177話
久し振りにちょっと遠出をしてみたら、前まであったはずのところが更地になっていたり、潰れていたりと、なんか寂しさを感じた今日この頃である。
……移り変わっていくのは新しいことが来るからいいけれども、無くなっていくのはむなしいようにも思えるなぁ。
バルション学園長に相談をし、自身の目標がのんびりとした平穏ある生活という事を根幹にしているとルースは理解し、その目標へ近づくにはどのようになればいいのか、探し始めた。
平穏無事という事だから、少なくとも国防を担うような兵士とか魔導書部隊とかに入るのではなく、むしろ争いから遠ざかったところを目指せばいいだろう。
まぁ、そんなことを考えても、そう都合よくありそうなものは…‥‥
「そう都合よくあるわよ」
「え?」
昼休み、昼食のためにエルゼ達と一緒に食堂へ向かい、その事に関してルースが話題に出すと、意外にもエルゼがそう答えた。
「一番いいので言うとそうね‥‥‥貴族の中でも下の方、男爵や子爵と言った地位の人達かしら」
「より良い暮らしを求めるのであればもっと高いくらいの方がいいと思うかもしれないが、案外高ければ高いほど仕事量も多いからな。そこそこの位の方が楽だそうだ」
「なんでそんな情報を二人が知っているんだ?」
「あたしは公爵家の令嬢だし」
「私は帝国の王女だし」
「「貴族関係について、一通り学んでいるのだ(よ)」」
……そう言えばそうだったと、ルースは思い出した。
一応、エルゼにレリアはそれぞれミストラル公爵家の3女とモーガス帝国の第2王女。
貴族に関しての教養は昔からされていただろうし、そう言った思い付きはすぐにできただろう。
「ちなみにでアルが、貴族位のなかでも男爵家が一番平民でも取りやすい位というそうアルよ」
と、話しにミュルも入って来た。
こちらは教師を今はしているが、一応元フェイカー幹部だったこともあり、それなりに供用が必要だったそうで、色々と学んでいたようである。
「そう言う物なのか?」
「ああ、そのはずだ。そもそもの話、国が管理している領地は貴族が治めているのだが‥‥‥」
「特産品、鉱山、観光地などがないような、あまりうまみの無い土地を管理したがる貴族はそんなにいないのよね」
「ゆえに、どうしても管理が放棄された土地がでるので、そこを管理する貴族を募集していたりするそうでアル」
ルースの質問に対して、三人はすらすらと答えた。
国がいくら領地を持とうとも、当然全てを収めることができない。
ゆえに、貴族に収めてもらい、その貴族は貴族で領地の運営のために代官を派遣したりするのだが、後はほぼ自由にやっているような状態だとか。
一応、国から税金の引き上げ基準や限界などを定められはするが、それでも後は好きにやっていることが多いそうな。
「なるほどなぁ‥‥‥それってつまり、治めて問題さえ起こさなければ自由にして良いのか」
「そういうことよ。まぁ、一応領地経営に入るのである程度の執務などをこなさなければいけないはずなのだけれども……」
「男爵や子爵レベルのであれば、そこまでのものではないはずだ」
「中には領民と一緒に畑を耕したり、祭りを開催しているような者もいるらしいアル。まぁ、悪徳領主と呼ばれるような、面倒事を隠して行う馬鹿もいるアルが…‥‥」
とにもかくにも、中々悪くなさそうな職業だ。
いや、貴族の事を職業と言っていいのかはともかく、一応男爵とかは元々公爵とかでも後を継げない人がなったり、もしくは何か功績を立てた人が望んでなることがあるらしい。
ただし、身分のつり合いとかは大事で、男爵位の人が上の身分の貴族と婚姻するのにも色々とハードルが高く、大体は一代限りという事が多いそうである。
「悪くは無さそうだけど‥‥‥結婚とかに関してハードルが上がるのか…‥」
「‥‥‥そんな反応をするってことは、ルース君はこの貴族位に興味があり、なおかつ結婚も視野に入れているのかしら?」
「ん?ああ、まぁそうかもな。一生を独身で終える気は考えていないし…‥‥」
エルゼのその質問に対して、ルースは普通に答えたのだが…‥‥その瞬間、食堂内の温度が一瞬にしてかなり下がったような気がした。
「「「…‥‥」」」
――――――‥‥‥。
なにやらバチィッとものすごい火花が散った音が聞こえたのは気のせいだろうか?
と言うか、明らかに空気が瞬時に冷たく、重たくなったのも気のせいだろうか。
そう思いつつも、その後は適当な話題が出て、皆で楽しくしゃべりつつ、午後の授業へ移り替わるために、一旦授業準備などでその場から皆は各々の目的の場所へ散会した。
……ただ、食堂にいた生徒及び職員たちは見ていた。
エルゼ、レリア、バト、それにミュルが瞬時のうちに互に顔を合わせ、視線をぶつけあって物凄い火花が生まれたように見えたことを。
そして食堂街では、野生の勘なのかタキ、ヴィーラが食堂の方を向き睨んでいた。
距離が離れていても、同じような思いを抱いている者たちは繋がっていたのだろうか。
「…‥‥ふふふふふふーっふっふ、面白くなーって来たわね」
学園長室にて、ルースたちの様子を魔法でこっそり覗き見していたバルション学園長は、そう笑みを漏らしながらつぶやく。
その言葉を聞く者はいない。
だが、彼女達が瞬時に交わした視線のぶつけ合いを見た者たちは同じことを感じた。
(((((あ、これ絶対に相当やばいことになりそうな予感がするぞ)))))
都市の上空は晴れやかな晴天のはずだったが、暗雲が渦巻き始めたように想えるのであった…‥‥
何やらルースの発言で引き金を引いたようである。
戦いにも色々あるが、この世で最も恐ろしい戦いと言うのは女の戦いなのではないだろうか。
その対象が鈍感と言うか、朴念仁と言うか、唐変木というのだと想いを伝えるのにより大変そう。
とにもかくにも、火花を散らしつつ次回に続く!!
……都市一つが消えそうな戦闘が起こるのはやめてほしい。できる限り魔法や武力と言ったものではなく、純粋に想いで戦闘してほしい。
何かが消し飛んだりすると、その描写が大変だからね。…‥‥作者なのに、そこまで制限できないと言うのが悲しい現実だけどね。