二枚め
タイトルのmargueriteは、花のマーガレットという意味です。
白くて可愛らしい、ウェディングブーケにもよく使われるお花です。
花言葉は真実の愛など。
この花の花びらで花占いをするため、恋を占う、という花言葉もあるそうです。
今朝も、私は雷を落とした。
私は主人の朝食が終わるまで刺繍でもしておこうと自室にいたのだが、メイドが私になんとかしてくれと泣きついて来たのだ。
案の定、なぜか興奮した様子の屈強な男たちに囲まれて食事をとっている主人を見つけ、私は男たちを押しわけ主人のもとに向かった。
「エリィ様!!!なんど言ったらわかるんですかテーブルに肘を突かないで下さいスープで遊ばないで下さいー!!!」
私は急いで主人の肘を直し、その白い右手からナイフを奪った。
男たちからああーと残念そうな声がもれる。
エリィは、ジトッとした目で私を睨んだ。
「……貴女、自分の主人になにしたかわかる?リディ」
私はしらっと答えた。
「礼儀作法をお教えしただけですわ、御年16になられるエリィ様?」
「…あと、一皿だったのに……」
そう言うとはらはらと水晶のような涙をこぼす。
画家でも呼べば喜んで絵を描くだろうなという麗しの光景。
ギリッとドレスを握りしめたエリィはウワーンと叫んだ。
「あと一枚で記録更新だったのにー!!リディの馬鹿ー!!!」
幼児のように泣き叫ぶエリィに流石の私も少し慌てた。
「あ。リディエンヌが嬢ちゃん泣かせちまった」
「ま、いつもの事だけどなぁ」
「…うっうるさいですね!いいから皆さんも朝ごはん食べにいって下さい!」
ヘーイと返事をしてわらわらと男たちが部屋を出たあと、まだぐすぐす泣くエリィを見て、リディエンヌは近くの椅子に腰かけた。
「で?なんの記録だったんですか」
比較的穏やかなリディエンヌの声色に、エリィはパアッと顔を輝かした。
「あっ、あのね、今までは30枚が限界だったんだって!」
「…なにが?」
「三十分間で、どれだけナイフでスープ飲めるか!いやーやっぱり難しかったけど何回も練習したかいがあった…」
揚々と語るエリィの声は、リディエンヌを取り巻く真冬のような空気で遮断された。
「練習、したんですか?そんな意味不明なコト…」
リディエンヌは同い年の主人に容赦無かった。
「今日のオヤツは無しです!エリィ様が料理長にこっそり頼んだりしないように、料理長にもきつく言っておきます。スープを無駄にするなってね!」
エリィの悲痛な叫びを背中に聞きながら、リディエンヌは迷わず厨房へ向かった。