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103話

雪がちらほら降ってきた今日この頃。

本気で布団から出たくない。


 春も中頃、新入生たちも慣れてきた頃合いであり、学園内がそこそこ騒がしくなってきた今日この頃、ルースたちは本日、ちょっとした難関を目の前にしていた。



「『~~~~~~、ツカナゲゲンリニカ・・・・・』」

「『~~~~~~アイヤエコエコザエ~~~~~』」



「‥‥ルース先輩、質問良いでしょうか?」

「何だ、ミルさん」

「これって召喚魔法の最初の方にやる詠唱ですよね?ルース先輩は一瞬でタキさんを召喚できていますけど、最初の方ってこれだけかかる物なのでしょうか?」

「ああ、そのとおりだ。一番最初にやるやつはかなりかかるんだよなぁ・・・・・」


 今日は学園は休日であったが、ちょっと試したいことがあるというエルゼとレリアの発案の元、召喚魔法に関しての特別補習をバルション学園長から受講していた。


「召喚魔法の需要は高まっているかーらね。運送手段などで、習いにくーる人もいーるんだよ」



 去年の夏、帰郷する際にルースがタキを使って行った「召喚魔法による物資の運搬」方法。


 これの特許をルースは獲得していたのだが、この便利さに目を付けた者たちが、ここ最近召喚魔法に関して習いに来るようになったそうなのだ。




 そして、エルゼたちもこの春のうちに会得しようと考えたそうで、休日返上で召喚魔法を実践して見ているのである。


 ミルはまだできないそうなのだが、将来の糧として経験を得るために見学しているのである。


【おおぅ、こういう風に最初は行われるもんじゃなぁ】

―――――デモ、1時間以上経ッテ長イヨ。


 召喚魔法の例として召喚したタキの横で、眠そうに翅をはばたかせて飛ぶバトはそうつぶやく。



‥‥‥実際、召喚魔法って最初の方が異様に時間がかかるために、人気がなかったのだ。


 それに、魔導書(グリモワール)の色に対応したモンスターが出るらしいというのは分かっているのだが、それがランダムであり、目的とは異なる類のモンスターが呼びだされることも珍しくはない。



 もふもふ目的でタキを召喚できたルースのケースが珍しいということでもあった。





 何はともあれ、そろそろ2時間に突入するかしないかのうちに、どうやらエルゼたちは同時に召喚のための詠唱を終えたらしい。


「『~~~~~~~~、クラムボーンアクアマゾッドウェブリア』!!」

「『~~~~~~~~、フレッボランスゴクエンシュウマイボム』!!」


 同時に詠唱が終わると同時に、地面に30分以上かけて書かれた魔法陣が輝き、モンスターが召喚され、



【ん?なんだここは?】

【‥‥‥おや、珍しいところに出たぜよでありますな】



「ぶっ!?」


 そのモンスターの姿を見て、学園長が噴き出した。


 エルゼが召喚したのは、日の光を浴びて、やや透けて見える水色の綺麗な鱗を持つ大きな大蛇のような、ひれのついたモンスター。


 一方、レリアが召喚したのは、真っ赤な色をした巨大なドラゴンのようなモンスターであった。




「『シーサーペント』!?『火竜』!?なんてものを召喚していーるんだよ!!」


 その正体に素早く理解したのか、学園長がそう叫ぶ。

――――――――――

『シーサーペント』

海中に住むモンスターの中でも巨大な、大海蛇のモンスター。水の中では屈指の強さを誇り、陸上や空中では少々力は劣ってしまうが、それでも軽く薙ぎ払えるほどの力を持つ。

水に関しての専門家でもあり、汚い水を極上の綺麗な霊水に変えたり、地下水が枯渇しているところを甦らせたりなど、別名「水神様」として崇められるほどの力も持つ。


『火竜』

一般的に聞くドラゴンの中でも、炎を吐く中ではマイナーでありながら、力は強大なモンスター。

火山の火口付近に生息したり、とにかく熱いところに生息していることが多い。

その力と対等に渡り合えるモンスターは限られ、その鱗なども希少な道具の材料として使用され、とにかく一匹いるだけで莫大な財産を築くことができるとされる。

また、金目のものが好きらしい。


―――――――――――



【ぬ?おー、もしやお主か火竜殿!久し振りじゃな!それに、水のニョロニョロも久し振りじゃ!】

【お?まさかお主ぜよか!火山でドッカンやってからしばらくぶりぜよな!】

【ちょっと待てい!?ニョロニョロってなんだその言い方は!!相変わらず酷い言い方をするな!!】


「「「え?」」」


 タキが声を出し、それに反応して他二体のモンスターが声を出したのを見て、ルースたちは驚いた。

 

 もしかして‥‥‥知人同士?









【ああ、召喚主殿には紹介していなかったのじゃ。こっちの火竜があそこの火山に住んでいて、この間どっかんばっこんと戦闘欲の解消をしてくれた相手で、こっちのニョロニョロニョロニョロが、海に住む天才馬鹿じゃよ】

【おお、この方が話しに聞いていた召喚主殿か。タキという名も付け、中々な面白そうなやつぜよな】

【おいこの・・・・・今はタキという名のやつ!!あいかわらずなんかこのわたしに対してかなりひどくないか!?】

【ふん、お主には200年ほど前に、海に出てみた際に捉えた巨大イカを横取りされたことがあったからのぅ。食い物の恨みじゃよ】

【‥‥‥いや、あれはわたしが確かに悪かったとは思うが‥‥‥でもしつこいな!?】


 紹介を聞くに、やはりこの二体はタキの知り合いだったらしい。



 それも、どちらもタキ同様の国滅ぼしのモンスターとしての記録があるそうだ。



「火竜の方は山にあーった鍛冶国家『ドワフリアン共和国』、シーサーペントの方は海上国『シーマリン国』をそーれぞれ滅ぼしーた記録があるのよーね‥‥‥はぁ、なんで面倒事を引き起こすのよ‥‥」


 珍しく、バルション学園長ががっくりとうなだれていた。


 なんというか、いつもの常に相手の上からの立ち位置にある学園長がこういう姿を見せるのは珍しい。



「そ、それはそうとして・・・・・えっと、召喚したけど大丈夫なの?」

「私たちが召喚してしまったが‥‥‥問題はなかっただろうか?」


 相手がどちらもタキ同様国滅ぼしのモンスターと聞き、エルゼとレリアが青ざめた。


 もし、この召喚が気に食わなくて暴れられたら相当不味いものになると理解したからである。



【大丈夫ぜよ。ちょうど引きこもり生活も飽きていたし、たまに召喚される刺激が欲しいぜよ!】

「それなら、『ビア』と呼んで召喚していいかしら?」

【うん、それで呼んでくれるなら別に良いぜよ!】



【こちらも別に大丈夫だ。こっちに害がなければ、召喚はいつでもしていい】

「そ、そうなのか‥‥‥じゃぁ、名前として『クリスタル』と呼んで召喚して良いか?」

【ああ、構わないな】


 どちらも今後召喚しても大丈夫だという言葉に、エルゼとレリアはほっと胸をなでおろす。


【じゃ、そういうことで今は帰らせてほしいぜよ。ちょっとこの間のやんちゃでやらかしたせいで、山の修復途中ぜよからな】

「あ、何かごめんね。召喚解除をするわ」


【こちらも帰らせてもらおう。ちょうど今、ある海上国でお祭りが開催されており、そこに紛れ込む予定だからな】

「その体格でどうやってと聞きたいが・・・・・まぁ、いいか。召喚解除な」



 二体とも‥‥‥それぞれ『ビア』と『クリスタル』という名を得た後、召喚を解除され、元居た地へ送還されたようであった。



「‥‥‥類は友を呼ぶと言いますけど、先輩たちってまさにそうだったんですね」


 どこか遠い目で、ミルがそうつぶやいた。


「いや、何をどう思ったんだそれは」

「非常識の塊ということを、改めて学んだということです」

「「「…‥‥」」」


 ミルのその言葉に、ルースたちは何も言えなかった。



 別に悪い言葉でもないのだろうけど‥‥‥それでも言い返せない言葉でもある。


【ま、これから先、あやつらが召喚される機会は無さそうじゃけどな】

「そうか?」

【だって、あやつら我よりもややでかいからのぅ。人の姿を取れなかったはずじゃし、そう簡単に召喚される機会はないじゃろう】


 そうタキは笑いながら言ったが、ルースはどうもそうとは思えなかった。



 昔からのお決まりというか、タキという存在そのものがその可能性を示しているけど‥‥‥まぁ、言わないでおこうか。











 深夜、ミルの寮室で彼女はある場所と通信し、定期的な報告をしていた。


「‥‥‥というわけで、やばそうなのが増えてしまったでアル」

『…‥‥なんというか、複雑そうな感じだな。うかつに手を出せば組織壊滅の危険性が高まったとしか言えないな』

「なんじゃろぅ、この戦わずして得た敗北感は。‥‥‥組織の開発局で、召喚も可能なようにできないアルか?」

『ム・リ・☆』

「よし、お主の秘密を今度全体へ派手にばらまいて」

『いやいやいやいやいや!!今の悪ふざけは本当にごめん!!』





 ムカついたので少々脅しつつ、今日の定期的な報告は終わった。


「はぁ‥‥‥計画では親しくなってきたところはあっているけど、どこか間違って来たようにも思えてきたアルな‥‥‥」


 溜息を吐きつつ、ベッドで横になるミル。





…‥‥どうしてだが、彼女はとあるターゲットを狙っているはずなのに、その周辺が思いっきり強固にされていくために計画をどこかで変更しなければいけない羽目になっていた。


「予定よりも、少々遅れそうアル」


 相手の信頼を得て、油断したところで行うこの計画。


 ゆえに、その信頼を得るまで欺かねばならないのだが‥‥‥どことなく彼女は自信を喪失し始めていた。


「何よりも‥‥‥なんで、負けているような気分になるのでアル?」



 ターゲットの周囲にいる女子たちは、どうせ危険対象として見ても気にしないはずだった。


 だけど、その女子たちがターゲットと同格に並ぼうとしていることを思うと‥‥‥なんとなく悔しく思えてきたのだ。



 毎日楽しく笑い、学園長の特訓でズタボロにされようともそれでも励まし合い、楽しめるこの毎日。


「‥‥‥いかんアルな。情が移ってしまっているのか‥‥‥後悔しないうちに、さっさとやってしまうのが良いアル」


 首を振り、決意を改めて行った後で、彼女は寝た。


 これ以上、考えていても結論は出ないし、目的を変えるつもりはないのだが…‥‥出てきてしまった迷いを振り切るために、思考を途切れさせて…‥‥


光があれば、影もある。

そして、その光を嫌いながらも、求めてしまうことだってあるのだ…‥‥

次回に続く!


‥‥‥少々、情が移って来たか?そろそろ行動を起こすべきか。

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