144話
騒動だけど、ただ収めて終わりにはならない。
敵だってなぁ、学習するんだよ。
時計塔からあふれ出し、今まさに地上へ不気味な液体が落ちようとしていることに、歳の人々は気が付いた。
その時彼らの脳裏には、昨年あった事件が思い出される。
謎の液体が都市内を蹂躙し、被害が出ていたことを。
あれからすぐに復興は終了し、それなりに活気が戻ってきていた中での、似たような事件が今、生きてしまったのだ。
慌てて逃げようとする市民たち。
そんな中、逃走する住民たちとは反対方向、謎の液体へ向けてルースたちは向かっていた。
「よし、この位置からならば行けるはずだ!」
最接近するのは危険故に、すぐに逃亡できるだけの距離でルースたちは魔導書を権限させ、魔法を打ち出す用意をする。
その他にいるのは、エルゼ以外にも、学園から素早く有志を募ってきてもらった青色の魔導書を持つ者たちである。
相手が液体状……ゆえに、水や氷に関しての力を得ることができる魔導書を、短時間のうちにかき集め、全員で氷の魔法を放つことによって液体を固めてしまおうと考えたのである。
その他の学園の生徒たちはすでに避難済みで、この場にいる魔導書を持つ者たちに人数もそれなりに勇気がある者たちだけしかいない。
「えっと、俺の場合は複合魔法を出せばいいな」
「ええ、ルース君はそれで、あたしたちは氷の魔法で一気に凍結させるのよ」
ルースの言葉に、エルゼがそう答えて魔法を討つ構えをとる。
「そーれでは、狙いをさーだめて!!」
氷の魔法を扱えないが、学園長が前に出て皆へ合図を飛ばす役割を取る。
ついでに、念のためにタキを召喚し、一応万が一に備えて時計塔ごと液体をふっ飛ばすために、離れた場所にスタンバイをお願いしていた。
まぁ、それはできるだけとりたくない手段だけどね‥‥‥‥時計塔がないと、この都市って今一つ特徴ないからね。
とにもかくにも、時計塔のてっぺんからあふれ出し、下へ流れてくる液体にルースたちは照準を合わせる。
「発射10秒前!9、8、7、6、5、4、3、2、1…‥‥撃てぇぇぇ!!」
「「「「「『グランドブリザード』!!」」」」」
「『アイスストーム』!!」
他の青い魔導書を持つ者たちは猛吹雪を放つ魔法を、そしてルースは風と氷の複合によって発生する強力な氷の竜巻を横向きに発生させ、皆が放った魔法を包み込み、その威力を増大させつつ、一気に液体へ向けて放たれた。
ビュゴォォォォォォォォォォォォ!!
超・強烈な寒波、いや冷凍光線とも言える強力な冷気が発動する代償に、周囲の気温が一気に低下したらしい。
皆の吐く息が白くなる中、その魔法は液体へ直撃する。
ズドォォォォォォォン!!
さすがにこれだけの強力な冷気であれば、どんな液体であろうとも凍ってしまうだろうと思ったその瞬間であった。
「‥‥‥ん?」
……チュウゥゥゥゥゥゥゥゥ
直撃し、液体が凍る音が聞こえるかと思っていたのだが、なにやら様子がおかしい。
こう、何か吸い取っているかのような音が聞こえ‥‥‥ルースたちは魔法の直撃点を見た。
「なっ!?」
その瞬間、何が起きたのかルースたちは目のあたりにした。
先ほどの強烈な寒波が…‥‥なにやら液体から出てきた漫画のタコの口のような部分に吸われているのだ。
そのまま飲み込んでいき、げふっと音が聞こえ、冷気が消えてしまった。
「な、なんじゃありゃ?」
「ま、魔法を吸収しただと!?」
「というかあの口気持ち悪っ!!色合いの不気味さを嫌な感じにマッチしていやがる!!」
まさかの魔法を吸収した液体に、ルースたちは戦慄を覚える。
と、その時であった。
【おーい!もう時計塔を吹き飛ばしても良いかのぅ?】
後方から聞こえてきた声に、タコの口のような部分に驚愕していたルースたちははっと我に返った。
そう、タキがスタンバイしており、今まさに彼女から時計塔を吹き飛ばす程度に加減された攻撃が飛び出ようとしていたのだ。
「す、ストップだタキ!!」
慌ててルースはタキに聞こえるようにそう叫んだ。
先ほどの魔法の吸収能力からして、この液体相手には氷魔法は悪手。もしかしたら他の魔法なら聞くかもしれないが、試すには少々時間が足りない。
それどころか、見るからに蠢き具合が増している液体の様子から、力として利用されているのではないかという予想が立ったのである。
では、そこにタキの攻撃が着弾したらどうなるか?
行うのは、以前ルンブル王国の秘密兵器とされていた怪物相手に繰り出した『爆裂光線砲』とかいう攻撃。
これはどうもルースたちが扱う魔法とは微妙に異なり、今回は時計塔のみに集中させ、威力を加減しているものである。
以前のはルースの補助もあったがゆえに森が吹きとんだことから、加減して威力はかなり下がると思われるが…‥‥仮にも国滅ぼしのモンスターと言われている彼女の力であることは間違いない。
ゆえに、加減された状態のものでも、それなりの驚異的な威力を持って居るはずである。
だからこそ、そんな攻撃があの液体に吸収されると、どう考えても厄介事しかルースたちは思いつかなかった。
慌ててタキの攻撃を辞めさせたあと、液体が迫り来る前に素早くルースたちは撤退する。
幸いにして、あの液体は以前都市を襲撃したものに比べると、進行速度は遅い方だ。
……まぁ、それでも自転車に乗っている速度があるけど、この程度であれば振り切れる。
そう思って居た瞬間である。
ジュブボボボボボ!!
「!?」
突如として、液体の表面から何かが飛び出てきた。
それらはまるで人の手の形をしてはいるが、そのサイズは大きく……
「って、襲って来たぞ!?」
流れている液体よりも早く、ぐにょーんっと勢いよくその不気味な色合いをした液体の手が伸びてくる。
慌てて逃げ惑ううちに‥‥‥‥一つはっきりした。
どういうわけか、全部の手が他の人達を狙っておらず、ルースのみに集中している。
もしかすると、いや、もしかしなくとも、この不気味気持ち悪い液体はルースを狙っている。
「た、タキ!!」
【了解なのじゃ召喚主殿!】
ルースの呼びかけに素早くタキは駆け寄り、背中に乗せて一気に離脱する。
ルース人が走るよりも、タキに乗ったほうが早い。
そう考えてであったのだが‥‥‥‥ここで、あの不気味な液体共は新たな変化を見せた。
ドロドロに流れ、都市内に流入しようとした液体たちは集約し、ルースたちの元へ向かって飛んできた。
「【何っ!?】」
そのまま大きな腕となり、ルースたちをつかみかからんとして来る。
「タキ!都市から出てどこか広い平野へ向かうぞ!!」
【ああ、ここだと不味いからのぅ!!】
ここは都市内であり、迂闊に液体を迎撃しようとして暴れれば周囲に被害が及んでしまう。
ならば、ルースに狙いを定めている今こそ、自身を囮にして離れればいいのだ。
猛ダッシュでタキが駆け抜け、都市を飛び出す。
続けてその後を追うようにして、液体たちもズドドドッと、鉄砲水のごとく押し寄せ、手の形をとってルースたちを追いかけてくる。
「『精霊化状態』へ…‥‥そしてタキ!負担を考えずに全力でこいつらをどこかの平野まで本気で走って引き寄せろ!!」
精霊状態となり、身体を強化してルースはそうタキに指示する。
タキの全速力は、生身の人間であればその負荷が大きすぎる。
だがしかし、精霊状態は生身の人間とは異なるので負荷に耐えられるのだ。
あの液体が途中で振り切れて、何処かに落ちないようにしつつも、タキは速さを調節して使づ離れずの距離で誘導した。
そして、彼女が選んだ平野は、都市からも、いや、国からも離れた平野。
【よっと、ここでならば大丈夫じゃろう!!】
急ブレーキをかけ、その場にタキがとどまる。
振り返ってみれば、タキの速度にも関わらず、ついてきたあの液体たち。
『よし、ここでならば全力を出せる!』
精霊状態のまま、ルースはタキの背を降りて、液体と対峙する。
魔法による攻撃は、冷気の吸収が行われたことからあまり効果がないだろうと予想できる。
だがしかし、精霊の力であればどうなのだろうか?
ルースはそう思い、全力をとる構えをするのであった‥‥‥‥。
そしてその頃、ちょうど彼らの近くにあるものが走っていた。
そのものはある目的のために、駆け抜けていたのだが…‥‥ふと、大きな力を感じた。
【‥‥?なんダヨこの大きな力ハ?】
感じ取った力を探るが、この場所ではどうもよくはっきりととらえきれない。
いや、別にその力が小さいわけでもなく、むしろ大きすぎるがゆえに捉えにくいのだ。
何はともあれ、その力を不思議に思い、寄り道のつもりでそのものはその場へ向かうのであった…‥‥
魔法を吸収する液体、それに対峙するルースとタキ。
精霊の力は、果たしてその敵に通用するのであろうか。
そんな中、彼等に何者かが気が付いたようで…‥‥
次回に続く!
……微妙にこの次回予告って、内容を変えたりしている。こうやって指針を立てないと、次に何をやるのか忘れたときに便利だからね。
何はともあれ、次回モフモフ増加予定。ようやく追加できそう。ようやくか、ようやくモフモフが増えるのか……(これまでのモフモフ:タキ、バト(繭形態と妖精女王としての衣服の袖口)。うん、少ないなぁ。