96話
晩餐会
舞踏会
こういう場って何かしらありそうだよね
晩餐会の時間となり、ルースたちは再び王城に赴いていた。
王城内にある晩餐会用の部屋だが‥‥‥一言で言うなれば「広い」としか言いようがないだろう。
あちこちがきらびやかに飾られており、キラキラとした幻想のような世界と言ってもいいだろう。
ただ、「あのド屑いなくなったぜ、ひゃっはぁぁぁぁぁ!記念晩餐会」と、いう垂れ幕がなければよかったかもしれない。
‥‥どれだけバズカネェノ侯爵家は嫌悪されていたのだろうか。この垂れ幕を書いた人は特に嫌悪していたに違いない。
「まぁ、なんにせよそれを無視すれば悪くは無いな」
晩餐会の雰囲気を盛り上げるように楽隊が音楽を鳴らし、まさに華やかな世界となっている。
聞かざる者たちも美しく、心なしか邪魔者がいなくなってくれた嬉しさがにじみ出ているようだ。
「それにしても、あの家はどうも恐ろしく他貴族からも嫌われていたらしいわよ」
と、ふと気が付けばドレスで着飾ったエルゼがいつの間にか右側にいた。
謁見時の服装の控えめな衣装から、晩餐会用のきらびやかな水色のドレスである。
彼女が扱う魔導書の色に合わせて持ってきたらしいが、こうしてみると‥‥
「本当にエルゼってお嬢さまだったんだな‥‥」
「何よ?今までそうは見えていなかったの?」
「いや、別にそういうわけでもないけど・・・・・そのドレス、エルゼによく似合っているね
「そ、そう?」
ぽつりとつぶやいたルースに対して、一瞬睨んだエルゼであったが、すぐに言い返した言葉に、頬を赤くしてまんざらでもないような表情になった。
すまん、本気でここ最近、エルゼがこれでも公爵令嬢だってことを忘れていた。
「ふふふ、まぁルースは私たちが貴族の立場にあるということを忘れがちのようだからな。こういう場でしか理解できなくても無理はないだろうな」
と、左側から深紅のドレスを着たレリアがやって来た。
彼女はエルゼの水色とは反対の色を着ており、まさに燃え盛る綺麗な炎がそこに表れたと言ってもいいだろう。
一応、胸元は隠すタイプのもので、胸の谷間とかは見えないけど‥‥それでも大きいのが分かるのか、会場の男性たちの数人ほどかチラチラ見ているような気がする。
あれか、隠されるとそこがどうなっているのか知りたくなるってやつか。
「そりゃどうも、どうせ俺はこういう場に元々向いていない平民だし、認識できなくても仕方がないだろう?」
とりあえず、レリアの言葉に対して肩をすくめてルースはそう言い返した。
「それもそうだが‥‥ともかく、これで私たちが貴族だというのを認識したのか?」
「ああ、でも貴族云々関わらず、レリアは綺麗だと思えるぞ」
「っ!?‥‥あ、ああそう思ってくれるならばそれはそれでいいがな」
ルースの言葉に、レリアはちょっとエルゼと同様に頬を赤らめたが‥‥
グッツ!!
「!?」
なにやら物理的に来たような視線を感じ、振り返ってみれば、ほんの一瞬、それでも確かに強烈な殺意を抱いたエルゼの瞳をルースは見てしまった。
「あら?どうしたのよルース君?」
「い、いや何も無いかな、あはははは」
(‥‥下手をすれば確定して殺される)
――――――ウン、ソレハアッテイルヨ主様。
こういう時に無自覚なのが帰って面倒なのよね、と近くでバルション学園長が内心思っていたのだが、あえて口にはしなかった。
なぜならその方が、確実に面白そうだからである。
バルション学園長、生徒の安全を第1に掲げるのだが、面白さが加われば少々いたずらも加えたくなる人であった。
なお、タキはこの晩餐会には出ていない。
召喚していないというのもあるが、和服のような着物を着慣れているために、ドレスは慣れないと辞退したのもある。
とにもかくにも、この晩餐会は名目上バズカネェノ侯爵家がいなくなった記念なので、そこまで派手ではないが、それでもうれしさをかみしめる人が多い様だ。
聞こえてくる評判からして、そうとうダメダメというか、屑を極め得ていたというか‥‥‥ぼろくそに言われ過ぎていても誰もフォローしないところから、いかに人徳もなかったのかが良くうかがえた。
「ルースさんお久し振りですわね」
「あ、リディアさん、お久し振りです」
っと、この場で久しぶりに見た人がいた。
リディア=バルモ=エーズデバランド‥‥‥かつて、ソークジの婚約者にされていた侯爵令嬢であり、今は婚約そのものがなかった事にされ、経歴に傷がつかないことになった少女である。
あの決闘の後、ルースは入院したために再開する機会がなかったのだが、この場で再開したのである。
久しぶりに見る彼女は、やっぱり女傑というか、威風堂々とした雰囲気を持っていた。
「あの屑の婚約破棄後、お変わりはなかったそうですね」
「ええ、そもそもなかった事にされましたし、今ではあの屑に妨害されることもなく、自分のやりたいことに打ち込めるなど、失われた時間を取り戻して謳歌しているのですわ」
ルースの言葉に、にこりと微笑みながら答えるリディア。
「それにしても、あの後相当ひどいけがを負ったと聞きましたけど‥‥大丈夫そうですわね」
ルースの全身を見て、リディアはそうつぶやく。
「ええ、適切な治療を受け、きちんとリハビリもしましたので5体満足な状態です」
「それはそれは良かったですわね。‥‥責任を取ってという手段が使えないのは痛いですわね」
「ん?何かおっしゃいましたか?」
「い、いえ何も。本当にあなたの無事を喜んでいるだけですわ」
リディアのつぶやきはルースにはよく聞こえなかった。
だが、エルゼ、レリア、バトの三人はしっかりと聞き取っていた。
(‥‥やっぱり、この人も油断ならないわね)
(天然ジゴロというか、ルースも罪な事をしているけど、これ以上ライバルというか、女を近寄らせたくないなぁ)
(-----主様ガ毒牙ニカカラナイヨウニシナイト)
それぞれ内心そう思いながらも、ルースとリディアの会話に耳を傾けた。
そのついでに、今回の屑追放の功労者でもあり、金色の魔導書の所持者でもあるルースに興味を持った、もしくは将来性を見越して近づこうとする令嬢たちもいたが、それぞれの手段で排除しているのであった。
「ま、とにもかくにもこれで当分は大丈夫でしょう。そもそもあの決闘自体、あの屑が勝手に仕掛けてきたものですからね」
「本当に、あんなのが元婚約者‥‥いえ、なかったことになったのですから赤の他人ですけど、あれが周囲に迷惑をかけるのは本当に面倒でした。ですが、今はもうその屑はいないので、皆ルースさんに感謝しているのですわ」
ルースたちの会話を聞いていた者たちの中で、バズカネェノ侯爵家の屑さにイライラしていた者たちは、うんうんと同意を示した。
「とはいえ、わたくしももういい年頃なのに、このままでは行き遅れ‥‥良いところが無いか、探すのが大変ですのよね」
「そりゃ大変ですよね」
(‥‥あ、話しの雰囲気がまずいわ)
ふと、会話の雰囲気がちょっとまずそうに思ったエルゼは、その中に入ることにした。
「あらあら、ごきげんようリディア侯爵令嬢さん。ルース君との会話を楽しんでいらっしゃるのね」
「あら、ミストラル公爵家のエルゼさん、そちらこそ今宵の晩餐会を楽しんでいるようね」
うふふふふ、おほほほほ、と言った笑いが互いに流れているが‥‥周囲で見ていた者たちは、彼女達の背後に般若などが見えたような気がした。
穏やかな晩餐会、それなのに何やら修羅場への空気へ変わりそうである。
「すまないが、私もまぜてくれないかな?」
と、レリアも追加され、更に雰囲気は修羅化していた。
‥‥‥ルース的には、なぜこの3人でこんな雰囲気になっているのかが分かりにくかったが、一つ言えることとすれば‥‥‥これはまずい。
流れ弾が飛ばぬうちに、そっとルースはその場を離れる。
「そーっと、そーっと‥‥巻き添えが一番怖いからなぁ」
―――――ソノ通リ。
ルースの言葉に、ポケットに素早く入り込んだバトは同意した。
彼女達が纏う修羅の雰囲気に、恐怖を覚えたのである。
だが、この中で唯一抜け駆けして一緒にいれたような気がして、バトは満足するのであった。
(-----コウイウノヲ、コトワザノ本ニアッタ「漁夫の利」ト言ウンダッケ?)
‥‥‥何かしらどころか、修羅場になったような気がする。
ちょっと怖いというか、纏う雰囲気に後ずさる人が大勢いそうである。
それはともかく、少々離れたルースであったが‥‥
次回に続く!!
まだまだ晩餐会は続きます。‥‥‥というか、バトがやっぱりこの中で一番ちゃっかりしているんだよなぁ。