6 キダからの依頼
なにやら話し声が聞こえる。女性二人が何かを近くで話している。
目を開けるとキダとQが目の前のソファに腰掛け楽しそうに雑談に興じていた。
「起きたか。相当疲れてたみたいだな」
「おはようございます。」
「あぁ、すまんな。寝てた。で、どうだったQは?」
目を覚ますなりQの状態がどうだったか気になり尋ねた。健康そうに見えるが怪我もあるし、それなりの期間、ほぼ奴隷のような生活をしてきたのを考えると心配せずにはいられなかった。
「至って健康。足の怪我も既に治ってる」
「治ってる!?かなり深い傷だったぞ」
「名前を聞いた時点でなんとなくわかっていたが彼女は最終戦争末期に改造されたサイボーグだ。傷の治りもそれなりに早いんじゃないか?」
「それは聞いていたが……」
「実は一晩たった時点で傷は塞がっていました」
Qが申し訳なさそうに口を開いた。
「大事にしてくださるのが嬉しくて黙っていました」
「一日おぶってここまで来たのに……」
「申し訳ありません」
本当にそう思っているのか疑いたくなるほどの笑顔だった。
「傷のことはもういいだろう。問題はQが戦争末期に改造されたということだ。調べてみたが特に脳がすごい!半分ほどが機械化しているがそれによってか超能力を使える」
「それも知ってるよ」
キダが興奮しながら講釈を初めた。
「君が見たのは能力の一部に過ぎない!おそらく念動力を見ただろうが動かしたのは小石程度のものだろう?しかしだ、彼女にかかればそこらの廃墟まるごとを造作もなく動かせる!目も見えなくなってしまっているが無意識に念動力で周囲を探知しているからそこまで不自由しているわけでもない。すごいよQは!」
早口で一通り言い終えるとキダが両肩を掴んできた。
「ノウ!ここに住め!どうせ追われてる身だろう!私にとっても仕事を頼むのにちょうどいいからな」
願ってもない申し出に思わず笑ってしまう。
「そう言ってくれるなら願ったり叶ったりだ、帰るところがなくなってしまってたからな」
「私も賛成です。ノウさんの仕事、手伝います」
俺達の言葉を聞くなりキダが満足気に立ち上がり部屋の奥へ引っ込んで行った。
「そういやさっきまで何話してたんだ?」
「対した内容じゃないです。ガールズトークです」
Qがニコリと笑った。
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暫く経つとキダが大きなトランクケースを持って戻ってきた。
「いやぁ!お待たせ!早速だけど依頼があるんだ!」
トランクの中身は対汚染装備だった。一式が揃っており、まだ使われた様子もない新品だった。
「そんなことだろうとは思ったが……あれ?Qの分はさすがにないか。それなら今回は留守番をしてもらおうか」
それを聞いてキダとQが不敵に笑った。
「その必要はないんだよノウ!」
「汚染地帯は私、装備なしでも入れます」
二人の言葉に耳を疑った。いくらサイボーグとは言え生身の部分が残っている以上、高濃度放射線の影響は避けられないはずだ。
「Qは自分の能力で放射線を防ぐことができるんだ。放射線と言っても所詮は粒子だからな。Qにとっては手でホコリを払う程度のものらしいんだ」
キダの解説にも少し納得は行かなかったがQ本人が言うのなら間違いないのだろう。
Qの目が見えなくなったのも核の閃光で回路が焼き切れたからと話していたのを思い出した。普通の人間ならそんな距離で閃光を浴びた時点で命は無い。
「でも対汚染用の靴は履きますけどね。土壌汚染はさすがに足が直接触れますので」
そう言いながらQがサイズ調整された対汚染の加工がされた靴をキダから受け取った。
「ここまで言っても君は心配性だからこの靴には新機能を付けていてね!靴から出る目に見えない特殊な膜のようなもので体を覆って放射線をシャットアウトできるのだよ!すごいだろう!」
キダが誇らしげに解説をしているのを横目に装備を身に着けていく。
「まぁ実験段階だから命の保証はないから過信はしちゃ駄目だぞQちゃん」
キダがQに装置の細かい説明をしている。おそらく開発したはいいが自分で試す気にはなれなかったのだろう。その点、俺たちがここにいれば実験台にも使えるとあってキダは終始機嫌が良かった。
装備を付け終わるとキダに装着が完全に行われているかチャックをされた。
「よし。これでOKだ。それから……これが今回の仕事の内容だ」
メモを1枚手渡される。内容を確認して愕然とした。
「Qちゃんと二人なら平気だろう!」
キダが笑いながら俺とQの背中を二回叩いた。
「では頼んだ!くれぐれも気をつけて」
「まぁQがいれば大丈夫か……」
「はい!なんでもおまかせください」
Qが珍しく元気よく答えた。