早い再会
「うおおおおおおおおおっ‼︎‼︎‼︎」
俺は走っていた。
何から?
トラックから。
デジャブと似たものを感じながら、俺は全力で住宅街の中を逃げ回っていた。
逃げ出してすぐに補足されてから、かれこれ十分も逃げ回っていて、もう体力の限界を迎えていた。
角でやり過ごしたり、民家の庭を横切ったりしてどうにかやり過ごしていたが、普通に生け垣ぶち抜いて庭に侵入してきたときは、まじで死ぬかと思った。
家に逃げ込むことも考えたが、躊躇いなく突っ込んできそうで諦めている。
『ほれほれ、また同じ目に遭わせてやるわっ︎』
「この性悪神めっ‼︎‼︎」
かなり人間味のある神の声にヤケクソになって答え、
くそっ、また死んでやるもんかよっ‼︎‼︎
俺は、普通に生きるんだっ‼︎‼︎
と、心の中で叫んだ────が早いか。
『なっ──接続が──不安────っ‼︎────またか、────────能力かっ‼︎──────────おっ‼︎‼︎‼︎』
ノイズ交じりの神の叫び声とともに、制御を失ったトラックがリプレイのように電柱に突撃して止まった。
「な、何が起きたんだ?」
よくわからんが助かったとわかった俺は、俺の知りうる最も安全な場所によたよたと向かった。
▶︎◇◀︎▷◆◁▶︎◇◀︎▷◆◁▶︎◇◀︎▷◆◁▶︎◇◀︎
「つ、着いたー」
疾うに通学時間が過ぎてボロボロの制服姿で登校する俺はかなり奇異の視線を集めたが、命より大事なものはないのだ。
その視線を無視して、俺が向かっていたのは、学校だ。
災害のときも悪漢に追いかけらているときも逃げ込むのは学校だ。
ならば、ここが一番安全なはずだ。
当然ながら校門が閉まっていたが、その横にいる当直室に警備員がいるから大丈夫だ。
「おいっ、おっちゃんっ‼︎ この門を開けてくれっ‼︎」
俺は校門の奥にある当直室に叫んだが、
「…………………………………………」
反応がない。
もぬけの殻のようだ。
「しょーがねぇか」
少々犯罪チックだが、よじ登るしかないようだ。
「っっっっっっっっっっらああっ‼︎‼︎」
俺より頭一つ分高い門に手をかけて体を時間をかけて引き上げると、なんとか体を回転させて向こう側に着地した。
とりあえず職員室に行けべきか、と考えて無人のグラウンドをよたよたと横切って校舎に入り、職員室に向かった。
職員室の前に辿り着いた俺は一度息を整えてから、扉を開けた。
「は、花柳先生っ」
一年の時から頼りにしている担任を見付けて俺は駆け寄った。
花柳は(多分)三十代前半の女性で、体育を担当しているにもかかわらず、先生の中で一番だらけていることと無類の巨乳で有名だが、それは今関係のないことだ。
「あん? 火脆木か? 一時間目サボりやがってサボりたいのはこっちの方だっつーの」
「そんな場合じゃねぇんだよっ!」
「はぁ? っ、おい、お前どうしたんだよ、その制服っ」
授業時間中に職員室にズカズカと入ってきた時点で、数人の教師は俺の異常に気付いていたが、机に足を放り出し、椅子にもたれかかっていた花柳は俺が視界に入って初めて気付いたらしい。
「トラックに撥ねられたんだ」
「はあっ‼︎ トラックに撥ねられただと⁈」
「そんなことより聞いてほしいことがあるんだよっ」
「そんなことで済む話かよっ‼︎ ほらっ、横になれっ‼︎」
らしくもなく取り乱す花柳が俺の肩をガッと掴むと、無理やり押し倒し、馬乗りになって制服を剥いでいった。
花柳の鬼気迫るオーラに阻むことも叶わず、
ちょっと待て、待ってくれ! 何プレーなんだよ、これっ‼︎
と、脳内でツッコミを入れているうちに、上半身を剥かれた。
女々しいかもしれないが、裸を見られてかなり恥ずかしい。
完全に無傷の俺の体を見て花柳が何度か触ったり、背中側を見たりして、しばらく黙り込んだ末に、
「……………………なんだぁ、火脆木? そんなにオレの気を引きたかったかぁ?」
転校生が行方不明だってぇのによぉ〜?、と言ってプルプルと震える拳を掲げて見せた。
顔もニコニコしてるけど、青筋がそれ以上に存在感を放っていた。
親父がマジギレした、つまりマジモンの熊に襲われたとき並みの迫力に俺は状況を忘れて萎縮した。
「いや、だから、そんなことはどうでもいいと────」
「火脆木ぃ、それが遺言ということでいいかぁ?」
「トラックに撥ねられたのはホントなんだよっ‼︎」
「まだ言うかっ‼︎ 嘘を言うのはどの口だぁ‼︎‼︎」
必死に弁明の言葉を重ねたが、まるで効果がなく、それどころか花柳の怒りに油を注いだみたいだ。
顎をガッチリ掴まれて、左右に振られた。地味に痛い。
「その人が言っていることは本当ですっ‼︎︎」
「「「「っ!」」」」
花柳になされるがままでいると、唐突に戸口が勢いよく開かれ、少女の必死な声が職員室に響いた。
それに、その場にいた全員が驚いた。
そこにいたのは、見覚えの有りすぎる美少女だった。
忘れるはずもない。
その美少女は俺が助けた少女だった。