四枚め
草木も眠る丑三つ時…を少し過ぎた頃。
リディエンヌとエリィは大理石に絨毯が敷き詰められた廊下を歩いていた。
リディエンヌは中身を知らされていない木箱を内心ひやひやしながら運んでいた。
「エリィ様…コレはなんですか。というかその前に本当にこんなコトするんですか…」
「大丈夫だって。いいからリディは言われた通りにしてよね?」
どこかウキウキとした様子のエリィの腕にも例の簡素な木箱。
そうしているうちに、エリィが目的の寝室の前で歩みを止めた。
リディエンヌは主人に間一髪のところで激突するのを免れた。
「じゃ、まずここだね。よいしょっと」
木箱を床に置いたエリィはリディエンヌの持っていた木箱を受け取り、ゆっくりとその部屋のドアをリディエンヌに開けさせた。
香水のような甘い香りが充満しているその部屋の入口でエリィは木箱の中身を半分ほど出した。
リディエンヌは思わず叫びそうになった口を慌ててふさぐ。
そのうねうねした‘中身’は、しばらく落ち着く場所を探していたようだが、部屋の客人が眠るベットにスルリと入っていった。
「…………エリィ様」
音をたてないようにドアを閉めたリディエンヌは満足そうな主人にため息を付いた。
お構い無しにエリィは中身が半分になった木箱を抱えあげる。
「さ、次いくよ♪あと三人もいるからね」
しっかり防音してある部屋では、ギャー!という客人の叫び声は、幸か不幸か、その晩だれにも聞こえなかった…………。
★★★★★★★★★★
「…………ジーク」
リディエンヌは数分前からお腹を抱えて動かない幼なじみを見て頬杖を付いた。
「笑い事じゃないわよ?」
「くっ…ごめん。いや、流石だ、エリィ様。効果抜群だったし」
「…まぁ、蛇がベットに潜り込んでて、慌てて飛び起きたけど充満した香水のせいで死ぬほどの頭痛。どうみても最高の嫌がらせだわ。おかげでエリィ様の婚約者候補全員すぐお家に帰ったわよ」はぁーとテーブルに突っ伏すリディエンヌにジークは首を傾げた。
「あれ。帰ったのはリディ的にも良かったんだろ?」
「良かったけどー…」
これからアウローラ夫人にどんなお説教を聞かされるのかと思うと素直に喜べない。
「いつか本当に死人が出ますよ奥様…」
それに、あの後エリィの姿が見えないのも気になる。そういえばアウローラ夫人のお呼びがかかるのも遅すぎる。
眉間にしわを寄せて身体を起こしたリディエンヌにジークがあ、と言った。
「…なに」
「リディ!!♪」
頭に体重を乗せられたリディエンヌはガンッとテーブルに鼻を打った。
「…エリィさま……」
「あ、大変。リディの低い鼻がもっと低くなっちゃうね」
すいませんね低くて!
むすっとするリディエンヌの頬をエリィがにょーんと引っ張った。
「ほら、今から王太子に会うんだよ♪」
「…は?…殿下?」