93話
謁見って面倒くさそうなことにしか思えない。
何かを上奏するためとか、自主的な目的がきちんとあればいいのだけれども、命令でさせられるのはどうにも面倒事しか思えないのである。
‥‥‥時間というものは不思議なものである。
楽しい時ほど早く過ぎ、辛い時ほど遅く進む。
人によって感じ方が異なり、生きていることができる時間などもバラバラだ。
この世の中に公平という言葉があっても、その言葉通りにならない例としても成り立つであろう。
そんな時間の話はさておき、ルースは今、王城行きの馬車に乗車していた。
行きたくはないと思っていた謁見でも、行かざるを得ない時が来てしまったのである。
同乗しているのは、このグレイモ王国の王城がある王都グレイモに行き慣れているバルション学園長に、モーガス帝国の第2王女としての国交的な役割を建前にしているレリアに、ルースの事をこの中でルース本人すらも覚えていないようなレベル事までしっかり理解しているストーカーもとい幼馴染のエルゼである。
ついでに、バトはいつものルースの胸ポケットに入り込んでおり、いつものメンバーに学園長を加えただけのような状態であった。
スアーン?あいつは呼ばれていないし、一応エルゼ同様ルースについてある程度は説明可能な幼馴染だが、逃げやがった。
貴族との接触は面倒事が多いし、「ルース、お前といると100%面倒事があるのが目に見えているからな!」と、堂々と宣言して全速力でその場を去ったのである。
しかも、追いついたらすぐさまご丁寧に土魔法で穴を大量に掘って逃げ込み、追いかけようにもどれに逃げたのかわからないから、結局のがしてしまった。
学園に戻ったら、魔法で少々軽い地獄でも見せようと心にルースは決めたのであった。
さしあたり、風と水の複合魔法で、毛根ごと根こそぎ持っていくのが良いかな?土も混ぜて穴埋めすればいいだろう。
とにもかくにも、学園がある都市メルドランから、王城がある王都グレイモまでは、通常の馬車であれば6~7時間程度かかるらしい。
だが、通常の馬車ではない方法ならばどうなのだろうか?
「・・・うわぁ、あんな召喚魔法で呼べるモンスターもいるんだなぁ」
「『シーホース』と呼ばれるモンスターらしいわよ」
馬車から身を乗り出し、前方でけん引しているモンスターを見て、ルースはそうつぶやき、エルゼが答えた。
――――――
『シーホース』
馬型のモンスターの中でも、トップクラスの馬力の強さを誇るとされるモンスター。
蒼い馬という印象だが、その色が濃ければ濃いほど年季が入っており、能力が高いらしい。
しかも、水の上を渡る能力があるので、水陸両用の馬車に欲しいとされるモンスターである。
――――――
ちなみに、シーホースは蒼い体表を持つのが一般的だが、極稀に角の生えた真っ赤な奴がいるそうで、それは通常の3倍の速度を誇るそうな。
この世界に赤い〇星のような奴がいたのか。それはそれで見てみたいものである。
とにもかくにも、この馬車の御者はどうやら水色の魔導書を扱い、そして召喚魔法でシーホースのペアを呼びだして使役できる人らしい。
シーホースが引く馬車は速度が速く、快速便として重宝されているそうなのだ。
今回のルースの謁見に関しても、負担が余り無いようにと言う配慮で、特別に早く着ける快速の馬車を国が手配してくれたようなのである。
「帝国の方では『ミノタウロス』の馬車があったが、やはりこっちの方が快速感があるな」
「ミノタウロスの馬車?」
――――――
『ミノタウロス』
牛型のモンスター。シーホースに比べて速さは劣るが、ヒトのような体を持つタイプがおり、武器を持っていざとなったら戦闘が可能だというバランスのいいモンスター。
なお、肉食ではなく草食なのだが異様に筋肉が発達するものが多く、中には素手で岩を砕けるものもいるらしい。
――――――
「ミノタウロスの馬車なら、そのミノタウロス自身がけん引する係兼護衛としても役立つようで、戦時にはすごく助かったらしい」
レリアがそう説明してくれたけど・・・・・それはそれで気になる。
というか、いざとなれば戦闘できるけん引係って何だよ。
とにもかくにも、このシーホースの馬車なら通常の2~3倍以上の速さで着くことが可能らしく、到着予定は2時間後になるらしい。脚力すごいなぁ・・・・・・
「にしても、召喚魔法で使役できるモンスターって本当に結構あるんだな・・・・」
「召喚魔法の授業でおーしえているはずだよ?使える人は使えるけど、人によってかなーり変わるのだよ」
ちなみに、召喚魔法の際にはその人の持つ魔導書の色も関係があるらしいけど・・・・
「でも、それを考えるとタキってどうなのだろうか?」
タキの場合、何の属性を持っているのかよくわからない。
遠距離攻撃で光属性のような攻撃手段を持っていたと思えば、九本ある尻尾で風を起こして風属性のような物を想起させるなど、色々持っているように思えるのだ。ついでに火も扱えるようだけど本人曰く、そういった類のものはどれも扱いにくいので、基本的に格闘で攻めるらしい。
・・・・・そう考えると、ある意味ルースの持つ金色の魔導書の属性に適した者なのかもしれない。
なぜなら複合魔法を扱うので、召喚魔法で呼ぶモンスターが持つ属性がいろいろ複合しているやつを選んでもおかしくは無さそうだからである。
「そういえば、エルゼとレリアって召喚魔法を使えたっけ?」
ふと、ルースはその疑問を口にした。
学園長は召喚魔法の授業の際にケセランパセランのランちゃんとかいうモンスターを召喚しているのだが、思い返せばエルゼたちの召喚魔法をルースは見たことがないような気がした。
というか、学園長の召喚魔法で出るのがケセランパセランというのが意外なんだよなぁ。てっきり、ドラゴンとか、某焼き払えの腐った巨人とか、某うごめく巨大な蟲などを想像していたのである。
「あ~・・・・そういえば、あたしはもう召喚魔法を扱えるようになっているはずだけど、まだまともにやったことがないわね」
「私も同じだな。召喚魔法を扱えるはずなんだろうけど、それまでの手順を踏む気になれないのだ」
召喚魔法というのは、一度モンスターを呼びだせれば同じモンスターをすぐに呼びだすことが可能である。
だがしかし、その肝心な最初の召喚には、魔法陣や長ったらしい詠唱などの必要な手順が多く、あまり扱う人はいないのである。
ただ、夏にルースがタキを利用して宿題の輸送を行ったことから、運送面での活躍が見込まれ、改めて召喚魔法は脚光を浴びてきているらしいのである。
「でも、そのうち挑戦するつもりはあるのよね(タキのような方に対抗し、なおかつあたしを引き立ててくれるようなのが来てくれるのを願っているけどね)」
「こちらも同じだな。(できればタキを目立たなくできるようにしたいけどね)」
(心ノ声ガデテイルヨウナ?)
エルゼとレリアの言葉に、ふとその本音が聞こえたようにバトは思えて首をかしげるのであった。
とにもかくにも馬車は王都へ向けて進んでいく。
できればこんな謁見などは1度で無事に済んでほしいとルースは願うのだが…‥‥そう世の中うまいこと行くわけがないのである。
【ふみゅっくしょん!!】
「あれ?風邪かな?」
ちょうどその頃、都市メルドランのエルモアの家にて、タキはくしゃみをしていた。
召喚魔法でどうせすぐに出向けるので馬車には同乗しなかったのだが、どうも何か噂をされたようなくしゃみが出たのである。
【うーむ、誰かが我の事を噂しておるのかのぅ?】
「国滅ぼしのモンスターだと、堂々と公表をしたようだから、そのことで貴族たちにでも噂されているのではないかな?」
タキの言葉に、今日はあることを調べるために借りてきた本を読みながらエルモアはそう答えた。
【噂だとしたら、尾ひれがつかなければいいんじゃがなぁ‥‥‥噂の厄介性はよう分かっているのじゃよ】
「ん?何か過去にあったのかな?」
【・・・・・お主も知っておるじゃろう?我が国を滅ぼしたことがある話は良いのじゃが、それに尾ひれがついて「山を砕いた」とか「大地を割った」とか「湖を干上がらせた」等、やった覚えのないモノまで言われたことが昔あったのじゃよ】
「でも、それ一つはあっているよな?」
【「山を砕いた」かのぅ?あれは遠距離攻撃を試して、「山をふっ飛ばした」が正解じゃよ。全く噂というのは宛にならないからのぅ】
どちらにしてもろくでもないことをしでかしているのではないだろうか、と思いつつエルモアは読書を再開する。
「・・・・・やはり、ここで途絶えているかな」
【ん?先ほどからそういえば何を読んでいるのじゃ?】
エルモアのつぶやきを聞き、タキは彼女が読んでいる本に興味を示した。
「ああ、これかな?ちょっとしたある一族の家系図かな。とはいえ、この一族は調査が難しくて、これも十数年前にできたやつで、中々最新版が出ないんだよな」
【家系図?なんでそんな物を読んでいるのじゃ?人の子の移り変わりなど、そんなに面白いのかのぅ?】
「んー、ちょっと気になる案件というか、もしかしたらと思ってだが・・・・・・あと、これは人間の家系図ではないけどな」
タキに返答しつつ、エルモアはそれを何度も読み返して確認していく。
なんとなく、出てきたとある可能性について、学者魂とでもいうべきか、気になることに関して良く調べたいと思ったから念入りに調べていく。
何にせよ、その答えが出るのはまだ先のことであった‥‥‥‥
‥‥‥というか、仮にエルゼとレリアが召喚魔法を扱えたとしたら何を呼びだすんだろうか。
エルゼは水色、レリアは赤色、つまり水と火に関するものだからなぁ。
本人たちはタキの存在を薄くしたいと思っているようだけど・・・・・
次回に続く!!
‥‥‥スアーンの逃亡は分かっていた。だが、彼はそれでいいのだろうか?ただでさえ出番が少ないのに、もっと少なくなるぞ。