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148話

さてさて、騒動は続けてありそうである

―――――謎の液体事件、通称「セカンド液体事件」があってから時間が経ち、都市メルドランでは秋の収穫祭へ向けた準備がいよいよ佳境へ迫ろうとしている中、グレイモ王国の王城内、会議室では物凄い重い空気が漂っていた。



「…‥‥つまり、この間のメルドランで起きたセカンド液体事件とやら、それが反魔導書(グリモワール)組織フェイカーの手によるものだという報告が完了したわけだが‥‥‥‥今のところ、何か意見があるかね?」


 本日は国王が私情で欠席らしく、議長としてとりあえず適当な貴族が選ばれてその人物が司会役として告げる中、だれも意見を言えなかった。


「いや、ないな」

「というかあっても、打開策があるのか?」

「何しろ相手は神出鬼没、どこから出てくるのかいまだに足取りがつかみにくい組織だからな‥‥‥」



 はぁぁぁぁっ、と重い溜息があちこちで上がり、皆頭をうなだれる。


 フェイカーに関しては、絶対にどうにかしたいのだが…‥‥具体的な解決策が見当たらないのである。


「組織の狙いはこの国の壊滅、世界征服などと色々と判明してきたが、それでも全容の解明はできておらん」

「幹部を捕獲し、情報を吐かせたことがあるだろう?そいつはもう何も知らないのか?」

「ああ、知らないそうだ。協力的に全部話してくれたようだが、分かった事とすれば、根絶しなければ組織が無くならないということだ」


 トカゲのしっぽ切りのごとく、フェイカーは下っ端、もしくはいらないと思ったやつらは切り捨ててその本体を守り抜いてしまう。


 そして、雑草のようにしぶとく生えてきて、活動を起こすところまでは判明したのはいいが、それはつまり元を絶たねば何の解決にもなりえないという厳しい現実を示していたのである。




「今のところ、唯一組織と接点を持って居た幹部一名、および組織に狙われつつも撃退している黄金の魔導書(グリモワール)持ちの少年1名、それに彼に従う国を滅ぼせるだけのモンスター1体と、これらが組織に対して唯一の対抗手段となるのだろうが‥‥‥圧倒的に戦力負けをしているのは否定できないだろう」


 苦々しくその場にいた一人が発言し、現状の厳しさを彼等は理解する。


「そう言えば、最近新たに国を滅ぼせるモンスターが入国してきたという情報があるのですが、何か詳細を知っていますかね?バルション学園長殿」


 ふと、その情報を聞いたことがある貴族が、会議の場にいたバルション学園長に訪ねた。


「んー、詳細は不明ね。都市メルドランには観光目的で来-たらしいけーれども、今のとーころ特に動く気配はなーいわね」


 落ち着きながら、バルション学園長はそう答えた。



「まー、今はとりあえーず観光として滞在しーているらしいけれどーも‥‥‥」

「けれども?」

「‥‥なーんというか、『見えない』『隠している』感じがあーるかしら」


 その言葉に、その場にいた全員が首を傾げる。


「見えない、隠しているとは?」

「文字通りーよ。表向きは『観光』といーっているけど、裏向きがなんといーうか底が知れーない。だてに国を滅ぼーせるモンスターじゃないといーうことね」


 質問に対して、真剣な表情で学園長は答え、脳裏にはその姿を思い出していた。




 液体事件の終息後、戻って来たルースたちとともにやって来た大きな兎のモンスターを。


 タキいわく、条件がそろっていないとか、などの理由で彼女は今人化ができないらしい。


 その為、都市内にそのままの姿で入れば‥‥‥当然、そのモフモフもこもこの姿は目立つ。


……が、その姿が人気を呼び、今はむしろ都市のマスコット枠になりそうな感じであった。


【なんでこやつがマスコット枠になるのじゃよ‥‥‥】

「あっちの方が大きさ的にちょうどいいからじゃないか?」

【我じゃってモフモフじゃぞ?】

「そりゃあの大きな狐の姿だろ?人の姿を取っている時はその尻尾とかもあるけれども‥‥マスコットには思えないからな」


 むしろ、密かに裏で出回っている官能諸説ネタにされているのだが、彼女は擦る由もなかった。





 とまぁ、そんな会話があったのはどうでもいいとして、バルション学園長はあることを感じていた。


 あの兎モンスター、観光以外の目的がある。


 ただ、それが何なのかは不明なのだ。


 ただ、タキいわく国を滅ぼすような真似は色々とやらかさない限りしないそうだが…‥‥彼女が予想した内容を聞き、学園長もとりあえず対策を練っておこうかという気持ちにはなったのだった。






「ま、大体国を滅ぼせる力があーっても、めーったに力を行使すーることはないらーしいから、そこだーけは余計な手出しーをしなーい限り大丈夫なーはずよ」


 学園長はそう発言し、暗に「余計な事をしたらやばい」と含んだ。





 とはいえ、現状何も解決になっていないのはどうしようもないことである。

 

 安心した生活を送るためにもフェイカーを消したいとはいえ、その本体が見えなければ意味がない。


 具体的な打開策もなく、この日のフェイカーに関しての議題はここで一旦区切られることになった。





「では、次に議題に挙げるのは…‥‥そのフェイカーに唯一対抗できている黄金の魔導書(グリモワール)所持者の少年についてです」


 司会役からその言葉が出たとき、学園長は目つきを鋭くさせた。


 学園長として、生徒に何かお及ぶことに関しては真剣に考えなければいけないとしているからである。


「その魔導書(グリモワール)所持者に関しての議題?特に何問題はないんじゃないか?」


 室内で参加している貴族の一人がそう発言した。


「いや、とある問題が予想されるからこそ、議題に挙がるのだ」

「というと?」

「この少年‥‥‥グリモワール学園の生徒だから、今は都市メルドランにある学園の寮で生活を送っているのは理解していただけているであろう」


 


 一息ついて、続けて説明されていく。


「そもそもグリモワール学園とは、国内の魔導書(グリモワール)所持者たちを招集し、魔導書(グリモワール)の扱いについて学ばせる場所でもある。正しき扱い方を理解させ、将来の役に立たせていこうという想いで作られた学び舎だ」


 とはいえ、卒業後に魔導書(グリモワール)を扱うような職業につくとは限らない。


 普通に農村出身であれば故郷へ戻り、家を継いだり、魔法を活かして火災時の消防士や土木建築での建設作業などを行う人が多い。


 国に使えて魔導書(グリモワール)所持者として日夜魔法の研究を行ったり、有事には魔法を活かして戦闘に出てもらうこともあるのだ。



「そして、この黄金の魔導書(グリモワール)所持者も同様に学生として、現在学んでいるところだ。だが、彼が将来、どのような職に就くかは……決まっていないだろう?」

「ああ、それは個人の勝手で良いんじゃないか?」


 その説明に対して、貴族の一人がそう声を上げる。


「それもそうだ。だがしかし…‥‥彼が国から出て、他国へ行ってしまう可能性もある」


 その言葉に、会議に参加していた全員がはっと気が付いた。


 

 現状、唯一フェイカーに対応している一人がその魔導書(グリモワール)所持者である。


 その為、国内でフェイカーが現れたときに対応してくれているようだが‥‥‥もしも、その彼が国外へ行ってしまえばどうなるのか?



 今、フェイカーの狙いとしてはっきりしているのはこのグレイモ王国。


 ゆえに、対処できている彼がいるからこそ、すぐさま攻撃に出てくることが無い、いわば自然のストッパーのような役割を果たしてもらっているのも同然である。



 が、もしもその黄金の魔導書(グリモワール)所持者が国外へ行ってしまえばどうなるか?


 答えはすごく簡単、邪魔者がそうすぐには動けない位置にあるので、どんどん攻めてくる可能性があるのだ。



 まだこのグレイモ王国と友好関係にあるモーガス帝国とかに行くのならともかく、それ以外の場所に行かれるのは非常にまずい事態となり得るのだ。


「とはいえ、強制的に王命とかで国内に留めようとすれば、それこそ反発される可能性が高い。彼はそういった権力などに縛られるのを拒絶するようなところがあるらしいからな」


 というか、そうやって権力や金で引き寄せようと擦れば、嫌ってしまうのははっきりしているだろう。


 

 その例として分かりやすいのは、前に会った決闘事件。


 あれはとんでもない屑貴族がやらかしたものであり、あの時点で国内の貴族とかに関して好印象はないと予想されるからである。


 これで無理やりにでも動かしてみればどうなるか。


 それこそ、彼の持てる力を使って逃亡されるのは目に見えているし、最悪の場合彼が召喚する国滅ぼしのモンスターによって手痛い損害が出てしまうのは楽に予測できた。


「と、何の解決にもならないことを言っても仕方がない。どうやって彼を自然にこの国を見捨てないようにさせるかを考えるのが一番だと思われるだろう」


 説明が終わり、頭を抱えて悩む者たちがでる。


 下手な権力も行使できず、金にも執着はなく、なまじ力を持って居るだけに強制できない。



「一番良いのは彼自身が残ってくれるような相手がいてくれれば良いんだがな。最低でも、この国に敵対感情を持たないようになってくれれば良いだろう」

「となれば、現状分かっている彼の女性関係を洗ってみるか?」

「いや、洗うまでもない。この国の国王陛下よりもはっきりしすぎているというべきか‥‥」

「ああ、というかあの国王の隠し子とかを探す方が大変だよな‥‥‥」


 なにやらぼそぼそと不敬にあたりそうな、そうでもないような話題が出たが、誰も聞かなかったことにした。


 巷では下半身ゆるゆる大魔神国王と呼ばれているそうだが、特に国民に不快に思われていないし、そこそこ人気があるのはまだ良いだろう。


……というか、その隠し子とか落胤とか言うのを探す方が大変であると言うのが、皆の一致した意見であった。


 フェイカ―やその魔導書(グリモワール)所持者云々よりも、将来的な王位継承権で問題が起こりそうだが‥‥‥それはまた別の話である。














「ぶえっくしょん!!」

「うわっ、勢いよくくしゃみしたわねルース君」

「風邪でも引いたのか?」

「いや、なーんか出たんだよな」


 丁度その頃、学園の食堂にてルースたちは昼食をとっていた。


「噂されるとくしゃみが出るというが、案外それじゃないかな?」

―――――主様、噂ニナル事多イ。

「いやいや、流石にそんなことはないだろうな」


 レリアとバトの言葉に、ルースは軽く笑って返答する。


【そうじゃろうかのぅ?召喚主殿はいろいろやらかすし、その事で話題に上ることは少ないはずじゃ】

「と言われても…‥‥ん?あれ、タキ何でここにいるんだ?」


 自然に返答した後に気が付いたが、いつの間にかタキがルースの傍に立っていた。


 召喚していないはずだが、本日も勝手に学園内に潜りこんできたらしい。


【この間の液体事件といい、何かと物騒じゃからのぅ。この収穫祭の時期にも何かありえそうじゃから、しばらく召喚主殿の身辺について警護をするようにしたのじゃ】

「ふーん、まぁ別にいいけれども…‥‥」


 タキが自ら動いているけど、こういうときに限って何かろくでもないことが続けて起きるからなぁ‥‥


「1匹見たら30匹入るというように、騒動が一回起これば続けて大量に起きなければいいんだけどな」

「ルース君、それ何か違うような気がするわよ」

「食事中に言う話題ではないな‥‥‥」



 例えに出したあの虫だが、どこの世界にもいるらしく、エルゼ達は理解したらしい。


 ちなみに、この世界だとモンスター扱いであり、その100倍の数がいるらしいが‥‥‥考えるだけでもぞっとする。


 フェイカーとかよりも、そういった恐怖の方がよっぽど恐ろしいようにルースは思えたのであった。


噂とかでくしゃみって出るのかな?

なんにせよ、まだまだ問題がありそうだ。

主にルースの周囲で‥‥‥

次回に続く!!


……ただ今新作予定中。リメイクか完全新作か検討中デス。

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