地裏に住み着く俺様たちは彼女らを女帝コンビと呼び、畏怖を持って人助けに目覚めたのさぁ!」
「なるほど」
いい話な様な、ちょっと微妙な話しのような気もするが、別に悪い話しでもないので問題はない。
むしろ、治安が向上したので結果としてはいい方向へ向かっているだろう。
まぁ、それでもやはり馬鹿は馬鹿であって減らない者であり、未だに矯正されない者もいるので、まだまだここに治安は不安だそうだ。
そう言うわけで、そのおっさんはルースにこの路地からさっさと出るように言い、安全なルートを教えてくれたのであった。
「それじゃぁ、バイバイだぜべいべぇぇ!!」
路地から出たところで、ぐっと指を立て戻っていくおっさん。
何かこう、この都市の奇妙な裏側を見たような気もしたが、特に気にする必要性はないだろうとルースは思うのであった。
…‥‥だがしかし、それから翌日に、ルースは再びこの話題に関して触れることになるとは、思いもしなかったのであった。
路地裏での奇妙な話を聞きつつ、平穏な日を過ごしたルース。
だがしかし何の縁か、翌日再びここに訪れる羽目になるとは思いもしなかった。
果たして、一体どういうわけでここに訪れるのか。
次回に続く!!
‥‥‥不良っぽい、世紀末のモヒカンみたいな見た目なのに、物凄く親切な人って出したかった。
ゆえに、今回だしたけど後悔はしていない!!
にしても、『アイアンクイーン』に『トラウマ製造機クイーン』ってどちらも物騒な名前だが誰なのだろうかね?と言うか、女帝コンビとか言っていたが、普通一人と言うのが正しいような……。