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107話

いつもはお手頃文量で読めるようにしていたけど、ちょっと今回は長めなのをここでお詫びしておきます。

‥‥‥シリアスに作者が耐えられなかったんだよ。

‥‥‥100年以上前、そこは、とある国の辺境に位置した、小さな村であった。


 あちこちでは子供たちは楽しく遊び、大人たちは畑仕事に精を出していたり、昼間から酒を飲むろくでなしもいたが、それでも皆笑顔を絶やさない、綺麗な村であった。



 そんな中で、子どもたちに交わらず、ひたすら己を鍛えている少女の姿があった。




 彼女は村の子供たちとは違い、よそからの流れてきた孤児。


 人間ではなく、角が生えた魔族の中でも「鬼族」などと呼ばれる種族の子供であった。





 そんな孤児の彼女でも、この村の者たちは温かく迎え入れ、面倒を見た。


 そして、彼女はその温かさに触れ、恩返しとして村を守れるように鍛えていたのである。



「はっ!よっ!せいやっ!」


 正拳、回し蹴り、裏拳など、ほぼ我流に近かったのだが、彼女はめきめきと強くなった。






 そして、ある年に彼女は魔導書(グリモワール)を得られるかもしれない「叡智の儀式」を受けることになった。


 残念ながら、彼女は魔導書(グリモワール)を手に入れることはできなかったが、それでも鍛えた力は無駄にならないだろうと思い、より一層精進を心掛け、ある時とある国の兵士募集の紙を見て、女兵士として入隊した。




 最初の頃は、女だから力仕事がどうとかということで馬鹿にするような輩もいたが、実力で黙らせた。


 頭脳戦、権力、金、そういったもので喧嘩を吹っ掛けてきた輩もいたが、すべて一蹴し、完膚なきまでに叩きのめした。


 なぜなら彼女の座右の銘は「絶対完全報復」。仕掛けられた喧嘩であれば、それを上回る力で潰せばいいと心で決めており、そのうち「百戦錬磨の鬼」と畏怖を込めて呼ばれるようになった‥‥‥。










 だがしかし、それもその国が戦渦に巻き込まれるまでの間であった。



 戦争が始まり、その国との戦争の間彼女も必死になって戦った。


 けれども、そのうち限界が来て、彼女は捕虜として捕らえられてしまった。







 捕虜としてとらえられ、彼女は男の慰み者にされるなどの最悪の待遇を予想していたのだが…‥‥待ち受けていたのは、その予想を超えたものであった。







 連れてこられたのは、何処かの研究所。


 そこは、驚くべきことにある研究がされていたのだ。


 その研究内容は‥‥‥「魔導書(グリモワール)の魔法による不老不死の実現」及び「魔導書(グリモワール)の強化による魔法実験」。



 それらを行うためには動物実験がされるのだが、この研究所は戦争で得た捕虜を使って人体実験を繰り返したのである。


 彼女もその実験に使用されて…‥‥

 










「‥‥‥そして、私はその実験によって内臓を少々失ってもいるのでアル」

「‥‥‥」


 思った以上に、重い話しであった。


 ミルが語る過去の話を聞き、そうルースは思った。


 そして、その研究所に集められた実験者たちがある時脱獄し、作り上げたのが‥‥‥反魔導書(グリモワール)組織『フェイカー』であった。



魔導書(グリモワール)によって使える魔法の中に、不老不死になる方法があるかもしれないと考えた輩がいたのが、その研究所が出来た理由だとされているのでアル。世間一般には公表されてはいなかったが‥‥‥」



 フェイカー側がさらに研究したところ、さらなる事実が出てきたのだ。



「戦争のそもそもの原因が、その実験材料となる捕虜を確保することだったのでアル」

「‥‥‥まぁ、内容的には予想できたな」


 そう都合よく実験に進んで参加してくれるような人はいない。


 ならば、捕虜として捕まえた者の中から無作為に選んで使えばいいのではないだろうかという案によって、捕虜を使用した実験のために、戦争を引き起こしたのだというのだ。


 それも、捕虜が死亡してしまえば戦場で死亡したなどとごまかしも付くだろうし、何人かは‥‥‥もう二度と口もきけぬように、あの世へ送られてしまったそうだ。




「曝露はしなかったのか?」

「曝露前に、戦争は終了し、実験も無駄とされたのか、その研究所は証拠も残さないようにすぐさま消されたのでアル」



 だがしかし、研究によって犠牲にされた者たちの恨みは消えなかった。


「元の原因は、魔導書(グリモワール)と、それに記されているかもわからない不老不死の魔法や、それを求めた者たちによる欲望でアル。それに対して、怒り、恨み、悲しみを持つ者たちが集まって、二度とそのような事がないように、魔導書(グリモワール)を持たなくてもいいように、二度とそのような物を求めるものが無くなるように、反魔導書(グリモワール)組織『フェイカー』が結成されたのでアル」

「‥‥‥なるほど」



 そして、ここまで話を聞いていれば嫌でもわかる。


 その研究がされていた国こそが‥‥‥


「この、グレイモ王国だったということか」



 100年以上前のこととはいえ、そのような内容は習わなかった。


 国そのものが意図的に闇に葬ったのだろうか。


「今はその研究は行われていないようだが、それでもこの国に対して恨みを持つ心は変わらないのでアル。ゆえに、この国そのものを根絶やしにするという目的が、他国の制圧などよりも重要視されているのでアル」

「…‥‥って、ちょっと待てよ?」


 ふと、ここでルースはあることに気が付いた。


「100年以上前ってことは‥‥‥ミルの年齢って」


 一体いくつなんだと尋ねようとしたとたん、思いっきりものすごく睨まれた。


‥‥‥女性に年齢を聞くのは、かなりのタブーだったようだ。






「ま、それはそうとしてルースよ、お前も良く分かったはずでアル。組織フェイカーがいかにして誕生し、そして国を狙うかが…‥‥それを理解したうえで、改めて勧誘するでアル」


 


 ミルの話を聞き、ルースは思う。


 単純に世界征服を企むような分かりやすい馬鹿の集まりであれば、完全に拒絶したであろう。


 だがしかし、話しを聞くと設立にも理由がはっきりしており、いわば国の残した負の遺産そのものが、今まさに組織として活動しているのだということなのだ。



「‥‥‥確かに、そちらの言い分ももっともな事だとは思える」

「お?案外あっさり決め・・・・・」

「だけどな、ならその道具とかはなんだ?」


 ルースが目を向けたのは、ミルの手にある不気味な色の道具。


 フェイカー製の道具だが‥‥‥



「今まで見てきたのは、多量殺戮目的、人を変異させ化け物にするなど、どう見たってろくでもないものばかりだった。しかも、そうなると分かっているということは‥‥‥お前らも、実験してその性能を確かめているよな?」

「‥‥‥そういうことになるアル」


 ルースの問いかけに、ミルは冷淡にそう答える。



「だけど、過去の事とはいえ、あの国でそのような事が行われたのは事実…‥‥つまり、恨みを晴らす相手に全力を出して、何が悪いのでアル?」

「過去は過去。そのことに向き合っているのは良いけど、関係ない人たちだっている。それらに対しても被害を出す結果となっていいのか?」

「うむ」


 ルースの更なる問いかけに、肯定を示すミル。


 その姿勢に、ルースは決めた。



「なら、俺はフェイカーに入る気は絶対ない。そちらが恨みつらみを晴らそうが、俺には関係ない事だ。いや、関係あったとしても、結局はその過去の国がやらかしたことと変わらないことを行っているようだからな!」

「ならば、今ここでルース=ラルフがフェイカーには敵対すると認定するでアル!!そういうわけでお命頂戴でアル!!」


 ルースの回答は望まない者だったのか、ミルは残念そうな顔をしつつ、持っていた道具を変形させ、黒い刃を創り出した。


 おそらくはその魔導書(グリモワール)の代わりとなるような道具の開発過程で生じた武器のよう遭ものだろうが・・・・・それがルースに向けられているのは一目瞭然。


 


 手足を椅子に縛られ、動けないルースはそのままやられるかと思われただろうが…‥‥生憎そうは問屋が卸さない。



「縄抜けっと!!」

「何っ!?」


 厳重に縛られていたはずの手足は、いつの間にか解放されており、ルースは素早くそのミルの刃から避けた。



「馬鹿な!?あれだけ厳重に縛ったのにどうやったのでアルか!?」

「あんまりこちらをなめるなよ!!こちとらストーカごほんごほん、対策として縄抜けや手錠破壊など、拘束系から逃げる手段だけは山ほどあるんだよ!!」



 ストーカーもといエルゼに拘束された場合を考え、どれだけ厳重に手足が使えないように拘束されていたとしても、すぐさま抜け出せるだけの超一流の技術というか、特技をルースは得ていたのである。



‥‥‥言っていて少々、やり過ぎた感もあるが、どれだけ厳重な拘束がなされようが、ルースにとっては物の数秒で解放可能だ。



「ついでにミル!!お前がフェイカーの一員だってことが分かったし・・・・・」

「なんだ?こちらを捕らえて組織でも探るのでアルか?」

「いや、全力で逃亡させてもらう!『魔導書(グリモワール)顕現』からの『スパークウインド』!!」


 すばやく魔導書(グリモワール)を顕現し、ルースは自身に魔法をかけた。


 風と雷の魔法であり、自身を強化して高速で動けるようにする魔法である。



 雷で筋肉を素早く動かし、風で自身を押して‥‥‥


「させないでアル!!」

「何っ!?」



 全速力で駆け抜けようとしたとたん、ルースの右足に衝撃が来た。


 それは、ミルが持っていた道具から放たれた黒い球のようなもの。



 一気に出鼻というか、足首をくじかれ、駆け抜ける間もなくルースは盛大にすっころんだ。



「っぅ‥‥‥足がやられたか」


 見れてみれば、足に先ほど直撃された黒い球のようなものだったのが杭のように変化し、ルースの右足に突き刺さっていた。



 爆発されて足が無くなっても困るので、素早く引っこ抜いたが足の激痛は止まらない。



「休んでいる暇も、回復している暇もないでアル!!」


 回復魔法を使わせないかのように、素早く持っていた道具をミルは変化させた。


 それは、鬼族であるミルに似合うような、大きな金棒へと変貌し、それを持ってミルはルースへ殴りかかる。


「『ボムフラッシュ』!!」


 足の痛みで素早く動けないと判断したルースは、爆発魔法を利用してその反動で一気にその場から逃れ、さらに光を混ぜていたためにまばゆい閃光がほとばしった。


「ぐあぁぁぁぁぁ!?」


 薄暗い洞窟内にいたために、いきなりの閃光はミルに効果抜群だったようである。


 ルースにもその効果が及びそうだったが、直前に目をつむってそらしたために、ギリギリその被害は免れた。



「ぐぅっ!!目くらましと逃走を兼ね備えるとは‥‥‥」


 目がくらんだのか、ぶんぶんと当てもなく金棒を振り回すミル。



 当たらない位置だが、逃亡しようにもルースの足は痛んでいた。


「『召喚タ、」

「そこだ!!」



 召喚魔法でタキを呼び、逃げようとしたが‥‥‥声で判断したのか、ミルがルースの方へ金棒を全力で投球した。



ガッ!!バギッ!!

「ぐがっ!?」


 狙いを音だけで定めたミルであったが、その精度は高かった。


 金棒は勢いよく、ルースの胸元に直撃し、嫌な音を立てさせ、其のままふっ飛ばした。



 ふっ飛ばされ、地面に数度バウンドしたルース。


「ごはっ‥‥‥くっ、ぐっ‥‥」


 肋骨辺りが折れたのか、そして骨が突き刺さったのかルースは吐血した。


 胸のあたりに激痛を感じ、そのまま立ち上がれないルース。




 その隙に、視力が戻り、転がった金棒を素早くミルは拾った。


 そして、ルースの元へ一気に飛び掛かる。


「‥‥‥できれば、仲間として迎えたかったが残念でアル!」


 そう叫び、金棒を真っ直ぐ構え、全体重を先端にかけた。




 そして、立ち上がれぬルースのその胸元‥‥‥心臓めがけて突き刺す。



 金棒とはいえ、一点集中の一撃は剣同様にルースの身体を貫く。


 それも、心臓のある位置を的確に‥‥‥‥


「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 心臓の位置を貫かれ、絶叫するルース。



「ぐっ・・・・・がはっ」


 抵抗の意思を見せようと金棒をつかんだが‥‥‥そこで力尽きた。







 ルースの手が力なく離れ、ミルはルースから金棒を引き抜いた。


ずぼっ

「…‥‥残念だけど、これもしょうがない事なんだよ」


 

 動かなくなったルースを見て、悲しそうな顔をミルは見せた。



‥‥‥彼女自身、ルースの始末には乗り気ではなかった。


 元々、本当は彼の情報を集め、そして引き込めないかを調べるだけに学園へ潜入していたミル。


 もし、仲間になる気がなければ、その場で殺すことは決意していたはずである。



 だがしかし、後輩として先輩となったルースたちに接触し、過ごしていた間に、いつの間にか情が湧いてしまったのだ。


 


 けれども、ミルはフェイカーの幹部。


 組織に仇成す可能性のある者は消さねばならず、そして対象としてルースは最も組織にとっては危険とも言えるだけの力を有し、見逃せるような相手ではない。



 後輩としての日々と、組織としての立場。


 その天秤をかけ‥‥‥ミルは組織を選んだ。




 動かなくなり、血を流していくルースを見て、ミルは自然と何かが頬を伝ったのを感じた。


 それは、涙である。



「…‥‥こうなることは分かっていたのに、なぜでアルか」


 分かっていたことなのに、何処か納得できない自分がいる。


 自身は国へ恨みを持ち、組織の幹部としての立ち場もあり、ルースを抹殺するしかなかった。


 けれども、内心何処かであの後輩としての日々を無くしたくないと思っている自分がいるのだ。




 万が一に備え、他の幹部から渡されていた兵器もあったが‥‥‥それは使用することなく、己の手で片づけてしまった。


「‥‥‥せめて、埋葬ぐらいは」


 と、そう言葉を発した時である。




ばちっ

「‥‥‥ん?」


 一瞬、何かがはじけるような音がした。


 見れば、死体となったはずのルースが‥‥‥‥その周囲に、何かが集まっていた。



魔導書(グリモワール)が‥‥‥!?」


 ルースの手許から離れ、地面に落ちていたはずの金色の魔導書(グリモワール)


 それが、まるで意志を持つかのようにいつの間にかルースの真上に浮かび、何かをルースの身体へ流していた。


 それはまるで、金色の滝のように注がれていき、ルースを包み込んでいく。



 次第にルースの周囲に竜巻のような黄金の渦が出来上がってその中身が見えなくなった。



「な、なんでアルか!?」



 あまりにも非常識的過ぎる光景に、思わずミルはそう叫ぶ。



『…‥‥封印解除』


 と、その声がふとミルの耳に入って来た。


 それは、先ほど確かに命を落とさせた相手の声でもあり、そして何か別のものが重なっているようにも聞こえる声。




 次の瞬間、竜巻が一瞬にして消え去り、その場に誰かが立っていた。



「‥‥‥‥なっ!?」



 その姿を見て、思わずミルは驚愕した。


 そこに立っていたのは、先ほどまで確かに心臓を貫いたはずの相手であるルースがいたのだ。


 だが、その姿はところどころ変化しており、どこか実体のない、透き通った金色のようにも見えた。



『‥‥‥これは?』


 ルースの口が開き、その声がはっきりとミルの耳にも聞こえた。


 どうやら、当の本人も驚いているようである。




 状況の整理がつかず、そのまま硬直状態が続くと想われたその時、



【グギャゴォォォォォォォォォオン!!】

『!?』

「嘘っ!?」


 突然、何かがその場に向かって咆哮を上げた。



 ミルが顔を向けてみれば、万が一に備えて連れてきていた成体兵器。


 フェイカーの持つ兵器の中でも最新型であり、人間型ではなく、獰猛なモンスターを元にして作られた兵器の雄叫びが、その場に響き、接近する足音を立てながら、向かってくるのであった…‥‥


心臓を貫かれたはずのルースが立ち上がり、金色の粒子を纏う。

そんな中、フェイカ―で作られた怪物が、牙をむき始めた。

周囲がまとまらない間に、目まぐるしく変わっていく事態に、ついていけるのだろうか?

次回へ続く!!


‥‥‥心臓を金棒でぶち抜かれるって、これって「刺す」よりも「潰す」という表現の方があっているような気がするな。

というか、悲しみはあったとはいえ、そんな相手を容赦なくやってしまうとはおっかないな‥‥‥


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