暴力はダメ、絶対
「しかし二人して無知では、それは二か月経ってもこの有様なのも頷けるな」
じろじろと不躾な視線をわたしに寄越すな! なんとなく両手で胸元を隠してみる。いや普通に服着てるけどなんとなく。
そんなわたしにイラっとしたのかミン様が眉間に皺を寄せた。
「兄上も兄上だな。四六時中女が横に侍っていて手を出す素振りも見せないとは。余程お前に魅力を感じないか……不能」
「おい待てや王子! さっきから聞いてりゃ言いたい放題だな!」
身を乗り出してミン様の口を手で塞いで強制的に黙らせた。
わたしに魅力がないのは一万歩譲って納得してやるにしても、ふ、ふの、不能って!
ブラコンのくせになんて想像するんだあんたは!
「そもそも、わたしは人間だし種族間の問題とかあるでしょうよ!」
良く考えてみたらユン様って虎じゃないの。虎と子作りとか出来ないっしょ。
う、うわっ、一瞬想像しちゃったじゃないやめてよ! しかも異種間の交わりは日本じゃ禁じられてたような。
わたしを犯罪者にする気か貴様っ。きっと涙目でミン様を睨む。
だが金髪の麗しの王子(笑)は眉一つ動かさず言ってのけた。
「確かに別種族での交配は不可能とされているが、お前は人間だから問題ない」
「……はい?」
「知らないのか。人間は異種族とも子を為せる唯一の個体だ。元々この世界の種ではないからか、理由までは解明されていないがな。異世界から何十年に一度やってくる稀人であり、どの種族のものも受け入れられる、獣の姿を持たぬ完全な人型。何時の時代も権力者どもに重宝されている」
はっと最後は鼻で嗤った。
まぁ要するに人間を保護したとか娶ったとか話題性は抜群で、しかも需要と供給量が全く釣り合っていないのが余計にコレクター魂に火をつけるというか、これ見よがしに手に入れたくなるのだろう。
よくテレビのお宅訪問とかで、金持ちが「世界に数個しかありません」みたいな貴重でアホみたいな値段がついてるものを幾つも家に置いているのと同じ原理だ。
しかし大金叩いてわたしを商人から買ったミン様に嘲笑する権利はないと思うんだけど。あんたも同じ事やったろうがっていう。
その思いが表情に出たらしい。
「俺達がお前を買ったのは別に話題作りの為でも見栄の為でもない。お前しかいなかったんだよ。聖獣だ始祖の再来だと生まれた時から神格化されてきた兄上に添わす女を選ぶのがどれだけ困難か分かるか? 血統は勿論本人の教養素養何から何まで調べ上げて、尚且つ政治的偏りが出ないようにしなければならない。そうやって四人をやっとの思いで選んで、一人ずつ兄上と面会させた」
へぇー。なんだ居たんじゃないかお嫁さん候補。まぁ結果がどうだったかは最初から分かってるんだけど、ちょっと面白そうな話だから大人しく聞いておく。
「結果は散々だ。……虎族は女も男も身体能力が高く大柄だ」
そうですね。連れて来られた時圧倒された。女性もみんな大きいんだ。給仕や女官の人を何人も見かけたけど、背が高いだけじゃなくて、身体つきが結構しっかりしていらっしゃる。
出るとこ出てるから女性らしくはあるんだけど、華奢とは言い難かった。
「しかも子を為す事に関しては女の方が熱心だ。いかに良い種を己に蒔くかに執心し、これと定めた男は逃がさない」
「まさに肉食女子……!」
ごくりと唾をのみ込む。壮絶な女の世界だ。修羅場がそこら中で繰り広げられてそうだな。
そして納得した。うん、無理だな。ユン様にはそんな女の人達と添い遂げるなんて無理。
「見境なく迫ってくる女に命の危険すら感じたんだろうな。兄上は逃げて自室に引きこもって散々泣いた」
乙女か! どこの純情少女だ、最近の少女マンガの主人公だってもっとガッツあるわ。見た目通りの草食男子め。あの人本当に虎ですか。でも容易にその場が頭に浮かんじゃうんだなぁ。残念な王子だ。
本来なら四人とも娶ってハーレムだって作れちゃう立場の人なのに。
まぁそんな人ならわたしは絶対に世話係なんて引き受けなかったけどな!
何人もの女侍らせてウハウハしてるような男は地獄に堕ちればいいんだ……。奴隷商人に捕まってから余計にそう思うようになった。
「頭を抱えた俺達のところにジャナルがやって来てお前の事を聞いた」
ジャナルっていうのは蜥蜴商人の名だ。あの抜け目ない商人め。
「お前に賭けるしかなかった。生贄というのはジャナルが面白がって使った言葉だがな、お前からすれば強ち間違いでもないだろう。小さくて大人しそうな外見と、その独特な雰囲気が良かったのだろうな」
「独特!?」
え、なにそれ初めて言われた! わたしは平平凡凡な女子高生だよ、別に不思議ちゃんでも電波ちゃんでも天然キャラでもない、普通の子なのに。
心外だと訴えたがミン様は適当にあしらった。
「人間のものかお前独自のものかは知らん。だがこちらの女にはない目なのは分かる」
「目?」
「物の見方が違う。虎族だけでなくこちらの女は何というか、子孫を残す事こそに生きる価値を見出す。それは間違いではないし当然だ。だが兄上は幼い頃より外界と切り離されて育って来たから性格はあの通りだし、即物的な考え方に怯えている節がある。そういった意味でお前と通じるものがあったんだろう」
要するにわたしが男にガッついてなかったのが良かった、と。
いやだってなぁ、この世界に来て周囲に居たの爬虫類ばっかだったし、確かにユン様もミン様も美形だけど、虎じゃん? みたいな。
異性として見るより先に異種として見てたからな。ユン様なんて特にペットを見るような心持ちだった。
おーよしよし今日も可愛いねぇ、ブラッシングしてあげようねぇっていう完全な飼い主気取りだった。
「だが二人してこの調子では埒が明かん。俺がお前に手ほどきしてやるから、手管を身に付けて兄上が怯えないよう考慮しつつ誑し込め」
「無茶言うなよっ!」
ぎゃー! こっち来んな! 長い脚でテーブルを跨ぐとミン様はわたしの座るソファに乗り上げてきた。
や、やる気だ、この人本気だ!
倒されて馬乗りになられ、わたしが力いっぱい暴れた所で大柄な虎族相手では全く歯が立たない。
両手を軽々と頭の上で拘束される。
給仕服の胸元のボタンもあっさりと外された。おい手慣れてるなあんた! 兄貴とはえらい違いじゃねぇの!!
「へぇ、反抗的なのもなかなかクるものがあるな」
「くるな! きちゃいけない、それは開けちゃいけない扉だ!!」
多分それはドSになる扉だ! 王子様考え直してくれー!! 国の代表になろうという方が無理やり女をなんて、そんな馬鹿みたいな事……。
「心配するな、最後まではしない。それは兄上のものだからな」
「最初っからなんもするな! お兄ちゃん大好きならお兄ちゃんのペースでやらせてやれ!」
ていうかやられんのわたしじゃねぇか! そんな日は一生来なくていいよ!
ノー! 性的暴力反対!
力任せに身体を捻って尚も抵抗中。
ちくしょう、男とか女とか地球でも異世界でも面倒くさいったらない。別にいいんだけどさ、わたしと関係ないところでやってくれ。わたしは動物と戯れるだけで心満たされるからそれでいいんだよ。
そうだ、男女の違いがあるからいけないんだ。異性に反応するものがあるからこんな事になるんだ。
よし、こいつの男の部分を使い物にならなくしてやろう。
決断したわたしの行動は早かった。