102話
考えてみれば、彼ってあまり見ない。
そこで、無理やりというか、必要だった犠牲というべきか、ようやく日の目を‥‥‥みれた?
「‥‥‥なぁ、親友よ」
「なんだスアーン、そんなに改まって」
「お前がお前なりに色々努力していたり、多くの苦労を受けているのは分かる。だけどな‥‥‥」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「何で俺っちまで巻き込みやがったんだぁぁぁぁぁぁ!!」
スアーンの渾身の叫びは、バルション学園長が放つ光線の嵐に飲み込まれたのであった。
時は遡る事5分前。
新入生であるミルという少女が、学園長による訓練に参加したいとルースたちに懇願してきて、それをルースたちは受諾し、学園長に話したところこちらも快く引き受けてくれた。
だがしかし、ここで問題が一つあった。
ミルという少女は今回初めて訓練を受けるのであり、経験が少ない。
その為、万が一の際に重症となる可能性もあるので、どこかで誰かが守る必要性があるのだ。
だが、流石に守りながらというのは、ルースたちには少々困難である。
そこで、ふとルースは思いついた。
この場合、男女比も女性陣が増えるので、空気的にはルースもやや入りにくい。
ならば、防御に関して得意でかつ、そこそこ半殺しにされても生きていそうなほどしぶとく、空気的にも慣れていそうな人物は‥‥‥
「それで何で俺っちを選ぶのかなぁ!?」
「だって、下僕が一番しぶといし」
「このメンツの中では防御寄りだし」
「あまり接しないから情も薄いし」
「先輩、犠牲になってくれてありがとうございます!」
スアーンの問いかけに対して、エルゼ、ルース、レリア、ミルの順で答え、
【まぁまぁ、之も潔く犠牲になってくれればいいのじゃ】
―――――チョット拉致ッタダケダヨ?
スアーンを軽く攫うために召喚し、今は安全地帯で逃げ込んで見物しているタキと、その攫う際に暴れられないように、最近弛緩のツボとか言うのを覚えて突き刺し、活動を制限させたバトも答えた。
「お前ら非常識かつ冷血漢!!悪魔!サディスト!なんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「はいはーい、で黙ってねぇ?『ライトダンスクラッシュ』!」
「話を聞いてくれぇぇぇぇっ!!『ストーンガード』!!」
バルション学園長から放たれた光の魔法を、必死にスアーンは叫びながら石の壁で防いだ。
茶色の魔導書を持つ彼は、土や岩と関係の魔法が扱えるので、物理的な能力で言えばこのメンバー内でそれなりに力はある。
それに、日頃からエルゼに下僕扱いされていたり、知らない間にフルボッコにされていても翌日にはぴんぴんしているので、生命力にも問題はない。
「よし!これで一応当分の間は大丈夫だ!」
「ええ、引き込んだのは良い手だったわね!」
「私の炎で焼いてより強固にできたり、エルゼの水でドロドロにして等、多種多様な戦法が取れるな!」
「なるほど、先輩たちの魔法の組み合わせは勉強になりますね!」
「ちょっとは俺っちに興味を持つか同情しやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
必死になって叫ぶスアーン。
安心しろ、骨は拾ってやる。
それはそうと、今日の訓練はこの状況からわかる通り、純粋な「戦闘」である。
フェイカ―の活動が目立ってきたりしているので、その自衛手段を増やすために行われたのだ。
とはいえ、今はスアーンの防壁で十分持っているが‥‥‥破れたときに備えて、ルースたちは魔導書をそれぞれ顕現させる。
「「「「『魔導書顕現』」」」」
ルースは金色を、エルゼは青色を、レリアは赤色を顕現させる。
そして、ミルはと言うと‥‥‥
「黒色の魔導書・・・・・・ちょうど学園長のと対になるやつか」
「相手の方が圧倒的ですけど、それでも頑張ります!」
黒色の魔導書を持ちながら、ミルはそう意気込みを告げた。
彼女の魔導書は、いわば闇に関する力を与える。
影の中に引き込んだり、入り込んだり、闇夜に包んで目くらましをさせたり、赤子を暗闇で寝かせたりなど、案外使用する機会が多い魔法を扱えるのだ。
「では、今からスアーン先輩が(ちょっと無駄な)犠牲になっている間に、陰から奇襲を仕掛けましょう!」
「今何かひっどいことを言われたような気がするのだが!?」
ミル、どうやら結構毒舌のようである。
とにもかくにも、今は学園長に一発でも与えれば終了という訓練内容らしいので、奇襲攻撃はいい手段だと思われた。
「『シャドウダイブ』」
そう魔法名が唱えられ、作られた影の中にルースたちは潜り込んだ。
「これが、闇魔法の一つ、影の中に潜り込む魔法か‥‥」
「憧れの黒い魔導書の力・・・・・ああ、これがあればルース君にいつでもあんなことやこんなことができたのに」
「でも、奇襲には確かにもってこいだな」
エルゼの世迷言はさておき、今影の外ではバルション学園長の攻撃を、彼女から見えないようにスアーンが偉大なる(無駄でもある)犠牲となって、土の壁を作って防いでいる状態だ。
そこで、この影ごと移動していき、バルション学園長の間近に出て、皆で一斉に魔法もしくは物理攻撃を仕掛ける作戦である。
「お、おい!!俺っちは何では入れないんだぁぁぁぁ!!」
影の外でスアーンが叫んでいるが‥‥‥まぁ、気にしないでおこう。良い奴だったよ。
影の中を歩くが、どうやらこの魔法はルースたちが中で動くと、その影も一緒に移動するらしい。
「ただし、10歩でやっと1歩分という効率性の悪さが問題ですけどね」
「それでもこれは結構便利だよ」
これはこれで奇襲には都合が良い。
「‥‥‥よし、バルション学園長から少し離れた場所についた」
「幸い、まだ下僕の壁が持っていますから、気がつかれた様子もないわね」
「というか、やけに攻撃力が低いような・・・・・いや、あれは派手にするために分散しているだけか。そのうちまとめて放って一気に吹き飛ばすだろうな」
「『ライトカノン』!!」
ビ――――――ッツ
チュドォォォォォォォォン!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、タイミングよくまとまった光の束が先輩もろとも壁をふっ飛ばした!!」
「今なら行けるはずだ!!」
これで仕留めたと思って油断してくれていたならそれでよかった。
そこで、ルースたちは陰から出て攻撃しようとしたところで‥‥‥バルション学園長の顔が、ルースたちが入っている影の方へ顔を向け笑みを浮かべた。
「「「「あ」」」」
「見~~~~~~つ~~~~~~け~~~~~た~~~~~!!」
その時、バルション学園長が告げた声を、ルースたちはゆっくりとしか聞こえなかった。
数秒後、影へめがけて光線が放たれたのであった‥‥‥‥
「はぁ‥‥‥結局、学園長には通用せずか」
「ごめんなさい先輩方!!私がまだ未熟で!!」
「いや、君のせいじゃないよミルさん。これは俺たちがまだまだなだけさ」
謝るミルに対して、ルースはそう答えた。
「で、でも・・・」
「そうよ、そんなに自分を責めることはないわ。今の自分が未熟ならば、明日の自分を更に成長させればいいのよ。そう、常に前を見続ければいいのよ!」
「なんかエルゼにしてはまともな事を言ったな‥‥‥」
珍しいというか、そう助言したエルゼにルースは驚く。
(‥‥‥で、物は相談だけど、その魔法っていつでも使えるかしら?)
(え?なんですか先輩・・・・・顔が近いのですが)
「おいおい、何を裏取引かわそうとしているんだよ」
なにやらこそこそと話すエルゼたちに対して、レリアが内容を察したのかそう告げた。
とにもかくにも、今日も負けたが次は負けたくない。
この日の失敗が明日の自分のためになるのだと思いつつ、ルースたちは寮へ帰るのであった。
「って、そういえばスアーンは?」
「あ」
「完璧に忘れていたな‥‥‥」
「先輩、確か頭から埋まってましたね・・・・・」
――――――マァ、ドウデモ良イカナ?
真夜中、誰もが寝静まっているそのころ、女子寮の一室でミルは起きていた。
「‥‥‥はい、無事に関係を持つことに成功したでアル」
『そうか、それは良かった』
偽装した魔導書を介し、何処かと連絡を取り合う彼女の姿は、ルースたちに見せていた姿とは違い、成長し角が生えていた。
「まぁ、この学園の学園長が化け物レベルなのと、少々同情せざるを得ないほどの不憫なやからがいたのは想定外だったが‥‥‥それでも、これから日常的に接触は増やせるでアル」
『順調なようだな。それならば本作戦はお前が担当し続ければいいだろう。引き続き、そのターゲットとの信頼関係を築き上げ、出来れば引き込み、出来なければ始末を手はず通りやれ』
「了解でアル‥‥‥ちなみに、あの二人はどうしているでアル?」
『お前に指摘された場所を変えたようだが、威厳はとうの昔から無くなっているからどうでもいいだろう』
「‥‥‥そうアルね。それでは、今晩の連絡を終えるでアル」
会話が途切れ、偽装した魔導書を閉じるミル。
「‥‥‥まずは第一段階を突破したでアル。さてと、うまいこと行くかな‥‥‥?」
そう思いながら、彼女は姿を変え、ルースたちと出会っているときの状態にしてベッドに寝ついた。
目的はあれども、それまではしばらく長期休暇のようなものだと思えばいい。
そう考えつつ、彼女は夢の中へいざなわれるのであった…‥‥
安定のスアーンの犠牲はさておき、新学期はまだまだ始まったばかりだ。
一方、なにやらミルには何かがあるようだが、ルースたちはその事を知らない。
なにか動きがありそうなものだが‥‥‥
次回に続く!
‥‥‥主人公の友人がコメディ風に犠牲になるのは、もはや作者の伝統である。
なんかね、ツッコミ要員だったルースがボケに回り始めたから、その代わりとしてスアーンに犠牲になってもらうしかなかったんだよ。そのうち、伝説のハリセンとかも魔法で出してみたい。