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道草

作者: 矢車 大八

 道草って,心が動くこと


 お寺のかねがゴーンと鳴って,お空はしゅ色のいわし雲。いねのほが風と遊ぶ田んぼ道。

(オヤッ)

ふたつならんだ影ぼうしが、向こうからやってきます。

「道草しちゃだめだよ」

そういって見上げる顔は,まるでお母さん。

「分かってらい。お母さんにおこられる、だろ」

ほっぺをプッとふくらませれば、ふぐちょうちんのできあがり。

「そうよ。八百屋さんでにんじんと大根を買ったら,まっすぐ帰っていらっしゃいって」

「めんどくせえ。よし、みっ子、きょうそうだ」

いきなり、おでこが地面にくっつきそうなくらいおしりを高く上げたそのかっこうは、

どう見たって米つきバッタです。

「位置について,ようい,ドン」

「待ってよう」

あわてて追いかけるかわいらしい声が,いなほの波音にとけていきます。

お山に帰るカラスのむれが、一声カーッと鳴きました。きっと二人は,

兄ちゃんといもうと。お母さんにたのまれた,夕はんの買い物に行くのでしょう。

 八百屋さんは,まっすぐのびた田んぼ道のしゅうてん。はだか電球がともり、

買い物かごをさげたお客さんが,やさいの間を行ったり来たりしています。

ねじりはちまきのおやじさんは、でっぷり太った赤ら顔。まるで海にポッカリうかんだタコみたい。

(ウフフッ)


 道草って,心が生きること


 いもうとをおいてけぼりに,両手を広げて走る兄ちゃんは,宇宙をめざすロケットか、音速をこえた

ジェット機か,それとも吹く風まかせのグライダー。

(アッ)

とつぜん,クルクルクルリン竹とんぼ。今にも田んぼに落っこちそう。

「お兄ちゃん,あぶないよう」

「平気,平気」

 今度はサッカー選手に早変わり。足下の小石をエイッとひとけりすれば、

小石は夕日にもえる波間にポッチャン。びっくりカエルがゲロって鳴きました。

「ゴール,もう一発」

「だめ、田んぼのおじさんにおこられる」

「チェ」

行き場所のなくなった足が,なにかをグチャッとふみました。

「ウーッ。くせえ」

鼻をつまんだ兄ちゃんは、半分泣きべそをかいてます。

「ついてねえ」

田んぼの横を流れる用水にくつぞこをつけて洗っても、においはかんたんにはとれません。

「まあ、いいか。うんがついたってことで、なんか良いことあるかも」

あれあれ,泣いたカラスがもう笑ってる。

「お兄ちゃん,どうしたの」

いもうとがやっと追いついた時には,もうウンチのことなんかすっかりわすれています。

「みっ子,見てろよ」

「いそごうよ,暗くなっちゃう」

「ちょっとだから」

兄ちゃんの心は,あっちに行ったりこっちに行ったり。ブレーキのこわれた機関車みたいに止まりません。

「ウルトラマンタロウ、シュワッチ」

いきなりジャンプした兄ちゃんが,あぜ道に飛びおりました。

「どうしたの」

いねの林に頭をつっこんで、なにやらゴソゴソやってます。つきだしたおしりが、

へんてこ「の」の字を書いてます。

「やったあ」

じまんげに高くあげたその手には,どろにまじっていっぴきのちっちゃなアマガエル。

「しょんべんガエル,みっ子に見っけ」

「もう,お兄ちゃんたら」

これじゃあ、いつになっても八百屋さんにつけません。

「行こ」

「分かったよ」

みじかい影が長い影を引っぱって,夕ぐれ田んぼ道を走ります。

「前方五十メートル,やさいの海にタコはっけん」

「お兄ちゃん,聞こえたら大変だよ」

「お母さんに何たのまれたっけ」

「エッと,エッと、にんじんにい・・・、きゅうり!」

「アッ、お腹の虫がグーッて言った。早く帰ろう」

夕焼け小道にふたつのなかよし影ぼうし。子どもの小さな道草は,

希望の明日への道しるべです。

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