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25.変わり果てた姿

 ヘルゲートを抜けられたのは、予想通り陽が落ちてしばらくのことだった。荒野を越えるとあの時見えていた山に入り、今日はそこで野宿をすることに。


「お前ら疲れ過ぎだろ」


 どこかデジャヴを感じつつ、俺はそう呟いた。死にかけのモブ達とオーフェンは、俺がぴんぴんしているのがおかしいとばかりに返事をしてくる。


「あの歪な魔力を受け続けて無事でいられるってどんな身体しているんだ……英雄様ってのは」

「まあ、そこは流石としか言えねぇのかな……」


 あぁ、あのヘルゲート内は俺に関係ない魔力関連の何かがあったのか。残念ながら俺には魔力の概念がないからそんなものは通じない。こいつらにとっての瘴気だとしても、俺からすれば害でも何でもないのだ。


「とりあえず今日は休む、体力回復しとけ」


 夜は異常に冷え込む。このローブが昼間受け続けた熱を夜に放出するので着込んでいればそこまで辛くはないが、寒いもんは寒い。

 俺も寒いのは嫌いだ。身体が自由に動かなくなるからな。


「で、この山越えればお前の家族がいんのか?」

「そうなる。集落があって、そこに少数の魔族が固まって生活しているんだ。基本的に移動は行わないから行けばすぐ見つかると思う」

「ほう、そりゃありがたい」


 急ぎにしたって、オーフェンの情報は回っていない。たとえオーフェンがグレゴリアに居たとしても、俺が関わっている部分まで知られなければ家族を拉致するような結論には至らないからな。

 要はオーフェンを安心させるため、先手を取ったようなものだ。尤も、グレゴリアがああでは問題は何も解決していないんだがな……。


 ここの山にはモンスターが生息して度々襲ってくるため、見張りを二人にして交代で寝ることに。俺は基本的に寝ているが、モンスターの襲来があった場合、二人の内のどちらかが起こしてくれるということに決まった。

 良かったな、俺は寝起きがそこそこいい自信がある。起こして俺に殴られでもしたら致命傷だ。


 そんなこんなで、夜は更けていった。






 山を越えたのは、陽が落ちかける辺りであった。橙に染まる空を見上げて大方の時間を確かめ、山の(ふもと)に見えていた集落を目指す。


 モンスターの方は度々出現していたが、その全てを俺の攻撃で潰していった。この辺りのモンスターは非常に強力だとモブの誰かが話していたが、俺には影響しなかったみたいだ。

 というか初めての戦闘が魔王軍だったんだ、当然に決まっている。


「お、アレだ――ちょっとここで止まっていてくれ。いくらなんでも人間である皆を一斉に連れてったら襲われたのだと勘違いされかねない。俺が先に行って事情を説明して戻ってくるから、そうしたら付いて来て欲しい」

「それもそうだな。じゃあ頼んだぞ、オーフェン」


 一任すると、オーフェンはひひんと(いなな)いて集落へと向かった。


 普通ここまで任せっ切りにしていたら危ないもんだが、相手が俺だ。もしオーフェンが集落に救援を要請しても俺には敵わないことは承知のはずだろうし、特に心配する必要もなかろう。


「なぁモブ達」

「おいおい段々扱いが酷くなってねぇかな……突然どうしたんだ? 英雄様」

「お前らさ、どうしてオーフェンのこと信頼してんだ?」


 さて、この暇な時間は有効に使おう。


「そりゃあ……オーちゃんが優しいからじゃねぇかな」

「優しい、ね」

「オーちゃんはな、俺達があの森で遭遇した時も全く敵意を見せなかったんだ。絶望していたってのもあるかもしれないが、そこで何を思ったか声を掛けちまってな」

「別に最初から好意あったわけじゃねぇぜ。ただよ、オーちゃんと話していて思ったんだ。種族違うだけで、根本的には俺達もオーちゃんも……魔族も変わらないんだなって」


 俺はモブ達の話を静かに聴いていた。

 こいつらの言っていることは当たり前のことだ。俺の世界で黒人差別があったように、人間という種族全体が魔族を差別していたせいで、そんな簡単なことすら気付けなかったのだ。

 こいつらはその些細なことに気が付いた。そりゃ、すげぇことだ。俺はこの世界の住人じゃねぇから何とも思っちゃいないが、三人は違う。

 魔族との戦争状態でそれを理解した。それは、大きい収穫だ。出来ればその芽が何かに摘まれて消滅しないよう、見守っててやりた――。


「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そんな時、オーフェンの悲鳴がこちらまで届いてきた。俺達は全員集落の方へ目をやり、何事かと顔を見合わせ頷き合う。

 何かがあったのだ。


 なのに、オーフェンが来るまで待っているという悠長な選択肢を取る愚者じゃない。


「行くぞ!」


 俺を先頭に、四人で集落へと駆け出した。






 まず集落に入って目に付いたのは、身を震わせているオーフェンだった。背中を向いているため表情は覗えないが、相当に驚いているのであろうことは分かる。

 問題はオーフェンの視線の先だ。


 俺はとんでもないものを見てしまって、放心していた。横目で三人を一瞥すると、彼らもあんぐり口を開けて驚いていた。


 そりゃそうだ。だって――。


「お兄ちゃん! あははっ、それ高すぎる、高いよー」

「ははは、もっと高くもできるんだぞ、そーれ、そーれ」

「きゃははっ凄い凄いー」

「あははははは」

「あははー」


 マジリカが、人間族の少女を抱えて高い高いをして遊んでいたのだ。それも心の底からの笑顔で。

 少女は喜んでいて、マジリカもその気色悪い紫色の顔面をひしゃげて笑っている。


 そこまで固まっていた俺であったが、とうとう我慢できずに叫んでしまった。


「何やってんだお前えぇええええええええええええええええええ!?」


 いや、本当にもう。

 お前今まで何やってたんだ、元四天王。 

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