アウェイケニング:ACT5
※最新の登場人物に関しては
「アウェイケニング:”ACT1”」
あらすじに関しては
「アウェイケニング:”ACT4”」
をご参照いただけると、本作初見の方でも話の流れに乗りやすいと思われます。
よろしければ、ぜひご活用ください。
EPISODE 027 「Awakening(目覚め):ACT5」
「俺の魔術名は【サンゲフェザー】。お前ら何者だ」
「ファイアストーム」「フラットよ。よろしく」
二人は名乗った。
サイドカー上で立つファイアストームと、彼を狙う新手の超能力者が対峙する。
「挨拶も済んだし、ご退場願いましょう」
「異論なし」
サイドキックで距離が離れた所へ、ファイアストームが銃撃。弾丸がカーブし狙うのはサンゲフェザーがまたがるバイクの前タイヤ。
戦闘サイキッカーは超人的身体能力とタフネスを持つだけでなく、超能力者としての固有能力も持ち合わせているせいで、それを殺すとなると同じサイキッカー同士であっても相当の骨。
だがこういうシチュエーション下でのみ使える良い方法がある。今の状況下、なんといってもオススメできるのはバイクの直接破壊だ。
このままでは戦線離脱待った無し。しかしサンゲフェザーが重量二百キロはあろうかというバイク車体の前部を浮かせると、紙一重、ウイリー走行でカーブ弾丸を回避する。
ウイリー走行のままサンゲフェザーが銃口を向け、サブマシンガン射撃。フラットは速度を落とし回避運動。直接乗り手に被弾する弾、機体へ直撃させたくない弾だけをファイアストームは選別し、M4カービンと彼の能力によってそれらを撃ち落とす。
ファイアストームが更に銃撃。サンゲフェザーは回避を試みるが、狙いは彼本体ではなかった。サンゲフェザーの射撃を封じるのが先決と考えたファイアストームは、彼の銃に狙いを定め、武器を弾く。
「――!」
サンゲフェザーは銃を取り落とす。落としたサブマシンガンは高速道路上の地面を跳ね、時速100キロで移動し続ける戦場から取り残される。
「誰か運転代わってくれ!」
サンゲフェザーが叫ぶと、護衛マイクロバスのルーフから一人の男が立ち上がる。そして……まさかの跳躍!
高速道路上で跳躍など自殺行為。そのまま身を飛ばされて路上へと激突死するかと思われた。だがサンゲフェザーは飛んできた男の腕を左手で掴むと、その男はサンゲフェザーのバイク後部にまたがって見事着地した。
「助かる!」
ファイアストームのバースト射撃で更に銃弾が飛んで来る。サンゲフェザーは自らのバイクから狙いを逸らさせるかのように、ファイアストームたちのサイドカーバイクへと向けて、膝を抱えて回転跳躍。カーブした弾丸が何発か彼の身体をかすめるが、直撃とは至らず浅い。
驚くべき身体能力を披露した男はそのままサンゲフェザーと運転を交代し、速度を緩めてファイアストームたちから一旦距離を取る。
ファイアストームは銃撃で敵を止め切れないとみるや、大東亜戦争の末期、沖縄の戦場で編み出された修羅の武道、躰道が誇る必殺の足技、シュリンプキックを繰り出した! カタカナの「イ」の字を描くような蹴り上げがサンゲフェザーに命中!
「ぬおおっ!!」
大きく蹴り飛ばされ、宙を舞ったサンゲフェザーは危うく路上に転落しかけるも、後方から来る一般車のルーフ上に着地、後ろ受け身を取りながらもう一度跳躍し、更に後方の乗用車のルーフ上で前受け身を取り、そのふちを掴む。
サンゲフェザーはルーフにしがみついたまま、車両助手席側の側面ガラスを二度、三度と殴りつけ、叩き割る。
「うわああああああああああああ!!!!」
超能力者同士の戦いや超常・異常現象に対して、常人の脳と精神は基本的にそれらを拒絶し認識しないようにはなっているが、こうも強引な接触を行われれば別だ。運転手が悲鳴をあげた。
「るせえ! いいから車貸しな!」
サンゲフェザーは車内に滑り込むと、運転手を無理やり後部座席に押し込み、走行中の車を奪い取った。
サンゲフェザーを一時退けたファイアストームは他戦力の撃破に移る。敵戦闘員は懸命に応戦するものの、ファイアストームの銃撃を受けた敵戦闘員が一人、また一人と命を落とす。
側面窓からマイクロバス屋上に上がろうとした一人が手すりに手をかけるが、腕を銃弾で打ち抜かれ、頭から路上に転落。血と骨が道路に飛び散り、折れ飛んだ歯がウラルバイクの装甲を微かに鳴らす。
フラットはルーフ上で拳銃を構える男の一人向けて手をかざした。フラットの瞳は暗いアイスブルーへと変色し、かざした手も同様の暗い光を放つ。すると男はフラットに向けていたはずの銃口を自らのこめかみに当てて……引き金を引いたのである。
パン! 乾いた音と共に男は自らの側頭部を打ち抜き、道路上へと落ちてゆく。
次に彼女は、後方から付け狙ってくる、先ほどサンゲフェザーと運転を交代したバイク上の男を見た。
男が銃口を向ける。彼女が振り向き片手をかざすと、バイク上の男は小さく呻くと銃口を遥か上に向け、狙いの外れた射撃を行った。しかし、さきほどの相手のように突然の自殺を行う事はない。
「ファイアストーム、能力に抵抗するのがいる。エーテルフィールド持ち」
ファイアストームがバイク上の敵を見た。ファイアストームは別方向から来た弾丸を撃ち落とす。彼の能力による高い迎撃能力の加護あって、ウラルカスタムの傷はまだ浅く、運転手のフラットもほぼ無傷だ。
ファイアストームが射撃を行うと、敵は頭を下げながらバイク車体を大きく傾け、カーブ弾を回避する。
「超能力者、あるいは能力なしの超越者(オーバーマン)か。とりあえず叩きにいく」
「よろしく」
「足場、頼めるか」
「これでいいかしら」
フラットが返事すると、敵バイク運転手の後ろにあった一台の4トントラックが急加速、追突されかけた敵バイク運転手が慌ててトラックを避ける。
「十分だ。助かる」
トラックを呼び寄せたのはフラットの能力によるものだ。ファイアストームはトラックの屋根へと飛び登った。フラットは敵バイクから逃れるようにしてウラルバイクを精一杯加速させる。フラットが間接的に操作するトラックはウラルバイクの真後ろに付き、彼女の盾となる。
「10秒でリタイアさせる」
ファイアストームはトラックの屋根の上で膝立ちとなり、M4カービンを構えた。まずは敵に攻撃をさせないためのけん制射撃。当てる事は期待に入れていない。
バイクがけん制射撃に臆してフラットへの銃撃を中断。代わりにバイクを加速させ、逃げたフラットを追おうとトラック側面側に出る。だがトラック屋根上のファイアストームが追撃を許さない。追加の銃撃。バースト射撃で放たれた三発の銃弾がカーブし、背中からバイクの男の肩と背中に突き刺さる。
「グアァ!」
男は悲鳴をあげる。だが、それでもアクセルからは手を離さない。
彼が右肩に受けた銃弾は浅い部分を貫通し、対抗車線の方へと突き抜けたが、背中に被弾した残り二発は彼の身体を食い破れなかった。
彼の身を守る透明の薄い膜。エーテルフィールドの展開と、それによって引き起こされる微かな現実世界のゆがみをファイアストームは見た。
敵が持つ高い身体能力、超能力への抵抗、そして身にまとう不可視のバリア。フラットとファイアストームの見立て通り、その敵が常人でない事は明らか。だがファイアストームの殺意は微塵にも揺らぐことはない。
彼は姿勢を変えず、カービン前部に取り付けた付属アタッチメントに左手を伸ばした。アタッチメントされた武装はM203グレネードランチャー。彼は銃身を前部へスライドさせ薬室を開放する。
ファイアストームの輝く右の瞳の中に、染みついて落ちる事のない血のようなエンジの色の、三つ葉のクローバーのシルエットが浮かんだ。
そして左手を開き、そこへ意識を集中させる。左手に金色の光が集まり、グレネード弾が生成された。彼の能力【孤高の戦争遂行者 (ワンマンアーミー)】の適用範囲は銃弾のほか、使い切りの消耗物であればグレネードや地雷、果ては無反動砲弾などの爆破物にまで広く適用が及ぶ。
銃弾を生み出す、爆破物を生み出す。コントロールする。このセットで一つの能力。
【孤高の戦争遂行者 (ワンマンアーミー)】の持つ機能はたったのこれだけ。すなわち、彼は目から破壊光線を放つ事も、天候を操る事も、磁力を操ったり音速で地上を駆け抜ける事もできない。
――しかし、作りだす弾丸は通常のものより強力で、無から有を生み出す能力性質からその継戦能力も高い。
音速を越えて飛翔する銃弾さえ回避可能、被弾してもその破壊エネルギーに正面から耐えるような人外のバケモノ共――戦闘サイキッカーを相手にしてさえ、その自在な弾丸軌道と手数、火力によって敵の逃げ場を奪い、絡めとり、捉え、討ち取る。
奇抜さはない。だがこの力で彼は今までにも数々の強敵を屠って来た。そしてこれからも、この能力で立ち塞がる敵を屠り続ける。
エーテルによって生成された仮想グレネード弾を、カービン銃前方にアタッチメントされたグレネードランチャーの薬室に弾薬を装填。銃身を後方スライド、薬室閉鎖――良し。
ファイアストームが、カービン銃にアタッチメントされたオプション武装【M203グレネードランチャー】の引き金にその指をかける。
金色に淡く輝くグレネード弾頭が、ポフン。という独特の軽い音と共に射出された。男が目を剥く、避けようとするも、避けきれなかった。グレネード弾がカーブし、敵の男をバイクごと捉えた。
爆発音が高速道路に響く。グレネードはバイクのガソリンタンクに誘爆し、大きく爆発炎上。それに巻き込まれた男はエーテルフィールドを以てしても吸収しきれないダメージを受け爆死。
男の肉片が宙に舞うと、あとは堕ちるだけ――それはバイクの残骸ごと道路へ落下していった。
「処理完了」
トラック前方ではフラットがバイク乗りの女性戦闘員と戦っている。フラットが有害な精神波を放射するが、バイク戦闘員は耐える。しかし敵に生じた隙を狙ってフラットはバイクを急接近させ、敵バイクを思い切りに蹴り飛ばす。
女性は大きくバランスを崩しクラッシュへ。だがバイク女性は機体を制御できぬと判断するや即断し、バイクを捨てて大きく跳んだ!
『一人行った。超越者が1』
「了解。こちらで処理する」
敵の一人、バイクスーツにフルフェイスヘルメットの女性が、ファイアストームと同じトラックの屋根上に着地し転がる。ファイアストームは打ち下ろしの左拳で即彼女をノックアウトしようとするが、敵はその腕を取り、腕ひしぎ十字固による義手の破壊を狙う。
ファイアストームは敵の試みる関節技が完成するよりも早く、敵の股にカービンの銃口を押し付ける。
ゼロ距離下半身破壊の危機を感じ取った女性は拘束に向かわせようとした左足を瞬時に降ろし、蹴り落とすようにしてカービンの射線を外す。ファイアストームは敵に生じた怯みと隙を見逃さず腕を引き、腕ひしぎから逃れる。
敵女性は後ろに転がり、仕切りなおすようにしてファイアストームから間合いを取る。
『後ろから追ってくる車両が1』
続けてフラットの報告。一度は戦線を外れていたサンゲフェザーが、奪った車で戦線復帰し、彼女を追ってきていた。
「あと10秒待てそうか」
『いいわ』
フラットが彼女の能力で一般車両の一台を操る。彼女たちが追い抜いて後ろにあった車の一台が減速し、サンゲフェザーの行く手を阻んだ。
ファイアストームはトラックの屋根という限られた足場の上で敵女性戦闘員と戦う。バイクヘルメットの女性めがけてカービンで銃撃。バースト射撃の内、一発は回避され、一発を腕を犠牲にしてガード。最後の一発は頭部側面に命中。敵は攻撃に耐える。ヘルメットを被っているせいで頭部の守りがやや硬い。
4トントラック上という限られた足場上での格闘戦では、カービンの取り回しが良くない。彼はカービンを背中に収めつつ、左のホルスターからザウエルピストルを引き抜いた。
エーテル拳銃弾が間合いを詰めるヘルメット女の腹部に命中。だが敵のエーテルフィールドのせいでダメージが浅い。ヘルメット女のハイキック。ファイアストームはかがんで蹴りをかわす。地に残ったヘルメット女の軸足をしゃがみ蹴りで払う。足を払われながらも敵女性はバックフリップし、転倒を逃れる。
ファイアストームは敵に背を向けたしゃがみ姿勢のまま、銃口のみを向けた背面撃ちを行う。ファイアストームのレザージャケットを突き破って飛ぶ二発の銃弾が、バック転から姿勢を戻したヘルメット女に命中。右胸と右脚に弾丸を受けてよろめく。
立ち上がり向き直ったファイアストームは右のホルスターからもザウエルピストルを引き抜き、二丁拳銃で連続射撃。計四発放った銃弾がすべてカーブして、ヘルメット女の右脚を集中的に狙う。
一発、二発、三発、四発。立て続けの攻撃でヘルメット女を銃撃による致命傷から守っていたエーテルフィールドが破られた。
銃弾が右脚を食い破って突き抜ける。バランスを崩して膝をつくヘルメット女。
ファイアストームは右の拳銃のみをホルスターに戻すと、背中のマチェットを引き抜き、半身で一気に間合いを詰める。ヘルメット女が立ち上がろうとしたところ、そこへ右肩が右ひざに付くかというほどの深い一閃――。
女性の左肩から胴体にかけてナナメに抜ける致命の袈裟斬りだった。
エーテルフィールドを割られた所へ致命傷となる斬撃を受けたヘルメット女性が、血を流して力なくトラックの屋根から転落した。
これで敵のバイク部隊は全滅。多数の常人戦闘員とエリート兵たる超越者も併せて戦力損失。
残るは涼子を乗せた改造マイクロバスが1、護衛に同種のものが1、さらにもう一台護衛らしき普通乗用車が1。合計三台、いや、もう一台ある。
それは奪った車両で後ろから追ってくるサンゲフェザーの車だった。これを片づけなければ涼子には辿り着けない。
EPISODE「Awakening(目覚め):ACT6」へ続く。
TIPS 世界設定:
☘超能力
使用者/コードネーム【坂本 レイ/ファイアストーム】
能力名【孤高の戦争遂行者(ワンマンアーミー)】
能力:弾薬生成&コントロール
能力説明:
・銃弾を作れる、グレネードなどの爆発物も作れる。撃った銃弾はコントロールが効く。
たったこれだけ。非常にシンプルで奇抜さもない能力だが、彼は多くの超能力者をこの能力で葬って来た。
・拳銃、ライフル、散弾銃、義手の仕込み銃から弓矢のような武器にまで幅広く対応。状況に応じて武器を使い分けて戦う。
・能力によって複製されたエーテル弾薬類は元の代物より全体的に高威力で、対能力者相手の有効性は特に高い。
・弾丸は作れるが「銃本体」は作れないため、武器そのものは持ち歩く必要があり、丸腰だと能力の行使が大幅に制限されるという弱点を抱えている。
「右のパンチと左のパンチしかしない。でもマイクタイソンは誰よりも強かった。そうだろう?」
――ファイアストーム
「タイソン? 耳なんか食べたらお腹壊しちゃいますよ」
――マイクタイソンについて。ソフィア
 




