117話
今年最後の更新!!
なのに主人公不在回!!
…‥‥物事と言うのは、本人が思っている以上にややこしくなっていたり、深刻化しているものである。
そう思いながらも、バルション学園長は目の前の会議の風景を見て溜息を吐いた。
「ふー。なーかなーか厄介なことになーっているわね」
王城にて行われる会議に、グリモワール学園の学園長として出席しているのだが、会議の状態は皆グダグダッと、疲れたような、どうすればいいんだと悩むような状態になっていた。
「こ、今回の題材は本当にお手上げというべきか……」
「うかつに手を出せば破滅、かといって逃せば大損害」
「そんな面倒な人材がでたのは本当に面倒な事だ‥‥‥」
口から魂を吐いているかのように脱力する者たちを見て、バルション学園長は同情した。
……今回の会議の題材、それは学園長の生徒であるルースについてであった。
過去の例にもない黄金の魔導書の所持者であり、国滅ぼしのモンスターの召喚者でもあるところまでなら、この場にいる者たちの許容範囲であっただろう。
なにせ、ルースの立場は平民であるとされ、まだ気重視やすい方かもしれないし、いざとなれば権力の行使を考えていた輩もいたかもしれない。
だがしかし、ここで2つの厄介な点が出てしまったことで、許容を超えたようである。
まず、一つ目に挙げられるのは、反魔導書組織フェイカーが完全に敵対する相手と認定したようで、これから先、彼にめがけて何かを仕掛ける可能性が浮上してきた。
面倒事を引き起こすとして出来れば隔離したいが、フェイカーの持つ数々の兵器に対抗できているのも、現状はルースだけである。
というか、対処しようとしてもし切れないことが多く、何かモンスターを生み出された時に相手が出来ているのがルースとその召喚されるモンスターだけというのが正しいだろう。
ゆえに、迂闊にどこかにやったりすれば、万が一があった際に協力を求めることが出来ず、下手すれば敵の手によって貴重な対抗手段であるルースを失いかねないのだ。
そして2つ目に挙げられるのは‥‥‥さすがに学園長も少々予想外であったが、ルースが精霊王の孫であったという事実だ。
精霊、それは魔族でも人間でもモンスターでもなく、いわば力というべきか、自然そのものでも言うべき存在。
表裏一体の物事が多く、恵みをもたらせば滅びももたらす。
その事を裏付ける様々な記録が残っており、眉唾物ではないのが立証されている。
その精霊の中でも束ねる中心、最も力がある存在……神にも近いとされる、精霊王。
その孫にあたるのがルースという事実は、どうしても扱いに困ることであった。
精霊は基本的に自由奔放、自然のままに生きていることが多い。
だがしかし、彼等を害せばたちどころに滅びが招かれるという記録もあり、もしルースを害してしまえばそれこそ一巻の終わりの可能性が出てきたのである。
精霊王の孫というだけで、その背後存在に精霊王が付いているも同然であり、厄介な後ろ盾というべきか、国内で最も重要な人物に上がったのである。
その他には、モーガス帝国の王女や、このグレイモ王国の公爵家のストー…とある令嬢などが恋慕しているらしいというのを聞くと、それはそれで悩ましいことになった。
…‥‥これだけの無茶苦茶な要素がある相手を、この国から失わせるのは大問題である。
できるだけこの国にいてほしいが、他国へ行ってしまう可能性も高い。
ならば、引き留めておきたいが…‥‥それが非常に難しいのである。
ハニートラップ?いや、それは先程述べられた令嬢たちが防ぎ、意味を成し得ないだろう。
そもそも、それだけ想われているのに肝心のルースが気に止めていないというべきか、唐変木というべきか、鈍感というべきか、ヘタレというべきか、天然ジゴロとでもいうべきか…‥‥効果が薄いように思われるのである。
金?いや、そんなものに興味を示さない可能性が高い。
稼ごうと思えば、その実力でのし上がったり、そもそも過去に召喚魔法での物資の運送方法とやらの特許を取ったことを確認されており、その特許料が徐々に彼の口座へ入っているのだ。
…‥‥全く見ていないようだが、今どれだけの資産が入っているのか知らないのだろうか?
権力?そんなものに興味を示すようなものであろうか。
そもそも、精霊王の孫というアドバンテージはあるし、彼を好いているのは公爵家の令嬢や帝国の王女……つまり、将来的にどちらになびいたとしても権力面ではそこそこの力を持つはずであろう。
いや、平民として一生を過ごすとしても国滅ぼしのモンスターを従えさせている時点で恐怖の権力はある。
…‥‥考えれば考えるだけ、どうすればいいのかわからなくなるのだ。
フェイカーへの対抗策、国の懐刀にしたいが、そううまいこと行かないだろう。
とにもかくにも、この日の会議で決定したのは…‥‥ルースに関して、できる限り迂闊な接触を避けることである。
ただし、なるべく変な方向へ行かぬようにしっかり監視するべきだという意見も上がったが、それは色々と信頼できるというか、下手すりゃ消されるようなところが受け持っているらしいと言う話なので、そのあたりの対応は細かい調整が必要のようである。
会議の内容がようやく決まったところで、ようやく会議室からバルション学園長は退出し、学園がある都市メルドランへの馬車に乗って帰還することになった。
馬車に乗りつつ、風景を眺めながら学園長は考え始める。
現状、はっきり言って何も変わらないというか、この会議はやる意味があったのだろうかと。
今まで通り、特に変更もなく、ただ馬鹿がでるのを牽制するためだけにしか行われたようにしか思えないのだ。
…‥‥とはいえ、そんなただの会議でも何か隠された意図がありそうで、バルション学園長は内容を一字一句思い返していく。
(……これまで通り、特に変な接触はないようにと言う部分は変わらず、馬鹿がでるのをとどめただけね)
流石に思考中はいつもの延ばした口調ではなく、真面目な口調で物思いにふける学園長。
(でも、やっぱり何かありそうな…‥‥というか、彼の事だからほぼ確実に引き寄せるわよね)
ルースのこれまでの巻き込まれた騒動の数々や、その行動を思い出し、何もしなくともルースは厄介事を自動的に引き寄せる体質ではないだろうかと学園長は思う。
と、そこでふと気が付いた。
(あら?でも考えてみれば「迂闊な」接触はを強調しているような気がしたわね)
別にどこで誰が彼に接触し様とも、危害を加えなければ大丈夫なはずである。
まぁ、色目を使ったりするような輩がでたら合掌してあの世へ無事に逝けるように祈ったりはするのだが、それは置いておく。
(迂闊な、つまり人為的な接触を避けて、あえて「自然に」という部分もあることをもしかして含めていたのかしらね?)
その考えにいたり、バルション学園長は気が付く。
この国の国王、愚王ではないが…‥‥彼は色欲にやや傾倒している。
正妻、側妃の子供たちは認知されてはいるが、その他にも隠し子が大勢いる。
つまり、国王の落胤とやらも世間にごろごろ転がっている可能性もあるわけで、認知していなくともやろうと思えば王家にいれたりなどができる。つまり、国の関係者にできるということもある。
(…‥‥となれば、もしかすると)
いくつかの可能性を思いつき、その可能性に対してどのような事が起きるのかバルション学園長は考え出す。
…‥‥うまいこと行けば国にとってはプラスの結果が出るであろう。
だがしかし、下手すれば首を絞める行為になりかねない。
牽制しておきながら、国の方が自ら行動を起こしているのではないだろうかとバルション学園長は思い、とりあえずこの手の事に関してはルースに恋慕している彼女達に相談し、対策を練ってもらうほうが良いだろうと考えるのであった‥‥‥‥
……さてさて、学園長が思ったことを彼女たちに伝えればある程度の対策はできるだろう、
夏休みに入る頃合い、その手の事を起こしやすくもなるかもしれないが、防げるだろう。
というか、下手すりゃ血を見ることになりそうだなと予感させる。
次回へ続く!!
皆さま良いお年を!!今年もご愛読感謝いたします!(^^)!
来年も、どうぞよろしくお願いします!!
ついでに、もうしばらくしたら新作も始める予定だけど、まずは短編でちょっとやってみようかな。来年こそ、不幸なことがありませんように…‥‥今年も散々なことがあったしなぁ。