5 キダ博士
「おっ!見えてきたぞ」
出発してからかなりの時間が経ち、日も完全に沈みきった頃にようやく目的地であるキダ博士の住む場所にまでたどり着いた。
一見すると周囲には何もなく、ただ荒れ地が広がっており、そこに人の背丈ほどの錆びついた看板がいくつか野ざらしになっているだけの場所だ。
「こんな夜分に訪問して迷惑ではないでしょうか?」
Qが少し心配そうに尋ねてきた。
「平気だよ。まぁちょっとまっててな!」
胸に抱えたカバンを降ろし、そこにQを腰掛けさせた。
「えっとたしか……これだったかな?」
いくつかある看板のうちの一つを観察する。何の変哲もない錆びついた道路標識だが、鉄パイプに鉄板を二枚重ねた間に小さなレバーを見つけた。
小さなレバーに指を引っ掛けるとカチリと軽い音がし、暫く待つと隣の看板から声が聞こえた。
「誰?」
短く女性の声がする。
「久しぶりだな。ノウだよ。用があるんだ中に入れてくれ」
「ノウ?ひさしぶりだなぁ!今開けるから待っててくれ!」
5分ほど待つとQが座っていた後ろの地面がパカリと円形に開き、中から髪をボサボサに伸ばした女性が現れた。
「さぁ、入ってくれ」
女性が手招きをし、穴の奥に続くはしごを降りていった。
「はしご降りられるか?」
Qは目が不自由なためはしごを一人で降りるのはいささか危険に思った。
「大丈夫ですよ。大方の位置はすべて念動力で把握できますので」
そう言うと、穴までゆっくりと摺り足で向かっていきはしごを降り始めた。
ようやくはしごを降りると穴から顔を出した女性が握手を求めてきた。
「久しぶりだな!まだ生きてたんだな」
「久しぶりですね。キダ博士!そりゃ生きてますとも」
握手に応えつつ軽口を叩いた。
「して……その娘はどうしたんだ?お前子どもいたか?まさか誘拐したんじゃ……」
キダがわざとらしく口元に手を当て震える演技をする。
「仕事中に色々あったんですよ」
「そうなのか……まぁいいか。とりあえず立ち話も何だから行こうか」
キダがトンネルの奥に向かってあるき出した。
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トンネルを抜けると居間らしき場所に出た。自分は何度か来たことがあるので知っていたが、地下にあるにも関わらず快適な空間が広がっていた。
「さて、ゆっくりしていってくれ。そういえば挨拶がまだだったねお嬢ちゃん!私はキダ。ここで汚染地帯の研究をしている。ノウは昔からの付き合いでね。何度も汚染地帯の調査を依頼しているんだ。ノウに変なことされなかったかい?」
キダがにやけつつQに簡単な挨拶をした。
「私はQです。ノウさんに助けていただいてから一緒にここまで来ました。1度夜を一緒に越しましたが手は出されませんでした」
Qが馬鹿正直に答える様子が面白かったようでキダは笑いながらQと握手をした。
「ところで名前はQと言ったかな?」
キダは突然真面目な表情でQに尋ねた。
「はいそうですが?」
それを聞いたQがこちらを見つめて口を開いた。
「この娘に興味がある。健康状態の確認も兼ねて体を検査させてくれないか?」
「それを俺に聞くんじゃない。本人に許可を取れよ」
うんざりしてQに話を振った。
「はい。私は一向に構いませんが?」
Qはあまり気にしていないようであっさりと了承してしまった。
「それじゃ早速!こっちに来てくれQちゃん!」
キダはQの手を引くと足早に奥の部屋へ入っていってしまった。
待っていてもしばらく出てこなかったのでソファに腰掛け水を一口飲むと少し目をつぶった。