フラグ(後編)
投稿が遅れまして申し訳ありませんっ‼︎‼︎
「というわけで、君たち二人の『フラグ』に関して素養がまるでないことがわかったところで、本筋に戻ろうか」
「おう」
「はい」
里見が予想通りの結果になんとも思ってないように平坦な口調で言われ、俺とリーナは居心地悪く肩を小さくして返事をする。
「こんなことじゃあ、火脆木君は第一級フラグ建築士と第一級フラグ回収士を同時に取得して波瀾万丈の生活を送ることになるよ」
「はっ?」
「自分でフラグを立てまくってそれを自分で回収することになる、つまり、『普通そんなことがあるわけがないだろっ。はっ、普通舐めんなよ』って、火脆木くんが言ったら、『そんなこと』がもれなく火脆木くんの身に降りかかることになるってことさ」
と、里見が俺のモノマネっぽいものを織り交ぜながら言った。
そのモノマネにリーナが、似てますー、と喜んでいる。
………………………………俺って、そんな言い方しているのか?
いや、今はそんなことはどうでもいいのだ。
「それは、最悪だな」
俺がそんなことを言うかどうかはさておいて、自分の言動のせいで自分がトラブルに巻き込まれるのは馬鹿げている。
「だよね。だから、それを勉強しようということで、クラブということなんだよ」
「ほう」
クラブというよりかは研究会という感じなんだな。
「わぁーっ、どんな、クラブなんですかっ?」
「ふふんっ。それはね」
「『相談受付部』だよっ‼︎」
「……………………どいうことだよ」
研究会じゃないのか?
相談受付部ということは、悩み相談を受けてそれを解決するということだよな?
何がどう関係するんだ?
「ボクはね、事件の裏にはフラグあり、というのが持論で、すべてのことにはきっかけ、すなわちフラグがあると考えているんだよ」
「そうか。フラグはきっかけという見方ができるのか」
「うん。何気ない言葉が友達との喧嘩に発展したり、彼女と別れることに繋がったりするけど、フラグの概念を広く見れば、そういうのもフラグになると思うんだよ」
「えーっと、つまり、その相談しに来た人の話を聞いてフラグを探すのですか?」
「その通り。ラノベを読んでフラグを勉強するのはもちろんなんだけど」
ん? それは、もちろんなのか?
「座学だけじゃ知ることができないことだってあるはず。アニメとかラノベのフラグは比較的わかりやすいけど、現実世界のフラグがそうとは限らない。というわけで、相談しに来た人の話からフラグを見つけて判例として記録する。で、代わりに相談を解決するというわけなんだよ」
「いい考えですっ、早海くん‼︎ 自分たちも相談した人も幸せになりますねっ‼︎‼︎」
「ふむ……………………」
確かに、リーナの言う通りウィンウィンの関係だが。
「週に三回活動して、それ以外のときは集まってフラグ勉強会をする予定だよ」
「内容はわかった。が、クラブにするということは他のやつも入ってくるかもしれないだろ。それに相談を受け付けるのはいいが、解決できないことがあったらどうするんだ?」
というか、ほとんど解決できないなんてことが起きれば、顰蹙を買うかもしれないぞ。
それで、生徒会とかに目をつけられたらどうしよう。
「そうだけど、こんな名前のクラブに相談する生徒も、入る生徒はまずほとんどいないし、入部希望者がいても何か適当な理由をつけて断ればいいんだよ、そんなの。それに、解決することは確約しないと言い含めておけばいいしね」
と、俺の質問に、なぜか晴れやかな笑みを浮かべながら里見が答えた。
「お、おう」
ブラック里見だ。
いつかのとき見た、笑っているけど笑っていない里見の裏の顔だ。
こういうときは、反論しないことが最善策だな。
障らぬ神に祟りなし、だ。
「しかも、人数がボクとリーナちゃんに火脆木君の三人だけだからクラブじゃなくて同好会になるんだよね」
裏の顔をすぐに引っ込めた里見が言った。
「ああ、そういえばそうだったけか」
確か、クラブと認められるには部員が五人必要だったことを聞いたな。
以前、少し噂に聞いたことだが、『BL部』なるクラブを作ろうとした人がいたらしいが、部員が全く集まらず同好会を作る人数も満たせず、頓挫したそうだ。
BLがどんなものかは知らないが、きっとかなりニッチなものだったのだろう。
「同好会になると、部費は全然貰えないけど、ボクの蔵書しか使うものないから、全く困らないんだよね」
「そうなんですか。それにしても、楽しみですっ‼︎ いつ作るんですかっ?」
ワクワクが止まらないといった感じで、ニーナが問いただした。
「今日か明日には作ろうと思うけど、火脆木君は参加するということでいいんだよね」
「おう。参加する」
まあ、懸念はあるが、それよりも何もしないことの方が怖いし、せっかく里見がこれだけ俺のことを考えてくれたのだ。
親友の心遣いを無にするのは友達として普通でないことは俺が一番知っている。
それからは、クラブ部屋をどこの教室にするかとか、第一相談者は誰だろうかとか少し気が早いような話を興奮したリーナを中心に話しながら、弁当を食べた。
「しかし、うまいな」
「え〜、もう、ダーリンったらっ‼︎‼︎」
俺の素直な褒め言葉にわかりやすく照れたリーナが赤くなった頬を両手で押さえた。
「妹の作るやつと似たうまさがある」
初めはおっかなびっくりに食べたが、思った以上に美味しく家庭的な味に俺は妹が作った朝食を思い出していた。
妹も母さんからならったんだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
「うん? そういえば、お母さんがいないけど、もしかして夏海ちゃんが料理を作ってるの?」
その俺のセリフに里見が流石の洞察力で何かに気付いたように訊いてきた。
「ああ。それが、料理をしているところを見たことないんだが、どうやら母さんから料理を教えてもらっていてよ。うまいんだよな」
「……………………見たことがない? ……………………てっ、ちょっと待って、今日、夏海ちゃんが突然怒り出したと言ったよね」
そして、また俺のセリフから何かを見抜いたように問い質してきた。
その表情が真剣で、わけがわからないものの何か差し迫った状況にいることだけはわかった。
「ん、ああ、そうだな。リーナが現れて、弁当を俺に渡した後だったな」
「っ‼︎ まさかっ‼︎ ボクはなんて見落としをっ‼‼︎」
そして、特命係に所属している誰かさんが事件の謎を解き明かしたときのような慌てぶりで独白した里見が俺に向き直った。
「火脆木君っ‼︎」
「ど、どうしたんだ?」
「早くっ、今すぐに、夏海ちゃんのところに行ってっ‼︎‼︎ もう、フラグは立っていたんだっ‼︎‼︎」
「はっ? なん────」
「とにかく、急いでっ‼︎‼︎」
「お、おうっ‼︎‼︎」
里見の剣幕に押されるようにして、俺は何もわからないままに妹の教室に向かって走り出したのだった。




