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23.三魔公バルバニカ

「……っく……流石に多いわね……!」


 右手に握り締めた魔力結晶を投げ捨て、新たなゴーレムを生み出す。これで使い潰した魔力結晶は八つ。単なる魔力の補給に使われる結晶だが、ここまで使ってしまったのも初めてだ。


 現在。召喚をし、使役しているゴーレムは八十二体。壊された数も含めると百は余裕で超えていて、またレティシアの力で正常に操れるゴーレムが五十までというのも長い戦闘の中で把握済みだ。つまり残りの三十と少しは自爆特攻でも仕掛けるか立ち止まっているしか脳のない壁となる。

 しかし召喚を中止することは許されない。


 ――魔王軍に限界を知られてはならないからだ。


 新たな魔力結晶を取り出し、レティシアは叫ぶ。


「神よ、大地よ、私に力を与え給え――」


 新たに生み出されるゴーレムを召喚するために。

 本が光り、召喚される前衛。壊される前衛。魔力がある限りは無限の兵が、魔王軍の相手。


 フェルナンデスは動き回りながら大威力の魔法を連発し、敵をまとめて排除している。


 このまま行けば勝てるはずだ。

 このまま行けば――。


「やっと、前に出てきたわね……!」


 三魔公、バルバニカ。破壊と蹂躙の元四天王、巨大な体躯に十本の腕。漆黒のように黒い皮膚が禍々しさを強調したその姿。人間達の足が竦む中、バルバニカは吠えた。


「どうやらそちらにもできる奴がいるらしい――我が直々に潰してやろう! この世から消え去るがいい、虫けら共!」


 その十本の手に収束するのは黒々とした光球だ。着弾地点から広範囲に渡って爆発を起こす、高火力の殲滅魔法。


「闇に帰するは万物の必然、消滅の調べを刻み、終焉をもたらせ――」


 魔族特有の詩。それと共に吐き出されるのは、闇そのもの。


「――デス・エンド」


 八十三ものゴーレムの軍勢が、消し飛んだ。地に着弾した光球は空間を浸食するかのように広がり、大地も空も、人もゴーレムも、それら全てを飲み込んで消滅させていく。

 ――去った後には何も残らない。破壊のみを目的とする、魔族トップクラスの魔法。


「一気に半数以上も……この」


 耐えたゴーレムは二十かそこら。被害は絶大で、レティシアは眉根を寄せて舌打ちをする。


 善戦していたのだ。

 魔王軍相手にやれていたのだ。


 それが。三魔公とはこれほど規格外だというのか?

 こんな奴らを相手に、どうやってチハルは立ち回っていたというのか?


「レティシアァ! 心を折るな、まだ戦える、この大将潰しちまえば全部終わりだ! 切り札はこいつだ!」


 雷を撃ち放ってフェルナンデスは突撃する。連発される雷を、バルバニカは鬱陶しそうに避けていた。


「そうね……あいつを倒せば、終わるものね……それだけだわ……こんなところで、負けられない。だって私は、生きて帰るんだから」


 フェルナンデスの叫びに身を奮い立たせた魔法使いたちは、それぞれ魔法を詠唱してバルバニカへ飛ばしていく。


 そう。そう、負けるはずないのだ。

 あのチハルの力をレティシアとフェルナンデスは受け継いでいるのだ。だから、勝てる。

 だから。


「神よ、私に力を与え給え――」


 手に握った魔力結晶がぱきりと割れた。魔力を吸われて脆くなった結晶が、割れたのだ。レティシアの握力によって。

 レティシアが唱えたのは、戦闘用に自ら開発していた肉体強化の魔法だった。極めて肉体への負荷が重く、使用したところでマトモに動けなかった強化――今なら、使える。


 そしてレティシアは、懐に残された魔力結晶を全て消費して、クレイゴーレムを再び呼び出した。


「全軍、突撃ぃぃ!」


 普通の魔法で勝てないなら、普通にやらなければいい。

 雑兵はゴーレムに任せてしまえ。後はレティシアが、この身体と拳でバルバニカを叩く。


 できるはずだ。チハルのようにはいかなくても、きっと。


「はぁぁぁぁぁ!」


 本を懐に入れ、レティシアはその身一つでバルバニカへ肉薄する。

 バルバニカは少々驚いた顔で、迫る二人と対峙した。


 再びぶつかるゴーレムの軍と魔王軍。後衛の魔法使いが控えている分、こちらの方が圧倒的に有利だ。


「貴様ら……そうか、面白い。我が直々に相手になろう」


 バルバニカは眼をぎらつかせ、口元を大きく横に開いて笑う。そこにフェルナンデスの放った雷が飛来する。


「相手は一人じゃねぇんだぜ、魔族!」

「フェルナンデス、あんたは……」


 フェルナンデスは雷を身にも纏い、それによって自らの身体能力を向上させていた。通常の強化に加えての強化魔法、それは奇しくもレティシアの考えていたことと同じやり方だ。


「っは、てめぇもかよレティシア。チハルさんに憧れたか……?」

「どうでしょうね」


 憧れじゃない。

 だが、レティシアはそれを言わなかった。ただ心の中にだけ刻んで、バルバニカへ拳を向ける。


「ここで潰してやるわ。完膚無きまでに、ね」


 何故なら、レティシアはチハルに憧れているのではなく――チハルを。


「さあ。こんな奴ぶっ倒して、さっさと帰りましょう」

「そうだな」

「言ってくれるな、虫けら共。我と他の者共を同列に扱ってくれるなよ……?」


 レティシアもフェルナンデスも笑い合い、バルバニカへ突貫する。


「それは雑魚の言う台詞じゃねぇか?」

「そんなの知ったこっちゃないわ、ここで潰すから!」


 暴虐のレティシアと雷鳴のフェルナンデス対三魔公バルバニカ、開幕。

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