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113話

アバウトの過去‥‥‥それは、とある出会いから始まった。

…‥‥それは十数年前の出来事である。


 ある日、精霊王の娘であったアバウトは自由気ままに空を漂っていた。


 精霊は基本的に実体が薄く、空気中に自然に紛れ込んで漂う事が可能であり、その日は天気が良くて漂うには心地良い日だったのだ。





『あら?』


 と、そんな漂っていた時に、彼女はある物を見つけた。





 そこは浜辺であり、穏やかな波が打ち上げる中、一人の男性が漂流していたのである。


 見た目的には成人のようだが、あちこちが切り裂かれており、血で辺りは染まっていた。




 どこで誰がくたばろうが、精霊である自身には関係ない事であるので放置することができたのだが‥‥‥なんとなく、その時の気まぐれで、彼女はその人物を助けることにした。



 まぁ、流石に血まみれの身体には触るのはためらわれたので、ちょうど近くにあった海水を駆けて洗い流したら‥‥‥


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 傷口に塩を塗り込まれるのと同様に、海水でもそれなりの痛みがあったようで、その男性は悲鳴を上げてもだえ苦しんだ。








 とにもかくにも、落ち着いてもらったところで改めて彼女はその男性をそっと治療した。


 アバウトは適当に付近にあった自然の力を精霊の力で借りて、薬草や体力回復のための食事のための木の実などを生やし、彼に食べさせる。

 

 傷口は改めて清めた水でそっと洗い、裂けている部分には縫合せずに、自然治癒力を上げてくっつけた。


治療されている間、先ほどの海水の痛みでぐったりしていた男性は、アバウトを見つめていた。





『よし、これでいいわね』


 葉っぱで作った包帯を巻き、治療を終えてアバウトは一息ついた。



 その場に寝かされて治療された男性は、そこで口を開いた。


「‥‥‥なぜ、助けてくれたんだ?それに貴女は一体誰だ?」

『‥‥‥んー、気まぐれね。で、私はなんというか、精霊ね』

「精霊!?」


 その言葉に驚愕したのか、男性が飛び起きたが、



ブチッ ブシュゥゥゥゥ!!

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『せっかくくっつけたのに、傷口が開いちゃったじゃない!!』


 まだ治療したてということもあり、全身の傷口が完全にくっついていなかったせいで一気に開き、辺りに血しぶきが飛び交うのであった。




 これが、ルースの生まれる前、アバウトとその将来の夫が初めて出会った瞬間であった。


 ただし、その時からすでにその夫は自爆に近い行為で、色々と死にかけることが多かったが‥‥‥‥








 回復したところで、アバウトがその男性に尋ねると、彼には記憶がないらしい。


 なぜ自分がこの浜辺でこんなの重症になって倒れているのかもわからず、自身の名前すら思い出せないそうなのだ。


 ここであったのも何かの縁。


 気まぐれであったが、なんとなく見捨てられないような、というか見放したら助けたのに盛大に自滅して死にそうな男性を放ってはおけず、彼女はそのあたりに適当な小屋を作り、そこで世話を始めた。







 そして、しばらく一緒に生活しているうちに、彼女は彼といるのが楽しくなってきた。


‥‥‥まぁ、怖いというか、心配になるような事も多くあったが。



 釣りをして、大物を釣り上げたと思ったら、次の瞬間には海から飛び出てきたクラーケンというイカの怪物に襲われて死にかけた。


 アバウトが持ってきた斧で木を切ってまきを割ろうとしたら、彼はついうっかりで斧を滑らせ、自身を割りかけた。


 料理をしようと火を起こして、彼は危うく自身を丸焼きにさせかけた。


 風呂に入ろうとして、彼は足を滑らせて頭を打って昇天させかけた。




 なんというか、悪い人ではないのだが‥‥‥‥恐ろしく不運というべきか、それとも素で不器用すぎただけなのだろうか。



 いろいろな何気ない場面で、様々な理由で天に召されかけることが多かったのである。



 


 とにもかくにも、死にかけていたら治療してあげ、放ってはおけないので世話をしているうちに、彼女達は互いに惹かれ始めた。


 偶然の出会いとはいえ、長く一緒にいればそれだけ状をかけることも多くなり、いつしか愛し合う官益になったのである。


 互いに愛し、そしていつしか二人は結ばれていた。


 夫には名前がなかったので、とりあえず性だけは適当に選んだ「ラルフ」にして、アバウトの名前は「アバウト=ラルフ」」となった。


 ちょっと伴侶が死にかけそうな目に遭いまくっているが、このままともに過ごせる日々があると、アバウトは思っていた。







…‥‥だがしかし、運命は残酷であった。


 彼女自身は特に何も考えていなかったが、アバウトは精霊王の娘。


 そんな彼女と縁を結び、夫になれば精霊王の庇護を受けられるかもしれないと考えた輩が多くいたのである。


 そして、ついにその日は来てしまった。







 その日は嵐が吹き荒れ、いつも通りにちょっと夫が食器の後片付けをしようとして、うっかりで滑って弁慶の泣き所を強打して足を抑えて悶えていたところを癒していた時だった。



バァン!!


 突然、彼女達が一緒にいた小屋の扉が乱暴に開かれ、何事かと思っている間に、見知らぬ装束の人達が大勢入って来た。



『な、なんなのですかあなたたちは!!』


 ちょっと使い物にならなくなっている夫を背にして守る形で、アバウトはそう叫んだ。



「我々が何者だろうと関係ない事だ。だが、精霊王の娘とやら、お前を連れてくることを命じられているに過ぎないのである」


 その大勢の人達の中の、代表格の人がそう言うと、それぞれ剣や斧といった物を構え、アバウトに向けた。


「さぁ、一緒に来てもらおうか。おとなしくしていれば何もしないが、抵抗すれば」

『抵抗するに決まっているでしょうが!!』


 おとなしくしろと言われて、おとなしくするような性格ではない。



 アバウトは素早く手をかざし、精霊としての力をフルに発揮させた。


 小屋自体は元々アバウトが創り出したもので、精霊の力を使用するには物凄く適していた。



 すばやく壁や床から蔦や木の根が伸びてきて、その者たちを縛り上げたり、急所を潰したりなどして無力化し、その隙にアバウトは夫を抱えて逃亡を図った。



「逃がすな!!」



 何とか自身の急所を守り切った人物がそう叫び、必死に案って小屋の攻撃から振り払って来た者たちが負いかけ、それぞれが攻撃を仕掛けてくる。


 アバウトだけであれば何の問題もなかったが、夫はそう戦闘もできるはずなく、かばいながらでは限界があった。




『くっ、厳しいわね‥‥‥』

「もういい、この場にわたしを置いて君は逃げろ!!奴らの狙いは君だけだ!!」

『嫌よ!!貴方を置いて逃げることなんてできないわ!!』


 抱えていた夫が声を上げ、アバウトが反論して何とか逃げ切ろうとしたその時である。




【グシャゲガァァァァァ!!】

『っ!?』


 突然、目の前に見たことがない化け物が現れた。


 それはドロドロに溶けているような人型であり、見たことがないような色合いをして、そのサイズは15メートルほどとかなりの大きさであり、その溶けた腕を彼女達へめがけて振り下ろしてきた。



 流石にかわしきれず、腕がかすめたその風圧でふっ飛ばされる。



「フハハハハハ!!どうだ我々が創り出した最新鋭の生物兵器は!!こいつの手からは逃れられまい!!」


 ふっ飛ばされて、地面に転がったアバウトたちに追いついた者たちが、そう叫ぶ。


『ぐっ、せ、生物兵器?』

「そうだ!我が組織のまだまだ改良点が多く残る物でこの一匹しか作れていないが、これを完全にしたあかつきには確実に世界を手にすることもできるだろう!!だからその為に、材料となるために投降しろ精霊王の娘!!」


 アバウトの言葉に、説明し、そして投降するように呼び掛ける者達。


 要は、アバウトが精霊王の娘であり、その精霊としての力をも利用しようと企んでいる者たちがいて、今回の襲撃をかけてきたものであると、彼女は理解した。



『くっ…‥‥どうしようもないわね』


 多勢に無勢なうえ、あの生物兵器の放つ異質さに、アバウトは勝ち目がないと判断する。




 せめて、夫である彼だけでも逃がそうと彼女は投降を決めたその時であった。


「そ、そんなことに彼女を利用されてたまるか!!」


 夫が必死になって、その者たちへ殴りかかろうとした。


 火事場の馬鹿力というべきか、普段の死にかけている夫にしては、機敏な動きである。



 だがしかし…‥‥


【グギャゴイゴアアッァァァア!!】



バシィツ!!

「がああぁぁぁっ!?」

『あなたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 その者たちを守るようにしてか、その怪物は手を振りかぶり、夫を容赦なく上へふっ飛ばす。



 そして、落ちてきたところで怪物は夫をつかみ‥‥‥


「ぐっ、君は逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」

【ゴアァァァァァン!!】

『や、止めて!!』



 アバウトの声もむなしく、その怪物は容赦なく夫を飲み込んだ。



ゴキッツ、バリ、グシャッツ



 咀嚼する音が聞こえ、アバウトは絶望した。


「ふふふふふ、我々に歯向かうからこうなるのだ」



 その夫が喰われたのを見て、満足げに笑う者たち。


「さぁ、精霊王の娘よ。抵抗しても無駄な例を見ただろう?我々におとなしく従って投降しろ!!」


『…‥‥け‥‥で』

「ん?」

『ふざけ‥‥‥で』

「なんだ?」

『ふざけないでって言っているでしょうがぁぁぁぁあ!!』


 その瞬間、アバウトは完全にキレた。




 目の前で、これからも一緒であったはずの夫を喰われて、キレないということは無理であった。






…‥‥精霊は普段はおとなしいが、その力は自然に大きく関わるものである。


 自然と言えば、豊作などの恵みをもたらすとかもあるが‥‥‥地震、雷、火事、津波というように、災害もあるのだ。


 そして、彼女は災害を全力でその場に起こし‥‥‥‥気が付きたときには、その場は何もなくなっていた。



 あの襲って来た者たちも消し飛び、あの怪物も細切れになって、残った肉片がうごめいていた。



 そして、彼女はふとある肉片に気が付いた。



 その肉片へ駆け寄り、引っ張り出してみれば‥‥‥それは、夫だったものの体の一部。


 食われてしまい、残っていたのはこの一部しかなかったのだ。






 彼女は泣いた。


 それこそ、これから生涯泣くことがないほど盛大に。


 嵐は吹き荒れ、大雨があたりを洪水にし、何もかも流してしまった。






 泣き止んだ後、彼女は決めた。


 自分が精霊王の娘であり、精霊だからこそ謎の組織に狙われ、夫が失われた。


 ならば、その精霊の力を無くすか封じこめるかして、たった一人の女として死んでいこうと心に決めたのである。




 その心を、まずは故郷に戻って父親である精霊王に告げた。


 精霊王はアバウトが精霊でなくなることを止めようとしたが、その決意がゆるぎないものだと理解し、最後には、せめてもの父親の心として、穏やかになおかつ平穏に暮らせそうな村を紹介し、そこに自然に溶け込めるよう細工を施して、時折連絡して力を貸せるようにした。




 そして、アバウトは自身を精霊から人間にするという禁術を用いて、精霊ではなくなった。






 そして、精霊王から紹介された村へ移住し、そこで過ごしていたある日‥‥‥彼女は気が付いた。


 亡くなった夫の忘れ形見である、新しい命が自身の中にいることに。


 そして、精霊でなくなったはずの自分の力が、その子供にはあったことに。



 精霊から人間への禁術を使い、人間として育てようとしたのだが‥‥‥生憎、夫の人間としての血が惹かれていたようなので、その術が使えなかった。


 ならば、せめて精霊としての部分を封じることで、夫を亡くした時のような悲劇を防ごうと思い、精霊王へ連絡し、人間に偽装する術を子供へかけたのだ。




 そして、子どもは生まれ、人間として育てることを彼女は決意した。


 いつの日か、その真相を話そうと心に決めつつ、もし、またあの組織のような者が出ても大丈夫なように、出来れば権力があるような家にでも婿に入らせようと考えもした。




 そして、その精霊の力を封じ、人間として育て上げられたのが‥‥‥‥ルース=ラルフであった。


‥‥‥まぁ、その肝心の息子が、後々色々とやらかしてしまうのは予想外であった。

過去を話し終え、一息つくアバウト。

そして、今の彼女の想いは…‥‥

次回に続く!


…‥‥ちなみに、何故村でバーをやっているのかの理由は次回で。

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