132話
しょっぱなから久々に登場。
【なぁなぁ、なんで我々が舟を引かされているのだでありましょうか】
【知るか、滅多にない召喚を受けてきてみたら、こうなるとはな‥‥‥‥】
【ぶつぶつ言わずにさっさと引くのじゃ2体とも!召喚主殿たちが海のモズクになる前に何とかするのじゃ!】
【モズクじゃなくてもくずでありますよ?】
【それ以前にお前だけ楽しているではないか!!とっとと人の姿から元に戻ってけん引を手伝え!】
……仲が良いのか悪いのやら。
そうルースたちは思いながらも、今自分たちの舟をけん引してくれているモンスターたちを一瞥し、周囲を見渡して、陸地が見えないことに溜息を吐くのであった。
帝国の浜辺から得体のしれないモンスターに食われ、そこから脱出できたのは良かったのだが、現在位置が分からない状態となり、遭難してしまったのである。
このまま海をさまよい、なすすべもないのかと思っていたのだが…‥‥ここでふと、エルゼ達が思いついた。
「そうよ!召喚魔法を使えばいいのよ!」
「そういえば、私たちも召喚魔法が使えるんだったな!」
「あ、そういえば二人とも確か出来ていたな」
思い出すのは、この二人が行使した召喚魔法によって出てきたモンスターたち。
シーサーペントに火竜という、どちらも力だけを見ればタキと並ぶモンスターであるが、それぞれの特性を活かせば帰還できると思ったのである。
シーサーペントの方は、元から海に住んでおり、海流を把握していればそれに乗って元の浜辺へ戻れるかもしれないという可能性があり、火竜の方は飛行するので舟のけん引が可能なのかもしれないというわけで、それぞれを召喚できるエルゼとレリアが召喚魔法を使ったのだ。
そして、出てきてもらった彼らに協力してもらい、ただ今帰還への道を順調に進んでいるのだ。
……ちなみにタキの場合、海上を走ろうと思えば実は可能らしいので、彼女が舟のけん引を行うこともできるらしい。
だがしかし、それは非常に疲れるし、召喚・送還の繰り返しで行う食料供給の面においても重要な役割と言い張って、舟に乗ってサボりもといけん引を手伝わないのであった。
まぁ、モンスターの体内で色々やってもらっていたし、どうこう言えるわけではないけどね。
【そういえば、召喚主殿たちが言っていた、その海のモンスターだが…‥‥心当たりがあるぞ】
と、ふと何かを思い出したかのように、シーサーペントの方がそう声に出した。
確か、名前はルゼだったか?火竜はクリスタルだっけ。
「ん?どういうことだ?」
【話によって聞いた特徴で、目玉がぎょろりとそこそこあって、体格も大きく、体内が入り組んでいるモンスターと言うと、海では数種類ほどしかなくてな、心当たりがあるモンスターとなると『マガンホエール』しかないのだ】
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「マガンホエール」
いくつもの目玉を頭部に持ち、巨悪な牙を生えそろわせた、巨大なクジラのような海のモンスター。
凶暴で、しつこい性格でもあり、クラーケンなどのモンスターに喧嘩を売る。
体内は入り組んでいるらしく、別名「海の大迷宮」とも言われている。
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「そういえば、三日三晩も追ってきたからしつこい性格なのだと分かったし…」
「あたりかまわず吸い込んできて、凶暴性もあったよな」
特徴が大体一致したので、ルースたちを飲み込んだのはマガンホエールということになるらしい。
【奴は世界に数頭しかおらぬらしいが…‥‥それでも、海の者にとっては脅威だからな、腹をぶち破られたと聞いて、安心したぞ】
【焼いて食べたら旨かったかもしれないでありますな】
【いや、あの肉は不味い。それに臭い、汚い、気持ち悪いの3拍子ぞろいだぞ】
【やっぱりいらないであります】
実際に食べたことがあるのか、暗い表情でそう話すシーサーペントに、火竜は速攻で拒絶を示した。
それから3時間ほど経過し、ようやく陸地が見えてきた。
「おおお!!陸地だ!」
「あ!あれは帝国の灯台!浜辺の方に戻って来たぞ!」
どうやら無事に、最初の帝国の浜辺へ戻ってこれたようである。
「って、そういえばコレッテ大騒ぎになっていないよな?」
ふと、このメンツの中でレリアが帝国の王女だったことをルースは思い出した。
今回の件、仮にも帝国の王女であるレリアが、海辺で消えた場合…‥‥相当な騒ぎになるのではなかろうか。
事実、浜の方をよく見てみれば、捜査隊らしきものが見えてくる。
「「「「「‥‥‥‥」」」」」
ほぼ確実に相当な騒ぎになりかけていることに、皆はうんざりした。
先ほどまで、モンスターの体内から脱出するので疲れたのに、さらにこの捜索での面倒ごとぉお考えるとそぅとう披露する未来しか見えない。
「…‥‥なぁ、モノは相談なんだが」
できるだけ面倒ごとに巻き込まれたくもないルースは、とある案を皆に話した。
「今回さ、この喰われた一件を‥‥‥なかった事にできないかな?」
「え?」
「どういうことだ?」
ルースのその案に、皆は首を傾げたのであった。
それから1時間後、ルースとエルゼ、レリア、バトは海の方から舟に大量の魚を積み込んで姿を現した。
その姿を見て、捜索に出ていた者たちは大慌てで駆け寄って来たが、ルースたちは直ぐに取り調べられるような事をする前に、すばやく事情を押しつけた。
いわく、魔法を使えるのだし、せっかくだから沖の方へ行ってみようと思ったこと。
少々勝負して熱くなり、時間を忘れていた事。
大物の魚を釣り上げたので、早いうちに食べないともったいない事を。
三人で協力し、色々やって末でのことだが、ここまで大騒ぎになるような事でもないと無理やり通して、何とか捜索を行うほどの事もなかったと納得してもらい、無事に収束してほっとするのであった。
「…‥‥まさか、こうも無理やりやってしまうとは、スゴイな」
「ああ、魚に紛れていたオレーッチたちもばれないように移動させるとはな」
「誘拐犯扱いされる危険性があったから、逃してもらってありがたかった」
浜辺から少し離れた高台にて、舟にあった大量にあった魚に紛れて逃げ伸びれた三人はそうつぶやいた。
そのまま一緒に行動していれば、どう考えてもルースたちを危険な目に遭わせた危険人物として拘束される可能性がある。
でも、脱出するまで協力をしていたのだし、出来ればそれを避けたいということから、何とかこの場から逃がしてもらえたのだ。
「…‥‥しかしな、偶然とはいえ…‥‥まさか、我々に敵対が決定された黄金の魔導書持ちと協力するとは思わなかったな」
「ああ、その力の一部を間近で見る機会となったが…‥‥彼はまだまだ力を隠しているようにも思われた」
「…‥‥あれが敵なら、オレーッチたちの組織ってとんでもない化け物を相手にしているよな?」
「「‥‥‥」」
ハンブルドーンの言葉に同意し、リゴーラとエルフルニアは黙り込む。
そう、彼等は反魔導書組織フェイカーの幹部だったのだ。
偽名で名乗ったが、こうも敵対している相手と過ごすとは思いもよらず、あのまま亡き者にしようとも考えたが…‥‥結局、自分たちが生きるために協力をしてしまった。
そして分かってしまった。
どれだけの力をルースが持ち、そしてまだ隠しているのかまでを。
「…‥‥だが、それでも我々は成し遂げねばならぬ」
力の差が見えても、それでもやらねばならない使命感にエルフルニアはそう言葉に出した。
「ああ、協力したのも気まぐれのようなものだ。次に会う時には、非常にならねばならないな」
「そう考えると、世の中って世知辛いな」
同意するリゴーラであったが、ハンブルドーンは何処か納得いかないようにつぶやく。
それでも彼らは組織のためにという志を変える気はなかった。
……だが、この出会いが彼らの運命を変えることになってしまったとは、この時誰も思いもしなかったのであった。
帰還できたルースたち。
しかしながら、休息はそう簡単に訪れてくれるものではない。
疲れているからこそ、より遠ざかってしまうのだろうか。
次回に続く!
……と言うか、そろそろまた人物設定を一旦まとめたほうが良いかも。
けっこう長い事やっているし、一旦きちんとやらないとね。エルゼとかルースはできているけど、スアーンやレリア、国王やその他に関して、まだできていないからね。