番外編3「はじめての猫カフェデート、そして…」
「……本当に、ここでいいのか?」
「はい! もちろんです!」
休日の昼下がり。私と誠さんは、あの思い出の猫カフェの前に立っていた。恋人として、初めて訪れる、二人きりの猫カフェ。私の提案に、彼は、少し照れくさそうにしながらも、頷いてくれた。
ドアを開けると、たくさんの猫たちがお出迎えしてくれる。その瞬間、隣に立つ誠さんのスイッチが、カチリ、と切り替わるのが分かった。会社で見せる「鬼部長」の仮面は、あっという間に剥がれ落ち、完全に「猫好きのお兄さん」の顔になっている。
「いらっしゃいま……あ」
店員の女性が、誠さんの顔を見て、少し驚いたように声を上げた。常連さんなのだろう。
「……どうも」
誠さんは、少し気まずそうに会釈すると、そそくさと店内に入っていく。その背中から聞こえてくる心の声は、もうすでに、期待でいっぱいだ。
(にゃーん! やって来ましたにゃ! 俺の楽園! しかも、今日は莉奈と一緒だにゃ! 最高すぎるにゃ!)
私たちは、ドリンクを注文し、ソファ席に腰を下ろした。すぐに、人懐っこい猫たちが、私たちの周りに集まってくる。
「誠さん、すごい。猫に好かれるんですね」
「……別に、普通だ」
そう言いながらも、彼の顔は、だらしなく緩みきっている。猫じゃらしを手に取れば、もう無敵だ。巧みな手さばきで猫たちの興味を引き、その姿は、まるで猫使いのよう。私は、そんな彼の姿を、ただ微笑ましく眺めていた。
たくさんの猫に囲まれながら、私たちは、穏やかな時間を過ごした。仕事の話は、一切しない。ただ、目の前の愛らしい生き物たちを、一緒に愛でる。それが、何よりも幸せだった。
ふと、誠さんが、膝の上で眠る子猫の頭を優しく撫でながら、ぽつり、とつぶやいた。
「……いつか、お前と、こんな風に……」
彼の言葉に、私は、どきりとする。
「……猫を飼って、穏やかに、暮らしたい」
それは、プロポーズ、なのだろうか。事実上の、未来の約束?
彼の横顔を見つめると、その瞳は、真っ直ぐに、膝の上の子猫を見つめている。でも、その言葉が、私に向けられたものであることは、痛いほど分かった。
そして、彼の心の中から、温かくて、優しい音が、静かに響いてきた。
(……にゃー……ずっと、一緒だにゃ……りなと、家族に、なりたいにゃ……)
それは、今まで聞いた、どの心の声よりも、穏やかで、決意に満ちていた。
私の胸に、温かいものが、じんわりと広がっていく。涙が、滲みそうになるのを、ぐっと堪えた。
私は、彼の隣に、そっと寄り添った。
「……はい」
彼の目を見つめて、私は、最高の笑顔で、頷いた。
「はい、部長……いえ、誠さん」
初めて呼んだ、下の名前。
彼の肩が、ぴくりと揺れる。そして、ゆっくりと私の方を向いた彼の顔は、驚きと、照れと、そして、どうしようもないほどの喜びに、赤く染まっていた。
私たちの未来が、はっきりと見えた気がした。
この優しい人と、愛しい猫たちに囲まれて、温かい家庭を築いていくのだ。
猫カフェの窓から差し込む午後の光が、私たち二人を、優しく、祝福するように、キラキラと照らしていた。私たちの物語は、まだ始まったばかり。これから先、たくさんの「ごろごろ」で満たされた、幸せな毎日が待っている。そう、確信できる、甘い、甘い、昼下がりだった。




