104話
ちょっとだけ踏み込む感じ・・・・・
「‥‥‥またというか、久し振りだなこれ」
・・・・・ルースは思わずそうつぶやいた。
今の彼の周囲は真っ暗闇だが、目の前には明かり代わりというか、金色に輝く魔導書の姿がある。
久しぶりの魔導書との会話の機会がまた来たようである。
―――――久シ振リ二話ス事ガアル、主ヨ。
閉じていた魔導書が開き、いつものように声が出ていた。
なんというか、いつもと同じような雰囲気なのだが、その内容をルースは疑問に思った。
「話すこと?何かあるのか?」
―――――‥‥‥コノ間ノ一件ヲ覚エテイルダロウカ?
「‥‥‥ああ、タイタニアの件か」
―――――ソウダ。
魔導書の言葉に、少し考えてルースは何を言わんとしているのかすぐに理解した。
以前、屑貴族との決闘の際にまずいことになり、左腕が少々溶けた件があったのだが、その事を魔導書は言っているのだろう。
「って、そういえばあの時お前言っていたよな?俺には3つほどの封印があるとかってさ。その事を今日、話すつもりなのか?」
―――――アア、ソレモアルガ今回ハ‥‥‥ナントイウカ、チョットシタ問題ヲ含ム事デアル。
「?」
なんというか、いつもの自信にあふれているような声ではなく、何処か歯切れが悪い言い方をしている。
いや、魔導書に歯があるかどうかは別としてだが‥‥‥。
―――――ソノ時、「力」ノ封印解除ヲシタダケダガ‥‥‥今頃ニナッテ、反動ト言ウカ、他ノ封印二綻ビガ生ジテイルノダ。
「他の封印って‥‥‥なんだ?」
力の封印というのは、おそらくあの怪物たちを倒す際に出た金色の光に関して言っているのは理解できる。
だがしかし、その他の2つが何のかはルースは見当がつかなかった。
「教えてくれ魔導書、その封印に関して、残りの事で全てを話してくれ」
―――――マダ未熟。故ニ全テヲ話セヌ。
問いかけてみたが、魔導書は話さなかった。
どうもルース自身がまだまだ未熟というべき領域であり、その内容を知るまでに至っていないようなのである。
―――――ダガ、今回ノ話ニモ関ワル事ナノデ、一部ダケ話ソウ。
―――――単純明快ニ、「力」ノ封印ニ関シテハ問題無イ。コレハイズレ、自然ト解ケルノデドウデモ良イ。ケド、今回ノ綻ビデ問題ナノハ‥‥‥「人間」トシテノ封印ダ。
「‥‥‥『人間』として?」
どういうことなのだろうか?
詳しく聞いてみると、「力」の封印に関しては、いずれ魔導書が関わらずとも自力で解除できるようになるので、これが綻んでも問題はない。
その他のもう一つはそれはそれで別にいいそうなのだが、問題なのは「人間」としての封印だとか。
「って、まさか俺って人間じゃないとか!?それで人間やめてしまうような感じになって・・・・・」
――――――正解。
ちょっと待て、今あくまでそうかもしれないと言ったのに、断定されたぞ。
「‥‥‥え?俺、人間じゃないのか?魔族なのか?で、人間になるようにされているのか?」
――――――詳細不明。コノ封印ニ関スル情報ハ、他者ニヨル物デアリ、後付ケサレ、厳重スギテ分析不可能。
「どういうことだよ!?」
不安を煽られた上に、その適切な回答が出てこないというのはものすごく困る。
とはいえ、この世界は人間、魔族、モンスターという種族でくくられているので、人間でないとすれば残る二つだが…‥‥モンスターも可能性がないとは言い切れない。タキのような人の姿をとるやつがいるからね。
―――――マ、ソレダケ告ゲルノミデ、会話シタ。流石ニ主ハ人間ヲヤメタクナイダロウカラ、ソノ意思表示ヲ確認スル目的デアッタ。
「え?俺人間やめなくてもいの?その封印ってどうにかできるの?」
―――――封印可能。タダシ、一時的ナモノ。
どうやらルースは人間を止めなくても大丈夫そうである。
…‥‥いや、それだといずれ止めさせられるような気はするが、とにもかくにも先延ばしにできるのは行幸だ。
―――――デモ忠告。モシ、瀕死ノ重症‥‥‥例エバ、首ノ骨ガ折レタリ、心臓ヲ貫カレタリ、身体ガ上下ニ裂カレタリ等二ナッタラ、半自動的ニソノ封印ハ解ケルノデ注意。
「いやそれ、瀕死以前に死ぬよね?」
むしろそうなる機会はないと思うのだが…‥‥なってたまるか。
とにもかくにも、そろそろ時間のようである。
今回はあくまでその封印の確認と忠告のみを目的にしていたようで、あっさりしていた。
目が覚め、ルースは体を起こす。
窓から朝日が入り、ちょうど夜が明けていることを理解した。
「‥‥‥にしても、『人間』としての封印か」
話の内容から、ルースはどうやらその封印とやらで、今は人間らしい。
でも、その封印が無くなれば‥‥‥何になるのか?
「少なくとも、母さんは人間だよな?となれば、父さんの方か?」
その詳細は分からない。
というか、父親の方がどう考えても怪しいのだが、今まで詳しいことを母に聞く機会はなかったのである。
「ま、いっか。今度の夏休みにでも聞いてみようかな」
今はまだ人間であるし、そう悩むことはないだろうと結論づけ、ルースは朝食のためにベッドから降り、着替え始めた。
まぁ、魔導書の忠告にあったような事態になることはないだろうと思いつつ・・・・・
「‥…いや?結構あるかも」
学園長との特訓を思い出し、そう悠長な事ではないようだと、危機感を覚えたのであった。
‥‥‥考えたらいつ瀕死の重傷になってもおかしくない環境であった。
あ、これ大丈夫かな?
そろそろ騒動が始まるというか、既に起きているというか・・・・・
次回に続く!