141話
説明回に近いかも
その日、学園では驚愕の声が上がった。
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
皆が目を丸くする中、その驚愕の元凶へルースは尋ねる。
「えっと、つまりバトがなったのは…‥‥『大妖精』じゃないということでいいんだよな?」
―――――ソウラシイヨ?
【うむ、どうもそれよりも上位の‥‥‥妖精族の中では最高峰、あこがれの頂点とされる『妖精姫』というものになったそうじゃ。今、エルモアが調べておるから詳しい事はわからぬがな】
首を傾げるバトの横で、事情説明のためにそばにいたタキは説明した。
昨晩、妖精の群衆が都市メルドランへ集結していたらしい。
彼等が向かう先にいたのが、バト…‥‥妖精からさらに上の存在へ移行するその瞬間を見届けるために、妖精たちは集まっていたそうである。
そして、変化を終え、新たな姿に…‥‥正確には、やや大人似た姿となり、人間サイズになった彼女へ向けて妖精たちは口々にこう喋ったそうだ。
【「―――――我ラガ妖精ノ最上位者!」、「―――――『妖精姫』ガ、今宵誕生シタゾー!」っと、何やら歓喜にあふれ、各地に伝えるために散らばっていったのじゃよ】
「声真似がうまいなタキ・・・・・・いや、それはそうとして、そんなことがあったのかよ」
【そうなんじゃよな。まぁ、その為に本日召喚されておらぬ状態でここに来て、召喚主殿とその他に、バトがうまいこと説明できぬじゃろうからその代わりにきちんと説明してやろうと思っていたのじゃが…‥‥皆驚愕しすぎではないかのぅ?】
「いやいやいや、驚くってば」
バトの変化は「大妖精」と思っていたのに、それとはまったく違う最上位の存在『妖精姫』とやらは流石に予想外であった。
とはいえ、考えてみれば別におかしな方向へ変化したわけでもない。
「精霊の力が影響を与えちゃったと考えると、なんか納得できるもんな」
「ルース君の影響だと言えば簡単な話しよね」
「ああ、ルースの傍にいたからな」
【うんうん、召喚主殿が100%原因じゃと思えば皆も理解できるじゃろう】
「「「「「確かに…‥‥」」」」
その場にいた全員が納得したようだが、精霊の力よりも自身の存在そのもののせいだと言われ、ルースは納得しがたくなった。
よく聞く「○○のせいで片付く」って、実際に自分が当てはめられると複雑な気分になるのはなぜだろうか?
とにもかくにも、バトは色々と変化していたが、特筆すべきはその背中の翅である。
蝶のような翅だが、身体の半分ほど縦長であり、広げればかなり大きい。
金色なのは以前と変わらないが、複雑な模様が施され、より一層神秘的な翅になったようにも見える。
そして、頭にはティアラのような小さな銀色の冠のようなものがあるが、これが『妖精姫』の『姫』部分の要素なのだろうか?
あと、来ている衣服がより一層高級感にあふれ‥‥‥
「袖とかがすごいモフモフもこもこしているとは…‥‥うらやましいというか、心地良いな」
触らせてもらったが、このモフモコ感触は今までにない手触りである。
たまに狐の姿のタキをモフることがあるのだが、そのモフモフとは違ったもこもこ感があり‥‥‥なんというか、某銀河鉄道の人みたいな、いや、コートと言った方が良い衣服である。
何にせよ、ここまでの変化は予想だにしなかったことだ。
「大妖精」どころかそれの上位的存在らしいが…‥‥具体的にどのようかはまだよくわからない。
ゆえに、一旦この話は学内に収めてもらい、迂闊に広がらないようにしてもらった。
……目撃者がいる中での箝口令の式方?
そりゃ、同級生だし、頼んだんだよ。決して魔導書やエルゼ達の権力と言ったもので脅してはいない。
うん、エルゼとレリアに皆を黙らせられないかと尋ねたら、色々手をまわしてくれたみたいだけど…‥‥バトを一旦この場から隠して、エルモア先生の連絡があるまで寮室に戻そうとしていた時に、背後からものすごい威圧感や殺気を感じたが、それは気のせいだと感じたい。
とにもかくにも、時間はかかったがようやく放課後に、バトの変化した 『妖精姫』というものがどんな存在か判明したという連絡をうけ、ルースたちはエルモア宅に向かった。
ちなみに、周囲に気が付かれないように念のため人通りが少なく、姿をごまかせるように光と闇の複合魔法でいろいろ隠蔽したので、バレていないはず…‥‥。
「さてと、数多くある要請に関する文献の中から、ようやく見つけた『妖精姫』についての記録を語ろうかな」
エルモア宅に到着後、ルースたちはエルモアから説明を聞き始めた。
妖精に関する文献だけであれば、それなりの数はある。
だがしかし、その中でも『妖精姫』に関する内容は少なかったそうだ。
「だが、『妖精姫』についての詳細はある程度判明したな」
「というと、一体どのような内容だったのでしょうか?」
その質問に対して、エルモアは話し始めた。
……まず、『妖精姫』はここまでに分かっている情報では『妖精』、『大妖精』といった種族よりも、妖精の中では最上位の存在ということである。
だがしかし、ただ単に種族の最上位と言う話であればなんでもないのだが、この『妖精姫』に限っては事情が異なった。
「それは、妖精の存続に重大な役割を果たすからだと記録されているな」
「存続に役割を果たす?」
―――――ドウイウ事?
エルモアの言葉に、ルースも話題の中心のバトも首を傾げて尋ねる。
「ああ、簡単に言うのであればそうだな…‥‥妖精の源泉かな?」
「妖精の源泉?」
「もしかして……妖精が産まれるために必要なものだということなのかしら?」
「その通り」
エルゼの言葉に、意を得たりというような顔でエルモアは肯定した。
『妖精姫』というのは妖精の最上位種、つまりは突き詰めた最高峰の存在とも言える。
そして、妖精は精霊に似て異なるが、それでも性質は同じようなところがあるという、どこか矛盾というべきか、ややこしい部分がある。
「まぁ、要は『妖精姫』が妖精の種族の中では最も精霊に近い存在であり、最も力のある存在とも言えるわけだが‥‥‥その本質がただの妖精ではなく、精霊に近い存在という所が重要だ」
「というと?」
「精霊に関しては以前も話したが、彼等は自然の力そのものに近い、もしくはその物でもあるという存在。ゆえに、精霊が産まれる要因は自然の力が集まってということもあり、繁殖行為で増えることもあるのだが‥‥‥妖精も同様の部分が存在する。つまりは、妖精も自然発生か、もしくは卵からという条件で増えていくわけだな」
ここまで説明を受け、ルースたちは気が付いた。
「なるほど、その話しから考えるとバトの『妖精姫』という種族は‥‥‥妖精を自然に発生させる存在、つまりは妖精の湧きだす泉ということで源泉と表現できるのか」
「そういうことだ。まぁ、実際に妖精が湧きだすのはまだまだ無理そうだがな」
要はバト=妖精発生源という考え方で良さそうである。
妖精は大昔に会った乱獲とかで数が減り、現在は回復傾向にあるそうだがそれでもその大昔に比べればまだまだ数が少ない。
そんな中で、新たに要請を増やせる存在としてバトが『妖精姫』になったのは、妖精たちにとって希望の星でもあるのだろう。
ゆえに、その希望の星の誕生を見届けるためだけに、昨晩妖精たちはいっせいに集結してきて、目に焼き付けようとしていたそうだ。
「今頃各地の妖精の住みか…‥‥人里離れた隠れ里というべき様なところでも、妖精間で話が広がり、活気付いている頃合いだろうな」
「うわぁ、物凄い勢いでその話が拡散されているのか…‥‥」
話を聞く限り、集結していたという妖精の数は本当に数が少ないのかと疑いたくなるレベルで集結していたそうだが、その妖精たち全員がバトに関して話していると考えると‥‥‥想像以上に噂が広がっていそうだ。
「と、ここまで分かったのは良いとしてだ、話しはここからだな」
説明を終えたエルモアは深刻そうな顔をして、ルースたちに向けた。
「『妖精姫』という存在は、妖精の源泉…‥‥つまり、彼女さえいれば妖精が発生することができるというのは理解できたよな」
「はい」
「じゃぁ、そんな存在がいると知られた場合、普通の人ならば『へぇ、すごいやん』というだけで終わるが、それがあくどい人であればどうなるかな?」
「…‥‥あ」
……妖精は乱獲によって数が減った歴史がある。
それは、妖精の翅の美しさに魅せられた人たちが己の欲望を満たすために行ったことであり、現在はきちんと乱獲は禁止され、妖精たちとの関係修復に取り組む者たちもいる。
だがしかし、そんな現在でもやはり馬鹿というか、愚者はいるもので密猟を行ったりして、危害を加える者たちがいるのだ。
いまだに妖精の翅に興味を持つ人たちがいたり、もしくは妖精が翅を除けば人に近い姿でもあるので嗜虐性を満たすはけ口に利用する輩もいるのだ。
となれば、もしその妖精を生み出せる存在の話が知られればどうなるか?
「‥‥‥バトを狙って動く奴らが出てくると」
「そういうことだな。まぁ、黄金の魔導書持ちの庇護下であり、その友人たちも王国の公爵令嬢、帝国の王女、ついでに国滅ぼしのモンスターがその周囲にいるとなればそう手出しを簡単に出す者はいないだろう。だがしかし、それでも馬鹿は馬鹿だ」
つまり、考えもせずに、むしろ自分の権力や繋がりを利用して仕掛けてくる輩が出てもおかしくはないのである。
「このグレイモ王国とて、心悪しき者たちが0ではない。ゆえにそんな馬鹿をやらかす輩が出る可能性もあることを、注意したほうが良いだろう」
エルモアの言葉は、ルースたちの心に刻まれた。
絶対に気を抜かないほうが良いし、馬鹿がでるのであれば…‥‥
「一網打尽にできれば一番いんだけどな…‥‥」
「でも、のらりくらりとごまかす輩も出るわよね」
「となれば、今のうちに証拠集めでもしておくべきか?」
何にせよ、将来的な危険の回避のために、ルースたちは考え始めるのであった。
……というところで、ある問題が真っ先に出てきた。
「って、そういえばバトの大きさが人間サイズになったけどさ、彼女の寝床をまずはどうするんだよ?」
―――――主様ノ傍デ良、
ガシッツ
「‥‥‥どさくさに紛れて何を抜け駆けしようとしているのよ」
「なんというか、抜け目がないなぁ」
バトが口を開こうとしたところで、エルゼとレリアがその方をつかみ、威圧する。
「ん?そういえばタキは?」
ふと、ルースはタキが先ほどから会話にいないことに気が付いた。
「ああ、どうも先ほど手紙を受け取って、自室に向かっていたな」
「手紙?」
モンスターのタキに手紙を出すような人がいるのだろうか?
ちょうどその頃、手紙を読み終えたタキは難しい顔をしていた。
【‥‥‥ぬぅ、まさかあやつから来るとは思わなかったのじゃよ】
手を顎に当て、考え込むタキ。
【『妖精姫』だとか、色々とややこしい状況で、何故にあやつは‥‥‥】
ぶつぶつとつぶやき、タキはどうしたものかと悩む。
ルースたちに話せればいいのだが、出来ればルースには知られたくない。
なぜならば、現在ルースを囲む女の中で自身のアイデンティティーというべきものを脅かすような相手が、この都市メルドランへ遊びに来るという内容だったからである。
【‥‥‥よし、徹底的に召喚主殿に出くわさぬように妨害してやるかのぅ】
そう心に決め、手紙の返事を書くタキ。
……めんどくさそうな状況が、何かありそうな騒動が、再び起ころうとしているのであった。
面倒とというか、なんでこうも厄介事ばかりなのか。
なんにせよ、もはや受けに回るのではなく、防ぐ対策をしていかねばならない。
そう考えたルースたちであったが、今さらというか・・・・・もう遅いのであった。
次回に続く!
さてさて、手紙の主も気になるなぁ。