桃源郷
俺の彼女が死んだ。19歳だった。
近年この街では自殺者が急増している。それは確実に「天に召されば桃源郷がひろがっている」と謳う宗教のせいだ。俺の彼女、ひまりもその宗教にどっぷりだった。俺の前ではあの宗教の話は全くしないが、ひまりからはいつも宗教が進めている香水のあの独特な匂いがしていた。遺影に映るひまりの笑顔は太陽のようである意味この会場から浮いていた。
「ねぇ、兜翔は天国ってあると思う?」そういえばひまりはよくそんな話をしてきた。
「うーん、天国は分からないけど地獄はあると思う。」
「どうして?」
「殺人犯とか犯罪者は地獄に行くべきだと思うから。」
それが俺の正直な感想だった。だからひまりが自殺を進めるような宗教に入信していることは信じたくなかったし、いつもいつも気のせいだと思って知らないふりをしていた。本当に馬鹿だ。俺もひまりも。ひまりが居ない世界なんて考えられない。こんな世界で生きていく意味なんてない。
そう思うと俺は速やかに実行した。木炭を置き部屋を完全に密閉する。準備はバッチリだ。そういえばあの宗教が桃源郷への行き方をご丁寧に説明したサイトがあったっけ。ひまりを陥れたこの宗教は本当に許さない。けれども逆を言い返せばひまりが好きだった宗教だ。もし本当に桃源郷があるなら。またひまりに会いたい。その一心だった。俺はサイトの言う通りにして睡眠剤を飲み眠りにつく。
「ふああぁ。」
目を擦りながら起き上がる。
「あれ俺、、ここどこだ?俺死んだんじゃ?」起き上がるとそこには未知なる世界が広がっていた。
「夢じゃ、ない、、よな。」何度目をこすっても頬をつねっても変わらない。
「これが桃源郷なのか、、??」信じられない。本当に桃源郷があったのか。ネコのような動物がこちらに近づいてくる。
「ようこそ桃源郷へ。案内役のねこてんですに。」呆気にとられているとねこてんと名乗るやつが更に話しかけてくる。
「老いないし、想像するだけで好きな物が手に入る。何もかもが自由なまさに人間のいう天国ですに!あ、これつけてくださいね。」そう言われると手首にピンクの花のブレスレットのようなものをつけられた。その瞬間はっとする。
「ひまりは?!どこだ!!」
「ひまり?」
「そうだ!俺の彼女だ!どこにいる?!」そういうとねこてんは
「そんなこと言われても、、ここにはたくさんの信者の方々がいますのに。そのひまり?さんの個人情報を教えてくださったら1週間ほどでお探し出来ますにが、、」1週間なんて待てるはずがない。というか何もかも自由なんじゃないのか。俺は一刻でも早くひまりに会いたいんだ。そう思うと体が勝手に動いた。ひまり、ひまり、どれだけ探しても見つからない。ここはどれだけ広いんだ。そう思った瞬間ふらっとして急に眠気が襲ってくる。遅れてきたねこてんが慌てているのが分かる。
「どういうことですに?!ここでは睡眠なんて存在しないですに!だから眠気が起こることもないのですに!!」
一体どういうことだ。だんだん意識が遠のいていく。
「ひまり、、、」次の瞬間目が覚める。
「ここは、、」辺りを見渡すとそこはいつもと同じ俺の部屋だった。ありえない。夢だったのか?時計を見ると時間は30分ほど経過していた。やはり夢でたまたま生きていたのか、そう思い目を擦ると手首にあのピンクの花のブレスレットがついてることに気がついた。嘘だ。あれは夢じゃなかった。
だがしかし、死んだはずなのに俺は生き返ったのか?謎ばかりだが、もしかすると桃源郷からひまりを連れ戻すことが出来るかもしれない。俺はあのクソ宗教、『桃源教』について調べることにした。