できる子になりたかった
麻理恵は海斗の自宅に向かっていた。
海斗は東京都に住んでいる。大学で落第してから、いろんな会社を転々としてきたが、なかなか仕事が板につかなくて、悩んでいた。本当に自分はできる子なんだろうか? そう思う毎日だったという。高校の頃はできる子だった。将来を有望視されていた。だが、高校を卒業後に上京をして、これからもっと頑張ろうとしていた。だが、大学ではうまくいかず、落第した。そして、就職浪人になってしまった。
何とか就職はできたものの、どの会社でも板につかなかった。そして、社員から怒られる毎日だったという。その度に退社と入社を繰り返した。もう10回を越えている。本当に自分は仕事が板につくんだろうか? とても不安になっていた。それを麻理恵にも話していた。だが、麻理恵は励ますだけだった。だが、心の中では、本当はどんな会社でも頑張れないんだろうと思っていた。それを海斗は何度も話した。だが、その度に麻理恵は励ました。だが、徐々に明るさが失われていった。そしてある日、自宅に戻ってから、全く出てこなくなったという。会社の人々は不安に思っていた。ひょっとして、自殺したんじゃないかな? 海斗は会社でかなり罵声を浴びせられて、怒られていた。それでかなり精神的にダメージを受けているようだった。もっと頑張ってほしいと思っての愛のムチだったが、それが悪い方向に向いてしまった。
麻理恵は海斗の住んでいるアパートの前にやって来た。そこには大家がいる。大家も不安になっていた。海斗はどうしたんだろうか? 全く家から出てこない。全く姿を見せていない。何かあったのでは? 家出したのではと思っていた。
「全く音沙汰がないんですか?」
「はい・・・」
2人は海斗の部屋の前にやって来た。部屋の入口にあるポストには、新聞紙が刺さっている。もう何日も刺さったままのようだ。同じアパートの住人も不安になっていた。ひょっとして、家出したんじゃないかなと思っていた。
大家はマスターキーを出した。
「入れた!」
麻理恵は大家からもらったマスターキーを使って、中に入った。中は悪臭が漂っている。死体の匂いだ。2人は一気に不安になった。ひょっとして、死んだのでは? 自殺したのでは?
2人は辺りを見渡した。部屋の中は暗い。そして、怖い。2人は震えていた。
と、大家はあるものを見つけた。それは首をつっている海斗だ。海斗は首つり自殺をしていた。
「えっ、死んでる・・・」
麻理恵は絶句した。まさか自殺したとは。きっと、どんな仕事も板につかなくて、罵声を浴びせられるばかりだったから、精神的に来ていたんだろうな。麻理恵は海斗の気持ちがわかった。できる子になりたかったんだろうな。だけど、まさか死ぬとは。
「まさか、死ぬなんて・・・」
「なかなか仕事が板につかなかったらしいね」
大家も海斗の気持ちがわかった。海斗はいつも肩を落としていた。大家にはその理由がわかっていた。近隣住民から聞いた。海斗は何をやっても失敗ばかりで、怒られてばかりだった。どんな仕事でも板につかずに、クビや退社ばかりだった。
「そうなんだ・・・」
「すごくつらかったんだな・・・」
だが、麻理恵は口々に言っていた。きっと、拾う神が現れるから、頑張りなさい。それを言う事しかできなかった。もっと励ましていれば、自殺を防ぐ事ができたんじゃないかな? そして、仕事が板につけるんじゃないかなと思った。
「その気持ち、わかるけど、拾う神が現れる、だから頑張りなさいと言ってたのに・・・」
「どうして死んじゃったんだろう・・・」
大家は泣いていた。もう海斗には会えないんだと思うと、涙がこぼれてくる。
「無念で無念でしょうがない・・・」
と、麻理恵は海斗が生前に行っていた事を思い出した。生まれ変わったらできる子になりたい、という言葉だ。その度に麻理恵は自殺するなと言ってきた。そして、何度も自殺しそうになったのを救ってきた。だが、今回は防ぐ事ができなかった。ひょっとして、海斗はできる子に転生するために自殺したんじゃないかと思った。だけど、もっと生きてほしかった。そして、仕事が板について、できる子になってほしかった。だけど、こうなってしまった。あまりにも無念すぎる。
「どうか、生まれ変わったらできる子になってほしいね」
「うん」
大家もその気持ちは一緒だ。
2人は部屋から出てきた。そして、空を見上げた。今頃、海斗は天国で2人を見ているんだろうか? 自殺して申し訳ないと思っているんだろうか? そして、できる子に転生したいと思っているんだろうか?




