12話
ようやく一日が経過しそう‥‥‥時間の進み方ってじれったくも思うときがあるんだよね。
‥‥‥新入生たちへの説明も終わり、クラス内での簡単な自己紹介が行われることになった。
デイモンド先生に呼ばれるたびに、その場で生徒たちが立ち、名前と単純な自己説明および所持している魔導書の色を言っていく。
赤色や青色、茶色や黒色と、バラバラでバランスが良いのだが‥‥‥
「よし!次はルース=ラルフだ!」
「はい」
名前を呼ばれ、ルースはその場に立った。
「ルース=ラルフです。出身はバルスト村であり…‥『魔導書顕現』」
魔導書を顕現させたとき、クラス内には驚きの目が多くなった。
「・・・・金色の魔導書を所持しています。基本的に複合系と、あとまだわかっていないような異なる力があるようですが、どうぞよろしくお願いいたします」
簡潔な説明をしてルースは着席した。
次の人の自己紹介へ移るのだが…‥‥それでも、ルースに向けられた驚きの視線は減らない。
「なぁ、あれ金色って…‥」
「今までにないやつだよな」
「学園長のテストの時にあいつが出していたのをちらっと見たけど、こうやって見ると驚きだな」
ひそひそと話し合う声が聞こえて、なんとなく恥ずかしいようにルースは思える。
とはいえ、今はまだ全員の自己紹介が終わっていないので何とも言えないが‥‥‥やはり金色の魔導書は例がない様だ。
「学園長に確実に目が付けられそうだよな」
「ああ、そういえば、あのテストの最後の方であいつが最後に反撃で来ていたからな」
「なんかこう、既に未来が見えているというか‥‥‥」
‥‥‥不吉な未来の予言はやめてほしい。
誰かのそのつぶやきにツッコミをいれ、おかげで恥ずかしさはなくなったが逆に不安が増した。
あの無茶苦茶な学園長に目が付けられたら、どう考えても明るくない未来しか見えないような気がするからだ。
驚愕の眼差しから、段々その可能性に気が付いたのか、哀れみの視線が増えたことを、気のせいだとルースは思いたかった。本気でそう思いたかった。
だがしかし、人生というのは時として非情なものである。
例えるのであれば、じゃんけんで勝敗を決める時に、勝利したい時に敗北し、敗北したい時に勝利してしまうような‥‥‥
学園の説明も先輩方による学園や寮の案内なども経て、ようやくルースは、今日から自身の部屋となる寮の自室にたどり着いた。
「あ~‥‥‥疲れたぁ」
寮は一部屋に一つの小さな風呂か、それとも男湯女湯に分かれる浴場があるらしい。
少なくとも、風呂に関して言えばこの部屋の物を使用すれば覗かれることはないだろう。
‥‥‥村での生活の時に、エルゼからの視線を感じたようなときがあり、小さな風呂でもほとんど安心できるのであればありがたい。
というか、普通逆だよね!?いや、覗き見はしないけど…‥‥。
室内は至ってシンプルな、勉強机にベッドに本棚。
あとは床に座ってできる様な小さなちゃぶ台のような机に、クッション。
このセットだけは新入生が入寮早々ただで支給されるそうで、あと必要な家具等は自分たちでバイトするなりして稼いで手に入れるしかないそうだ。
ちなみに、実家が貴族家の者たちであれば、金を使ってより豪勢な部屋にしたりなどもするそうだが…‥‥一応制限はあるので、酷い事にはならないはずである。
寮内を案内してくれた先輩の話には、過去には薬品等を持ち込んで爆発してふっ飛ばしたり、魔導書で使える魔法等を調べていたらついうっかり着火してボヤ騒ぎが起きたそうだが‥‥‥大丈夫かな?
そのせいか、赤色や黄色の魔導書といった、火や電撃でやらかしそうな人たちの部屋には消火器が絶対常備されており、消火訓練も絶対参加だそうだ。
金色の魔導書を持つルースも、複合魔法が扱えるので、そのやらかしそうな事が可能なので同様に消火器常備と消火訓練参加をさせられているのであった。
なお、白色も光魔法で似たようなことを起こせるらしいので‥‥‥下手すりゃその消火訓練で学園長が同席する可能性があり、さっそく何か嫌な予感しかしないルースであった。
「あ、タキを召喚したい時はどうしようかな?」
いやな予感を忘れようと、ふとルースが思い出したのは、以前召喚した巨大な九尾の狐のようなモンスターのタキ。
あのモフモフは素晴らしく、モフモフ成分が欲しい時に呼び出したいが‥‥‥タキのサイズを考えると、室内で呼ぶのは危険すぎる。
かと言って、学園で呼ぶ機会は余り無いのだが…‥‥
「待てよ?そういえば確か‥‥‥」
もう一つ思い出し、ルースは先生の方から生徒たちに配られた今学期のスケジュールを取り出した。
「えっと…‥明後日か」
明後日の授業。
その日、魔導書で召喚魔法ができる人のみが参加できる授業があるのだ。
しっかりとした公式の場で、モフモフを再び手に出来そうなチャンスに、ルースは嫌な予感を忘れてその時を楽しみに待つのであった。
バリィッツ!!
「‥‥‥?んん?今、ルース君が何かろくでもない人を呼びだそうとしたような」
同時刻、女子寮で自室の整理をしていたエルゼだが、乙女の勘のようなものでふとそのことを感じ取り、思わず手に持っていた新品の教科書を綺麗なサバ折りにしてしまい、慌てて今なら保証があるので、寮内にあるという購買の方へ新品と交換しに向かうのであった。
後に、交換に応じた購買の店員は「ここまで見事な教科書のサバ折りは初めて見た」と語ったのだとか…‥‥
乙女の勘というべきか、ストーカーの勘というべきか。
この時、呼びだされる予定のタキはぞくっと悪寒を覚えたという。
次回に続く!!
‥‥‥エルゼの勘が鋭すぎる?ストーカーってそういうものらしい。恋する乙女でもあり、粘着質なストーカーでもあるので、その相乗効果によって力を得ているのであろう。