九枚め
「……まぁ、いいですよ。別に。俺は知ってましたし?エリィ様が男だ〜とか」
エリックはあまりに清々しいジークに心の底から笑みを浮かべた。
「ふーん。ありがとね、ジーク。君がそこまで物わかりがいいとは……」
「……良くないですけど。しょーがないでしょうが。リディは貴方のことが何故か好きなんだし。いーですよ別に」
「…卑屈になるなよ?」
「なってませんよ。ほら、呼んでますよ〜早く行ったらどうです」
「うん。あ、ジーク」
あ゛?とでも言いたげな顔でエリックを見たジークに、エリックは頬に口付けた。
「っ…!!!なにっ!」
「ふふん。あんまりにもいじらしいから。ご褒美♪」
「………はい。ほら早く行ってあげて下さい」
冷静な自分に感心しながらジークは追い払うように手を振った。
「うん♪」
少しして、リディエンヌの嬉しそうな声が聞こえてきた。
ジークはエリックに口付けられた頬を綺麗にぬぐいながら微笑んだ。
(リディが幸せなら…いいか)
エリック様が思わず、自分なんかに幸せを分けてあげたくなるほど、幸福なんだろう。
実際、俺の幸せはエリック様にキスされることではないけれど。
でも。……俺ももう、リディに負けないくらい大切な人を、見付けたから。
♪♪★
(も〜。どこよ?)
リディエンヌは屋敷の中を歩き回っていた。
(まったく…。いつもはうざったいぐらいくっついてくるくせに…ってなに思ってるの私!外出に遅れるから、だから探し回ってるだけだって言うのに!)
はぁ、とため息をつきながら、自然に口元が緩むのを感じる。
探すのは、嫌いじゃない。
だって絶対、エリックが私を見付けてくれる。
私が探してるはずなのに、いっつも、見つけた♪って微笑んでくれる。
……あの宴の後、何も無かったわけではない。
お互いが心配で、何度も涙を溢した時もあった。
けれど、こっそり父親であるアルフォンス王に会えたときの嬉しさや、エリックとシルフィへ母親のお墓参りに行けた時の幸福は……言葉では言い表せない。
リディエンヌはふと歩を止めた。
呼んでみようかな。
今日も、来てくれるかな。
リディエンヌは微笑んで、息を吸った。
これで、完結とさせて頂きます。
10まいめは、皆様のご想像にお任せして……。
花戸の初西洋ファンタジー。
読んで頂いて、本当にありがとうございました。
花戸紗世