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ヴァルキリーズ・ストーム外伝 精霊体達は大忙し!前編

作者: 綿屋 伊織

「俺に文句言うなよ」

 睨み付けてくる美奈代に、都築は困り切った顔で言った。

「ありゃ事故なんだからさぁ」


「うわぁぁぁんっ!」

 都築達の目の前。ハンガーデッキに収容されたメサイア“鳳龍”。

 そのMCLメサイア・コントローラー・ルームで散々泣き叫ぶのは“鳳龍”の精霊体“十六夜”だ。

 泣き叫ぶだけではない。

 MCLメサイア・コントローラー・ルームの全ハッチだけでなく外部の全アクセスまでをロックしてしまい、実質的な引きこもりに入ってしまっているのだ。

 整備兵が万一に備え、騎体のメインパワーケーブルを抜いて使用不能にする中、“鳳龍”のMCメサイアコントローラーにして十六夜の名付け親でもある椿蓮つばき・れん少尉他、精霊体調律士、整備兵達がMCLメサイア・コントローラー・ルームのハッチにとりついて説得に当たっている。

 十六夜が応じる様子は全くない。


「ハッチをバラしても、肝心の十六夜が出て来る可能性は低い」

 “鳳龍”の様子を眺めながら、宗像は言った。

「精霊が動かなければ、メサイアだって動かない」

「一体、何したの?」さつきも半分あきれ顔だ。

「何?十六夜ちゃんイジめたの?」

「いや……」

 都築は苦い顔をした。

「何があった?演習中に墜落仕掛けた挙げ句、精霊体の全システムが停止。稼働不能に陥って不時着したと聞いたぞ?」

「……ブースターの推進バランスを騎体側で違えたせいで、あやうく大惨事になるところだった」

「何?」

「小学校に突っ込むところだったんだよ」

「お前の操縦ミスじゃないのか?」

「宗像……いくら俺でも高度8千から錐もみで墜落する趣味はないぜ」

「……アホ」

 白い目の美奈代が諭すように言った。

「精霊体達は精霊体達で必死だ。それがわからないわけじゃないだろう?その手の調整は精霊体やメサイアだけのせいじゃない。察するに貴様の調整が不十分なんだろうが」

「……だから、俺は十六夜にそう言ったさ」

 都築は憮然として口をとがらせた。

「だけどさ?十六夜はもうパニックだ。俺だって騎体をねじ伏せて回復させるのが精一杯なんて事態に陥れば、自分の調整ミスだって疑う」

「賢明だな」宗像は腕組みしたまま頷いた。

「少しは成長したようだ」

「言ってろ……多分、校庭で呆然とこっちをみつめていた、自分と同じくらいの子供達。それを一歩手前で殺しかけたことに、十六夜も傷ついたんだろうな」

 そう呟く都築は頭を掻いた。

「だからといって、俺にどうしろというんだ!?俺はいつから幼稚園に就職したんだ!?」

「自分の失敗で落ち込む娘を励ます父親―――の方が正しい気が」

「俺は子供なんていらん」

 ガッ!!

「……OK。泉、時に落ち着け。まだ子供はいらない。そう、まだ、だ」

「命拾いしたな」

 拳銃をホルスターに戻した美奈代が都築を突き飛ばした。

「都築さん、それで十六夜怒らなかったんでしょう?」

「当たり前だ」

 山崎の質問に、都築は憮然として答えた。

「“ごめんなさい”って泣きじゃくるからさ?お前一人の責任じゃないって言った」

「それでも、十六夜は……ああなった」

「ああ。ビービー泣き出したと思ったら、そのまま騎体の中に消えた」

「―――で、どうするんです?」

「美晴。手があるなら教えて欲しい」

「とりあえず」

 美晴はハンガーに並ぶメサイア達を見上げた。

「精霊体達に説得を頼みましょう」



「いいか、都築」

 美奈代は自分の騎体のコクピットに潜り込みながら、ついてきた都築に言った。

「十六夜の機嫌を直すことを最優先。何を要求されても飲め。いいな?ここで“鳳龍”を失うわけにはいかん」

「……わかってる」

 都築は半ばヤケ気味に言った。

「土下座でも袋叩きでも……好きにしろよ。俺が操縦ミスったせいだっていいたいんだろう?」

「―――貴様は」

 その投げやりな態度がカンに触った美奈代の額に青筋が浮かんだ。

「本当に、十六夜と仲直りしたいと思っているのか?」

「そりゃ……」

「どうなんだ?」

「……し、したいさ」

 都築はそっぽをむいた。

「ただな?あんなガキに頭さげるのはどうにも恥ずかしい」

「……ガキは貴様だ」



「もう少し、放ってあげればいいと思うよ?」

 美奈代騎の精霊体“さくら”はそう言った。

「コンタクトとったけど、泣いちゃって大変。私達の説得にも耳貸さないもん」

「どうにもならないか?」

「もう少ししたら、都築さんから、何かあげればいいと思う」

「何か?」

「うん」さくらは自信満々に頷く。

「十六夜、「何か欲しい」っていつも言っていたから」

「……なんだ?」

「忘れたけど」

 うーん。何だっけ?

 さくらは腕組みして首を傾げる。

 子供が精一杯背伸びしているようなさくらの仕草に、美奈代は思わず口元をゆるめた。

「とりあえず、思い出したら教えてくれ」

 美奈代に頭を撫でられたさくらは嬉しそうに頷いた。

「うんっ。他の子達にも聞いてみるね?」

「ああ」

 頷いて、美奈代は思いついたように訊ねた。

「で?さくらは、欲しいものは無いのか?」

「私?」

「そうだ―――いろいろ世話になっているから、私の手に入るものでよければ」

「考えてとくっ!」


「というわけで」

 深夜。人気の少なくなったハンガーデッキの宙で、メサイアを抜け出した精霊体達が顔を揃えていた。

 皆、外見が幼いため、端から見れば幼稚園の集まりのようだ。

「十六夜をどうやったら説得出来るか意見を聞きたい」

 仕切るのは宗像騎の精霊体、りょうだ。

「かってに仕切らないでよ」

 それが面白くないという顔で、さつき騎の精霊体、紗々(しゃしゃ)が口をとがらせた。

「まぁ……十六夜、都築さんのこと好きだから」

 訳知り顔は美晴騎の精霊体、夏姫なつひめ

「いつだって都築さん都築さんで頑張ってきたのに、あろうことか都築さん殺しかけちゃったんでしょう?……傷ついたんでしょうねぇ」

「そうっ!」

 夏姫はここぞとばかりに怒鳴った。ポニーテールにまとめられた髪がたてがみのように揺れた。

「でも、それを上手く慰められない都築さんも悪いっ!」

「女の子の心がわかんないなんて、都築さんって最低っ!」

「そうよねぇ〜っ!」(×9)


「と、とはいえ……このままじゃ十六夜、分解されちゃう」

 怖がるのは、山崎騎の精霊体、アルト。

 山崎お手製のゴテゴテ飾り立てたゴスロリドレスを身に纏い、やたらと浮いている。

「再構成送りは絶対阻止しなくちゃね」

 アルトのドレスと、自分の白いスモックを比較し、小さくため息をついたさくらは、皆の最大の心配事を口にした。

 再構成―――

 人格に問題があると認められた精霊体を持つエンジンを解体することを指す。

 精霊体とエンジンは不可分の存在であるため、これをやられた精霊体は消滅し、エンジンの組み直しによって、別な精霊体が生まれることになる。

 精霊体にとって、いわば死刑。

 精霊体が最も恐れる措置だ。

「そんなことされたら……十六夜、浮かばれない」

「さくら、殺すな。乃衣(のい)姉、何かいい案でも?」

 長野教官騎の精霊体、乃衣のいが腕組みして考え込んでいる。

 製造されたのが最も古いため、周囲の精霊体より若干年上に見える。

 金髪に瑠璃色の瞳を持つ、皆にとって頼れるお姉さん的存在だ。

「うーん……とりあえず、みんなで慰めてあげて、十六夜の要求を聞きましょう」

「聞いて、マスターに報告して」アルトが頷く。

「マスター達が拒否したら」さくらも同様。

「反乱」(×7)

「それでいいか」涼が皆の意見をまとめる。

「面白そう」

「やっちゃおう」


「ちょっと!」

 青い顔で立ち上がったのは、二宮教官騎の精霊体、りんだ。

 ツインテールの髪とつり上がった猫目が特徴的だ。

「黙って聞いていれば、好き勝手言い放題!」

「うるさいわねっ!」

 涼が怒鳴った。

「万年未経験の耳年増は黙ってなさいっ!」

「なっ!?じ、実戦経験はピカイチよっ!」

 まるで猫が毛を逆立てたように鈴はくってかかった。

「恋愛経験は永遠にないでしょう!?」

「人のこと言えるかぁっ!」


 ちょっ!

 やめなさいよっ!

 痛っ!やったわねぇっ!?

 

 ……もう、大騒ぎだ。


 それから10分後。


 ボコボコされ、正座させられている精霊体達を前に立つのは、一人の妙齢の女性。違う。精霊体だ。

 つややかな髪。整った顔立ち。人間離れした美貌を誇るボテージ姿の精霊体。

 “鈴谷”の精霊体“美鈴みすず”―――別名、美鈴姐さんだ。


「―――で?」

 美鈴は、正座する精霊体達に訊ねた。

「つまり、十六夜がドジって、凹んでいるってわけ?」

「……です」

 と、涼が呟くように言った。

「アア゛ッ!?」

 ビュッ!

 涼の目の前に振り下ろされたのは精神注入棒だ。

「聞こえねぇよ!涼、何っった!?」

「で、ですから……そう、です」

「声がちっさいっ!」

「そうですっ!」

「……ったく」

 美鈴はため息混じりに言った。

「私もさぁ……そりゃいろいろやってきたけど」

 ガンッ!

 精神注入棒が床を叩いた。

「こんっな!バカみたいな話は初めてだわ!」

「……」

「……」

 精霊体達が互いの顔をちらちらと見合う。

―――誰よ。姐さん呼んできたの

―――私じゃないわよ

 そんなやりとりに気づかないのか、美鈴は続ける。

「ここが私の中である以上、私がこのナシまとめなくちゃいけないわけじゃん?―――これで」

 精神注入棒が振り上げられた音に、精霊体達がビクッと小さい体をすくめた。

「十六夜が再生送りなんてなったら……あれよ。私のメンツ丸つぶれってわけさ。―――あんたたち、この私の顔に泥塗るつもり?」

「い……いえ」

「ならさぁ」

 美鈴は涼を抱きしめながら言った。

「あんた達、責任もって十六夜慰めて元に戻しなさい―――しくじれば」

 涼を抱きしめる力が強まる。

「―――わかってるんだろうねぇ?」


 


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