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愛しい貴方へ。

作者: 七瀬 海亜

拝啓 愛しいあなたへ


元気ですか。今頃何をしているか気になります。

あなたと出会ってから、2年が経ちました。たかが2年、されど2年。

中学に入学したと同時に出会ったあなたに、私は青春をすっかり奪われてしまいました。

あなたを諦めようとして、たくさんの人を好きになりました。

けれど、あなたの笑顔を見るだけで私は一気に引き戻されるのです。

あぁ、あなたが好きだ、と。

けれど、どんなに想っても無駄なんですね。

あなたはまだまだ子供っぽくて、とても私を見てはくれない。

いつも前だけ見て生きている、純粋な存在。

でも、それがあなただとわかっています。痛いほどわかっているんです。

なぜ私はあなたを好きになったのかは、私もわかりません。

ただかわいい、というだけでは2年も想いが続くわけありません。

あなたは、私が見てきた人の中で一番素敵でした。

何が、かはわかりません。ただあなたが私の特別であるということはわかります。

たぶん、あなたは私の全てなんでしょうね。

どんなに遠くても、離れていても、私はあなたが好きです。

けれど友達には笑われます。「女々しくて子供のような男子を誰が好きになるのか」と。

たしかに、女々しくて、声が高くて、ちょっぴり馬鹿で、すぐに怒るのがあなたです。

けれど、嫌いなところはありません。

もし嫌いなところが見つかっても、たぶん私はそれすらも好きになってしまうでしょう。

恋とは不思議なものですね。いや、愛なのかもしれないけど。

恋は甘酸っぱく、相手を思うもの。

愛は苦味が深く、その苦さすらも心地よくなってしまう。

それならば、私はきっと後者でしょう。

苦くて苦くてたまらないけど、泣きそうなほど愛しい。

毎日、あなたの笑顔を見るたびに思うのです。「この笑顔を独り占めできたら」、と。

けれど、無理とはわかっています。

人間だから。誰か一人のものになるなんて、無理。

とても悲しくなります。


覚えていますか?私とあなたが、きっと一番幸せだった時のこと。

出会って、まだ半年も経ってなかったですよね。

私は、あなたに興味があった。

恋愛感情とかじゃなくて、ただ単に、あなたという人間が知りたかった。

いきなり遠い街から来たあなたが。

すんなりと輪の中に入り、笑顔を見せているあなたが。


今から、ちょっと思い出話をしようと思うんです。

そんなこともあったね、と笑いながら聞いてくれると嬉しい。


毎日毎日宿題を忘れてきては、廊下に正座していたあなた。

そんなことが続きすぎて、居残りを命じられたんだっけ。

一人、じゃなかったよね。なぜか私は、そこに残ってた。

でも、残ってて良かったと思う。

きっと、その時私はあなたに恋をしたから。まだ甘酸っぱい、等身大の恋を。

あのとき、あなたは歌を歌った。口ずさむように、けれど大事そうに。

そのときに歌った歌、今でも覚えています。

だって、あなたが好きな歌を、私も好きになりたかった。そうすれば、近づけると思った。

ずいぶん昔のことだから、私もあまり覚えていません。

けれど、ひとつだけ覚えていることがあります。

窓から差し込んだ、真紅の夕焼け。

あの夕陽を忘れたことは、片時たりもありません。

きっと、あのときが私たちの青春だったんでしょうね。


そして時が経ち、私たちはゆっくりと仲良くなった。

となりの席になった時は、死んでもいいと思えました。

私があなたにメールを教えた時、一生懸命にしてましたね。

その一生懸命さも、私は大好きでした。


告白の時は、それはもう死にそうでした。

恥ずかしくて、心臓の高鳴りはまだ私の中にあります。

だからこそ、嬉しかった。

貴方が首を縦に振ってくれたのは。その時の私の顔は、きっとすごいものだったのでしょうね。


そして、私たちは進級した。

クラスは離れ、言葉を交わすことはなくなった。

そして私が犯した最大のミス。そこから、すべてが変わっていった。

私のせいで、関係は壊れた。

悔やんでも、悔やみきれない。私のただ一つの過ち。


けれど、貴方には感謝してる。

感謝という言葉だけでは伝えられない。

貴方が、私を救ってくれた。

全て、貴方がいたから私は強くなれた。

ありがとう だけ

此処に残しておきたい。


どうしようもないもどかしさと共に、時は過ぎた。

貴方と出会って3回目の桜が咲いた。

あと1年で、私と貴方は違う道へ進む。

そう思うと、どうしようもない想いが胸を痛めつけた。

きっと、貴方ほどに愛した人はもういない。

それほど、好きだった。

貴方は特別だった。

どんなに嫌われていようと、クラスが離れようと、二度と言葉を交わせないと知っていても、好きだ。

貴方の笑顔を見ると、泣きそうになる。

あと1年。きっと私は、何もできない。勇気が足りない。

だけど、貴方の笑顔を見ていたい。


いっそ、貴方に死んで欲しいとも思う。

確かに貴方を失う苦しみは胸が張り裂けそう。

けれど、貴方が他の誰かに取られるよりもよっぽどマシだ。

その細い首を絞めて、自分だけのものにできたら。

全てを捨てる覚悟ができたのなら。

私は目を閉じた貴方に向かって言うでしょう。「御免ね、けれどこうするしかなかった。」


なんて、できるわけがありません。

私には勇気がない。そう、臆病者。

そして、私一人の我儘ワガママに、貴方を巻き込むことは嫌です。

きっと、その時が来たら。

なんて、夢を見た。


どうしても伝えたいことがあるんです。

もうきっと貴方には伝えられないから、この場所で。


私たちは変わった。いや、変わってしまった。

この真っ黒な社会の中で、貴方は大人になる。私も、大人になっていく。

大人にはなりたくないと思った。

あの場所に行けば、きっと私は私ではなくなってしまうと思ったから。自我を失うと思ったから。

笑われたっていい、貶されたっていい。子供だと馬鹿にされたって構わない。

子供でも大人でもない存在でありたかった。

そして貴方と過ごした時間がそうだった。

けれど、少しずつ変わっていった。

緩やかに、首を絞めるように社会が私を包み込んでいく。

いずれ、私もあの大人たちのように、笑顔を貼り付けたまま社会へ適応しなければならない。

嫌だ。といっそ、死にたかった。

あの大人たちには、なりたくなかった。

一番幸せな瞬間に、死にたかった。

そうすれば、きっとこの社会に爪痕を残せた。慌てふためく姿を見て、「ざまあみろ」と笑えるんだと思った。

けれど、もうできない。

一番幸せだった瞬間は、過ぎた。

貴方と過ごした時期が、幸せだったんだと今になって思った。

後悔、じゃないよ。

うん、後悔なんてしてない。


だから、もう諦めた。私は、大人になろうと思う。

嘘を嘘で隠し、少年少女の必死の抵抗を「子供の戯言だ」と笑い飛ばそう。

嫌われよう、酒を飲もう、そして死のう。

大人ってなんだろう。それは大人にならないとわからない。

子供に戻りたいと思ったら大人。私はまだ子供だ。




だから、この世界を精一杯笑い飛ばしながら生きていこうと思う。


どう?さて、貴方はどうするのかな。

ちょっと興味わいたかも。ただ傍観するだけ、それだけだからさ。

受験、合格できるといいね。

新しい人生を歩めるといいね。そして、新しい恋をして、幸せになって・・・あれ?

私って、誰だっけ?

まぁいっか。とりあえず、貴方が幸せになることを願っているよ。


もうきっと伝えられないから、この文字に想いを乗せて。


ありがとう、ごめんね、さよなら。












愛しています。


敬具 愚かな私より


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