閑話 観光最終日の夜
次回からは新章予定。
でもその前に、ちょっとだけ…‥‥アレの久しぶりの出番です。
いつ以来かな?
―――――モンスターの体内に飲み込まれるという騒動がありつつも、その後は何とかたいした事件もなく、ルースたちは帝国の観光を楽しめた。
「とはいえ、思った以上にレリアが王女らしくしていたのも驚いたけどね」
「ええ、普段の様子から想像つかなかったわね」
「その言い方はひどくないか!?」
ルースたちの感想に、レリアは声を荒げた。
何しろ、帝国の「戦姫」と言う名で有名であった彼女だったが、王城内での暮らしぶりを見てみれば、案外まともだったのである。
ルースたちが観光しているときに一緒にいる時間もあったが、空いている時間に王女としての職務として晩餐会に出たり、なにやら軍系統に関しての政務を手伝って居たり、お茶会を開いて帝国貴族の相手をしていたりと、王女らしい事をやっていたのである。
……まぁ、それが普段の帝国の彼女の姿なのかは少々怪しかったが。
なぜならば、物陰で皇帝が見ていて、驚きつつも嬉し涙を流していたのを目撃したからである。
「ああ、娘がようやくまともな王女らしいことをやってくれた」
そうつぶやきつつも、帝国製のマジックアイテムのカメラのようなもので写真を撮っていたりして、いつの間にか背後にいたルーレア皇妃によって政治の場へ連れ戻されるということもあったが…‥‥なんだろう、厳格な皇帝と言うイメージから、親馬鹿というイメージの方が強くなったような気がする。
それに、この観光で王城に滞在させてもらっている間、少々ルースはルーレア皇妃の模擬戦相手にさせられていた。
レリアの客人として訪れているのだが、観光の合間に暇なときがあればやや強制的にさせられたのである。
とはいえ、身体がなまることは避けたかったので一応受けることは受けたのだが…‥‥ルーレア皇妃はバルション学園長のライバルと言うだけあって、相当強かった。
何しろ剣術はトップクラスな事はもちろん、魔法すらも切り裂き、いくらルースが接近戦に持ち込ませないように注意しても潜り込んできて、どうしようもなかったのだ。
……しかも、日ごとに強くなっていたような気がするし、最終的には奥の手……「精霊化状態」にならざるを得なくなって、それで対応していたのである。
はじめてその状態を見たときに、ルーレア皇妃が獲物を見るかのような、捕食者のような目でニヤリと笑ったのは、本気で怖かった。
ああ、絶対相手としては不足ない上に、面白そうだと思っていたんだろうけど…‥‥シャレにならない。
ちなみに、精神的に成長したのか、精霊状態になって気絶することはなく、加減もできるようになっていた。ただし、ルーレア皇妃相手では加減はできなかった。
いや、あれは加減無しだと舐めていると判断されるのか、本気でやりにくるのである。
バルション学園長もそうだったけど、この手の類の人って強さに制限がないような気がする。生きている間に勝利することが出来るのだろうか…‥‥二度と勝負したくないけどな。
「少なくとも、数回ほどは三途の川を見たような気がするなぁ‥‥‥」
「ルース君、フルボッコにされていたわよね」
「あの状態でも勝利する母が化け物に見えてきたな」
遠い目をするルースに、うんうんと同情し頷くエルゼとレリアであった。
そうこうしているうちに、帝国での観光を終了する期日となった。
夏休みはまだあるのだが、村に帰郷したくもあり、その事を考えると、期限を決めなければならなかったのだ。
タキに乗って移動するから時間はたいしてかからないとはいえ、やはりゆっくり家に帰ってすごしたい気持ちがある。
村へ向けての出発前夜、世話になった王城の人達にルースは挨拶をしていく。
レリアの客人として過ごしてきたとはいえ、やはりこういう所では気配りしないとね。
「ふふふふふ、もう帰っちゃうのかしら。また暇になるわねぇ」
ルーレア皇妃の元へ、帰還前の挨拶をすると、彼女はそう答えた。
訓練場で兵士たちを相手にしていたから、見つけやすかったが…‥‥背後の兵士たちの顔色が青くないか?
「ああ、あの客人が帰ってしまうのかよ」
「くそぅ!皇妃様の興味対象が移っていたからしばらく平穏だったのに、またあの地獄の日々が来るのか!!」
「真正面から戦闘し、戦える相手なんて貴重だから皇妃様が彼との戦闘に精を出して、我々への戦闘訓練が減っていたというのに……」
物凄く嘆かれているような‥‥‥‥ああ、なるほど。
ルースはなんとなく、自分が皇妃への生贄のような立場にあって、兵士たちが平穏に過ごしていたことを察した。
ルースが帰還するということは、再びその平穏な日々が荒らされるのが目に見えているようで…‥‥同情はするが、なんとも言えないのであった。
強く生きてくれ、帝国軍の兵士たち…‥‥多分、何処かで心が折れるけど。
何にせよ、大体の挨拶周りが終わったところで、就寝の時間となる。
客人用の宿泊室(男性用)の寝床で横になり、ルースは眠気に誘われる。
……少々女性部屋の方が騒がしいような気もしたが、まぁ大丈夫だろう。
何か変な事でも企まれていない限りは‥‥‥‥
――――――――
「…‥‥で、久しぶりにこれですか」
真っ暗な空間、久しぶりの魔導書との会話になった。
目の前に開かれているのは、ルースの持つ金色の輝きを放つ黄金の魔導書。
かなり久しぶりの会話となるかもしれないが、まさか帝国出発前夜の夢の中でなるとは思わなかった。
―――――久シブリダナ、我ガ主ヨ。
「ああ、久しぶりと言えば久しぶりだが…‥‥今回は一体どういった要件だ?」
こういう魔導書との会話がある時、大抵その後にろくでもないことが起きたりするので、ルースは心構えた。
―――――案件、特ニ無シ。
「無い?」
―――――シイテ言ウナレバ、暇潰シデアル。
……暇だから今晩語り明かせということなのだろうか。
心構えていた分、拍子抜けはした。
けれども、こうやってゆっくり語るのも悪くないかもしれない。
「なるほど、単に語り合うだけにか」
―――――ソノ通リダ。イツモ面倒事ノ話デハ気ガ滅入ルダロウ?
「ま、確かにそうだな」
一応、魔導書なりに気を使っての事なのだろうけど…‥‥話すネタがない。
ちょっと黙りつつも、ふとルースはこの際質問をしてみようと思った。
「なぁ、魔導書よ。前から聞きたいと思っていたけれども、今更かもしれないが‥‥‥なんでお前は俺と会話が可能なんだ?」
最初のころに聞けばよかったかもしれないが、ごたごたが多くて聞く機会がなかった。
その為、落ち着いているのであればこの機会に聞いてしまえと思ったのである。
―――――‥‥‥ソロソロ精神的ニモ十分カ。良イ頃合イダシ、主ニ話ソウ。
ルースの質問に対して、魔導書は少し考える様なそぶりを見せ、そう答えた。
―――――主ト我ガ会話可能ナノハ…‥‥我ガ主ノ道標トナルヨウニシタ存在ガイルカラダ。
「道標?」
―――――簡単ニ言エバ、主ノ前世ニアル「ナビゲーションシステム」トヤラカ?タダ、主ノ身ニ危機ガ迫ル時、モシクハ何カシラノ事ガ起キタ時ノアドバイスシカデキヌ。
「それはナビゲーションシステムと言うよりも、アドバイザーとかそう言った類に近いような・・・・・」
―――――ソノ認識デモイイダロウ。
ルースの言葉に、うんうんと頷くように動く魔導書。
要は、ルースに対して何かあった時に、適切に対処できる方法を教えたり、もしくはルースの体にある力を解放させるシステムのようなものが組み込まれているからこそ、会話可能な状態になっているのだとか。
そうなるように定義づけた存在は気になるが…‥‥今はそこまでしか言えず、それ以上話すにはまだまだ時期早々らしい。
―――――ケレド、コレダケハ言エル。『主ヲ我ハ裏切ラナイ。ケレドモ全テ我ガ出来ル分ケデモナイ」ト。
「‥‥‥つまり、裏切らないけどできない範囲もあるってことか」
何にせよ、これ以上の魔導書に関する質問は行き詰まるだろう。
そこで、今度はルースは違う質問を投げかけた。
「じゃぁ、別の質問」
―――――ナンダ?
「フェイカー製の怪物を討伐する際に、精霊化前から使えていた……お前が解放することで使える力の正体。それはなんだ?」
以前に少しだけ聞いたところでは、前世の死因ともなった原因らしいが‥‥‥その詳細を知りたいのである。
―――――単ナル「力」トシカ言エヌ。元ハ異界ノ力2ツ、デモ1ツニナッタモノデアル。
こればかりは、どうも魔導書でも回答しようがないようである。
ただ、「異界の力2つで、一つになったもの」というのは気になるけど…‥‥詳細は不明だ。
けれども、死因として教えてくれたのは、その力の衝突が原因だとか。
―――――流レタ力、前世ノ主ニ直撃、木ッ端微塵、被害甚大。デモ、魂ニツイチャッテ剥ガセナイ。
「木っ端微塵!?」
割と凄惨な状態だったようで、ルースは驚愕した。
絶対前世のその事故現場、大騒動になっていること間違いないだろう。
「‥‥‥とにもかくにも、その力がくっついて離れないから、今も一緒についたままだということか」
―――――ソウダ。ダガ、大キスギル「力」ハ危険。故ニ封ジ、主ノ平穏ハ保タレテイル。封印ナカッタラ、阿鼻叫喚地獄ト化ス。
「それ、どこのピンク玉かガキ大将のコンサート現場だよ……」
そんな言われ方をするほど危ない力がるというのどうかと思うが…‥‥例え方もひどい。
まぁ、その力のおかげで窮地を救われることもあったから、悪い力でもない。
ただ単に、まだまだ制御が未熟というのでそうホイホイ解放されることもないらしいが…‥‥今後、もしもっともっと成長出来ればこちらも自由に意思次第で扱えるようになるらしい。
――――――海ヲ割リ、天ヲ裂キ、地ヲ砕クレベルダ。
「うん、ずっと封印したままでもいいからそのままそっとしておきたい」
大きすぎる力というか、もはや天災じゃん。そりゃ怪物とかも一撃で葬ってしまうよ。
それ以降は、特にたいした質問もなく、適当にルースと魔導書は語り合うだけであった。
――――――ット、ソロソロ時間。朝ダ。
真っ暗な空間で分かりづらいが、もうそろそろ夜が明け、ルースが目を覚ます頃合いらしい。
「そうか、久しぶりにゆっくり喋ったような気もするし、全然片付かなかったが、それでも少しは俺の事を知ったような気がするな。それじゃ、また今度話す機会があれば話し合おうか」
―――――了承。…‥‥最後ニ忠告。
「ん?」
―――――女難運悪化。背後ニ注意スベシ。
「ちょっと待て!?なんだその現実性があるとんでもない忠告は!?」
そう叫び、思わずルースは跳ね起きた。
気が付けば朝陽が差し込んでおり、誰もその場にはいなかった。
だが、最後の方で魔導書が残した忠告に、ルースは嫌な予感しか感じないのであった‥‥‥
不吉な忠告を受け、嫌な予感しか感じないルース。
考えてみれば、周囲にルースの背後を取って危害を取れそうな女性の影は‥‥‥結構いないか?
なんにせよ季節は秋へと移り変わり、再び王国へ舞台は戻る……
次回に続く!
ろくでもない忠告だけど、こういう時にそう言うのは当たってしまう。
……新しい章へ行くけど、違う新しい章まで生き残れるかな?