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夏草之記  作者: 玖龍
第一章 椿編
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第一話

お久しぶりです。初めましての方は初めまして。玖龍です。

久しぶりに新作を投下します。更新は毎週金曜日です。

以前投稿した『咲かせ屋』に続き歴史ものですが、自爆しないように気を付けます……

ではよろしくお願いします

 時は一二二一年。


 長らく続いた清和源氏と桓武平氏の争いが平定し約四十年。

 東の果て、鎌倉の地に根を下ろした源氏が血統は三代将軍実朝の暗殺により途絶えることとなった。


 源氏の外戚として権威を振るった北条氏は混乱に陥り、これを幕府の弱体化と見た後鳥羽院をはじめとする京都の天皇家勢力は討幕・皇家権威の回復を目指し、鬨の声を挙げた。幕府軍は初代将軍頼朝公が正室、北条政子を指揮官とする十九万の兵でこれに応戦。


 約一月で乱は鎮圧された。


 首謀者の後鳥羽院は隠岐、院の皇子である順徳院は佐渡、更に計画に加担しなかったが、父弟の不徳を嘆いた土御門院は自ら土佐へと配流された。更に、二月ほど前に即位したばかりの仲恭帝は廃位、代わりに後鳥羽院の兄の子、後堀河帝が即位した。

 また北条氏は京都守護のかわりに朝廷を監視する六波羅探題を設置し、乱は一応の終息をみた。

 ―――これが承久の乱の顛末である。




○●○●○●○●○●


 「君には息子がいるのか」

 相楽義貞(さがらよしさだ)はその問いに静かに目を開けた。

 「それと私の死罪に何か関係があるのか」


 ―――死罪。


 それは幕臣でありながら、討幕に加担したことに対する罰。

 そのことは元より判っていた。


 頼朝公に忠誠を尽くしていたこと。


 無能な頼家公や享楽に耽る実朝公には愛想を尽かしていたこと。

 それ故、院が反旗を翻されると聞いたとき、進んで戦いに身を投じた。


 それが何に繋がるかは充分判っていた。が、私は少しも躊躇わなかった。


 「もし、私に息子がいるとしたら温情をかけられるのか。反逆を不問に付され、家へ返してもらえるのか」


 「そんなに死に急ぎたいか」


 目の前の男は嘆息した。

 「お前、俺とそんなに年変わらないだろ?俺にも可愛い息子がいるからな。単純にそう思っただけだ。いてもいなくても返事は同じだ」

 「院に加勢した御家人は遍く死罪だと聞いた。早く殺すが良い」

 特にこの世に未練はない。死ぬ前に出家して極楽へ往こうとする者もいるらしいが、私のような半端者はどの道そのような世界へ往けるわけがない。


 未練はない―――あの息子以外には。


 「私には一人息子がいる」

 「ほう」

 「何故か一房だけ銀髪のな」

 「……」

 今年八歳になる息子には一房の銀髪がある。綺羅綺羅と輝く、月光のような銀髪が。いろんな医者にも見せたが原因は結局判らず仕舞いだった。その異様な風貌故か、よく苛められているようだった。せめて同じ境遇の者はいないのか、と探してはみたものの誰も何も知らない様子。仕舞いには前世の悪行所以のものとまで言われた。

 「強いて言えば彼のことが心配かな」

 ふと息子の顔が浮かんだ。

 ―――あの子は私の帰りを待っているのだろうか……


 ―――すまないな、不甲斐ない父で


 男は、遠くを見つめる私を眺めていたが、やがて口を開いた。

 「名前は?見かけたら助けてやろう」

 ふっ、と口の端に笑みが零れる。

 「夏目(なつめ)、という―――跡取りに何かあったらお前を末代まで祟ってやろう」

 顔を挙げ、初めて男の顔を見る。


 ―――この男にも一房だけ銀髪があった。


 呆気に取られる私に、今度は彼が笑う番だった。

 「そうならないように気を付けるわ―――安心して往け」

 彼の金色の瞳がいたずらっぽく光った。


 その数刻後、相楽義貞は打ち首となった。

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