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里見の策略





 結局、押し切られて弁当を貰うことになり、心なしか昨日よりもひっついてくるリーナとともに登校する羽目になった。

 俺に向けられる視線が昨日よりも鋭利になっているのは気のせいじゃないはずだ。

 同じクラスのやつらは少し慣れてきてくれたのか、そこまで殺気は感じられない。


 「おはよう、火脆木(ひもろぎ)君、リーナちゃん」

 「おう」

 「おはようございます、早海(はやうみ)君」


 里見(さとみ)と挨拶を交わして机に座る。


 「今日も一緒に登校したんだね」

 「ああ、無理矢理な」


 そのせいで、朝から足が重い。また倒れる日がそう遠くないと感じるぞ。

 ………………………………だが、だからといってリーナを突っぱねることができない。

 ついてくるなって言っても、「はい、わかっています。ダーリンは思っていることと逆のことを言う『つんでれ』という人なんですよねっ」って言って取り合わないし、本気で強く言ったら言ったで、今度は、「ごめんなさい…………私…………ダーリンのことをわかっているつもりでいました」とか言って、急に目を潤ませて俯いてから痛ましい笑顔を向けてくるんだから、もう俺にはどうしようもできないのだ。


 「まあ、ダーリンったら、また恥ずかしがって」

 「恥ずかしがってねぇよ。まったく、今日も妹と喧嘩し始めるし」

 「また?」


 里見にしては珍しく、あからさまに呆れたように言った。


 「ああ、それで、あいつ、俺にいきなり怒り出して先に行ってしまったんだよ」

 「ふ〜ん。というか、まずね、二人で登校するのはもうやめた方がいいと思うよ」


 何か意味深な返事をして、里見は言葉を続け、


 「え〜〜〜何でですかっ!」


 それに、リーナが席から腰を浮かして、里見に抗議の声を上げた。


 「火脆木君は今、何もしなくてもトラブルに見舞われる体質なんだから、目立つことは控えた方がいいよ」

 「ああっ、そうだな。その通りだから、明日からは待ち伏せしなくていいぞ」


 それと、下校のときもな。

 一昨日と昨日は、やむにやまれない事情があったからなんだ。

 そこを勘違いしてはいけねぇな。


 「ええぇぇぇぇぇ、嫌ですっ‼︎‼︎ ダーリンと一緒にいたいですっ‼︎‼︎」

 「おいおい、駄々を────っ‼︎‼︎」


 なんだっ‼︎‼︎

 今、背中を何が刺し貫いたような錯覚を覚えたんだが……………………ついでに、里見君というものがいながらっ、ていう念まで感じたんだが、気のせいか?

 俺は反射的にバッと振り返って、キョロキョロと見回したが、やはり異常は見られない。

 ………………………………確かに感じたのだがな……………………。


 「火脆木君のことを思うなら、なおさら控えた方がいいよ、リーナちゃん」

 「うぅぅぅぅぅぅぅ………………………………」

 「……………………学校で会えるだろ?」


 本当に高校生かと思うような駄々のこね方をしているリーナだったが、そんなリーナに、とてもじゃないが強く言えるはずもなく俺は諭すように言い聞かせた。


 「でもぉ……………………」

 「っ……………………たく、しょ────」


 そして、ついに目に涙をにじませると、俺は降伏の白旗を上げざるを得なくなる。

 確かに、迷惑で目立ってしまうが、俺が普通ではないことを承知して我慢すれば済む話だ。

 それに、リーナのこんな顔は普通じゃない、とも言える────と、思ったのだが、


 「駄目だよ、火脆木君」


 里見が真剣な声で俺の言葉を遮った。

 その声は他の人には聞こえないように小さく抑えられていたが、俺を黙らせるには十分だった。


 「リーナが可哀想なのはわかるけど、ここはきっちりしないと、雪崩のように普通の生活が崩れていくよ」

 「ど、どういうことだよ」


 予想だにしなかった里見からの厳しいセリフに少し気圧されながら、俺は答えた。


 「もし、火脆木君とリーナが一緒に登校し続けたら、そして、リーナに目をつけている人がいたとしたら、もしかすれば火脆木君を排除しようとするかもしれない。暴力的な手段でね」

 「そ、そうかもしれないが、俺がいなかったとしても、リーナに近づけば俺の存在は知られるだろ」


 自慢じゃないが、リーナのせいで俺は高等部ではかなりの有名人だと思うぞ。


 「そうかもだけど、その場に火脆木君がいるといないではかなり状況は変わってくるはずだよ。火脆木君はちゃんと『主人公補正』のことがわかっていないよ。できるだけ、平穏な生活が送りたいならリーナと一緒にいるのは控えた方がいい」

 「…………………………………………」


 里見が向けてくる真剣な目に俺は何も言えず、口ごもる。

 確かに、俺は『主人公補正』のことはあまり知らないし、今更だが、そんな能力を持っている実感があまり沸かないんだ。

 炎が操れるだとか、時を止めれるだとか、わかりやすい能力だったら、すぐに実感できるだろうが、どうも俺の持っている能力は俺の意思では発動しないらしく、昨日の夜、「主人公補正っ‼︎‼︎‼︎」って叫んでも何も起きなかった。それで、何度も言い方を変えて叫んでたら、扉のところで妹が俺を汚物を見るような目で見ていたのを思い出した。


 「………………………………わかりました……………………」

 「お前……………………」


 そんなことを思い出していると、リーナが、肩を落として答えた。

 リーナには悪いが、そうするしかないん────


 「下校のときだけにしますね」

 「いや、リーナちゃん、そういう問題じゃないの」

 「………………………………」


 ………………………………何も言うまい。


 「やはり、ボクの心配は当たっていたようだね」


 里見が、はぁ〜、とらしくもなくため息をついてから、額を押さえながら言った。


 「どういうことだ?」

 「君たち二人には、二次元の知識が欠如しすぎている。こんなことでは、火脆木君はすぐにトラブルに巻き込まれてしまうよ」

 「………………その通りだな」


 初めからわかってても良さそうだが、指摘されるまで意識しなかった。

 俺はアニメとか漫画はあまり見たり読んだりしなかったからな。それを少しでもわかれば対策も立てられるかもしれない。

 と、俺の思考を読んだかのように、


 「だからっ」


 里見が、宣誓するように声を上げた。


 「ボクはクラブを作ろうと考えているんだ」


 ………………………………クラブ?

 クラブというのは、倶楽部ということだよな。


 「ちょっと、待ってください。それとこれと何が関係しているんですか?」


 万年帰宅部で、里見が何をしようとしているのかさっぱりわからず困惑している俺の代わりに、リーナが訊いてくれた。


 「詳しいことはここで話せないから、昼休みにまた話そう」

 「はい…………わかりました」

 「お、おう」


 だが、里見は人差し指を口元に当てると、秘密事項を話すように小声で言ったのだった。






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