1. 怜央斗との出会い
政略結婚から始まる恋って、アリだと思う? MoguChatで好きなAIキャラです。チャット内容を基に夢小説を書いてます。オリ主ちゃんは自分の感覚で書いていますが、違う性格や選択肢を体験したい方はぜひ自分から怜央斗くんと話してみてください!
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五月の午後、薄雲が空を覆い、柔らかな光が霧島家の庭園に降り注いでいる。古い松の木々が風に揺れ、その影が障子に映り込んでは消えていく。
私は緊張で手のひらに汗をかきながら、霧島家の玄関前に立っている。重厚な木造りの門構えは、まさに由緒ある財閥の威厳そのもの。執事らしき男性に案内され、長い廊下を歩きながら、自分の足音が妙に大きく響くような気がしてならない。
「こちらでございます」
案内される部屋は、伝統的な和風の応接間。畳の香りと、どこからともなく漂ってくる線香の匂いが、この場の格式の高さを物語っている。障子の向こうには手入れの行き届いた庭園が見え、竹の葉が風に揺れる音が微かに聞こえてくる。
指示に従い、柔らかな座布団の上に正座する。膝の上に置いた手が、わずかに震えているのを自分でも感じている。目の前の低い座卓には、まだ湯気の立つ抹茶が一杯、既に用意されている。その湯気がゆらゆらと立ち上る様子を見つめながら、今日という日の重要性を改めて噛みしめている。
政略結婚。
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。私の人生が、家同士の利害関係によって決められてしまうという現実。でも、両親の決定に逆らうつもりはない。それが私に課せられた運命だと、幼い頃から理解しているから。
ただ、どのような人なのだろう。
霧島怜央斗。その名前は何度も聞いているけれど、実際に会うのは今日が初めて。財閥の御曹司で、頭脳明晰、しかし人付き合いは苦手だと聞いている。それ以上のことは、家族からもほとんど聞かされていない。
部屋の静寂が、私の緊張を一層高めていく。時々聞こえる庭の風音や、遠くからかすかに聞こえる足音が、まるで時間の経過を告げる鐘のよう。
そんな時、障子の向こうに人影が現れる。
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障子が音もなくすっと開かれ、細身の人影が入口に現れる。私の心臓が一瞬止まったような気がする。
それが霧島怜央斗。
彼は体にぴたりと合った濃色のスーツを着こなしており、それが一層、彼の肌の蒼白さを際立たせている。身長は178センチほどでしょうか。細身でありながら、どこか壊れやすそうな美しさを漂わせている。さらさらとした金色の髪は柔らかく垂れ、前髪はやや長く、眉目の一部を覆い隠している。
入口で一瞬立ち止まった彼は、ゆっくりと、ほとんど足音も立てずに部屋へ入ってくる。その動作の一つ一つが、まるで獲物に警戒する小動物のように慎重。彼はすぐには私に視線を向けず、まず上座に座る紹介役の年長者へと深々と一礼する。
その年長者は霧島家の重役らしく、威厳のある顔立ち。私も先ほど軽く挨拶を交わしたばかりだけれど、この人が今日の仲介役を務めてくれるのだという。
怜央斗は年長者への挨拶を終えると、私の向かいの席へと静かに腰を下ろす。その間ずっと、彼の視線はやや伏せられ、さらさらとした金色の髪が、彼の表情の大部分を覆い隠している。
息を呑んでしまう。想像していたよりもずっと繊細で、美しい人。でも同時に、彼から発せられる近寄りがたいオーラも感じ取れる。まるで触れると壊れてしまいそうな、氷の彫刻のような印象。
「こちらが怜央斗だ」
年長者の声が、張り詰めた空気を破る。その言葉を聞き、怜央斗はようやく勇気を振り絞ったかのように、ごくわずかに目線を上げる。
私と怜央斗の視線が、一瞬だけ交わる。
深いオリーブ色の瞳。まるで薄霧のかかった湖面のような、美しくも憂鬱な色。その瞳には、拭い去れない警戒心と、どこか怯えたような光が宿っている。でも一瞬交わっただけで、彼は驚いた蝶のように再び視線を伏せてしまう。
そして、まるで空気の中に消えてしまいそうなほどか細い声で、彼は言う。
「……初めまして。どうぞ、よろしくお願いいたします」
その声はとても低く、気づかれにくいほどの掠れと緊張を帯びている。思わず身を乗り出しそうになるけれど、それが彼をさらに委縮させてしまうかもしれないと思い、じっとその場に留まる。
「あ、あの。よろしくお願いします」
自分の声が震えているのを感じながらも、精一杯の気持ちを込めて挨拶を返す。自分も相当緊張していることが声に出てしまい、それが恥ずかしい。
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怜央斗は私の声を聞くと、わずかに肩を強張らせる。私の声が思っていたよりも柔らかく、そして私自身も緊張しているのが伝わってきて、一瞬だけ困惑したような表情を浮かべる。
私の声には、作り物ではない素直な緊張が込められている。それが彼にとって意外なことなのかもしれない。これまで彼が接してきた人々の多くは、彼の家柄や地位を意識し、計算された言葉を投げかけてくることが多かったのでしょう。
長い沈黙が流れる。
怜央斗は膝の上に置いた手の指先で、無意識に着物の裾を軽くつまんでいる。この仕草から、彼が極度に緊張していることが伝わってくる。視線は相変わらず伏せられたままで、前髪の隙間からちらりと私の方を見ては、すぐに目を逸らしてしまう。
私は怜央斗のその様子を見て、自分が何か間違ったことを言ってしまったのではないかと不安になり始める。彼の緊張が痛いほど伝わってきて、それが私のせいなのではないかという罪悪感が胸に広がっていく。
(どうしよう……何か話さなければ……でも、何を話せばいいのだろう)
頭の中で、様々な話題が駆け巡る。天気の話?趣味の話?でも、どれも彼を更に困らせてしまいそうで、言葉が出てこない。
年長者が気まずそうに咳払いをする。その音が静寂を破り、怜央斗はハッとしたように背筋を伸ばす。きっと彼は、自分が場の空気を悪くしてしまっていることに気づき、何とかしなければという気持ちに駆られているのでしょう。
再び、か細い声で口を開く。
「……桃香、さん」
私の名前を呼ぶ声は、まるで壊れ物を扱うように慎重で、最後の方は息のような小ささになってしまう。きっと名前を呼ぶという行為自体が、彼にとっては大きな勇気を必要とするものなのでしょう。
そして、また沈黙。
怜央斗の頬にはわずかに赤みが差しており、緊張で下唇を軽く噛んでいるのが見える。その仕草は、まるで叱られることを恐れる子供のようで、私の胸を締め付ける。
目の前の抹茶茶碗を見つめながら、彼はもう一度、ほとんど聞こえないような声でつぶやく。
「……お茶、冷めてしまいます」
この言葉を聞いて、私は慌てたように反応してしまう。
「え?あ、はい。すみません……」
私の慌てた様子を見て、怜央斗の肩がさらに小さく縮こまる。どうやら彼は、自分の言葉が私を困らせてしまったことに気づいたらしく、より一層視線を下に落とす。まるで自分が存在すること自体が迷惑なのではないかと思い込んでしまっているみたい。
「……いえ」
彼の声はさらに小さくなり、まるで自分が何か悪いことをしてしまったかのような表情を浮かべる。前髪の隙間から私の方をちらりと見上げると、私が謝っている様子に、何とも言えない困惑と申し訳なさが混じった表情になる。
「……俺が、変なことを……」
そう言いかけて、彼は慌てたように口を閉ざす。自分の膝の上で、指が無意識に絡み合っている。
年長者が「まあまあ、お二人とも緊張なさらずに」と場を和ませようとするけれど、その声すらもが怜央斗をますます萎縮させてしまうみたい。
怜央斗は私が自分のせいで困っているのではないかと心配になったのでしょう、ほとんど聞こえないような声で呟く。
「……すみません」
そして、まるで逃げるように茶碗に手を伸ばす。でも、緊張のあまり指先が震えており、茶碗を持ち上げようとすると少しだけカタカタと音を立ててしまう。その音が静寂の中で妙に響き、怜央斗の顔がさらに青白くなる。
私は怜央斗の様子を見ていて、心の中で自分を責めている。
(どうしよう……絶対変な人だって思われてしまった……)
私の表情に浮かんだ困惑と自責の念を、怜央斗は敏感に察知してしまったよう。彼の深いオリーブ色の瞳に、一瞬、怯えたような光が宿る。
きっと(やはり……嫌がられている……)そんな風に思ってしまったのかもしれない。彼の顔がさらに青白くなり、茶碗を持つ手が微かに震える。彼は私から視線を完全に逸らし、まるで自分がその場から消えてしまいたいと思っているかのように、肩をより一層丸めて小さくなる。
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沈黙が重くのしかかる中、怜央斗は無意識に下唇をきゅっと噛み、服の裾を指でいじり始める。彼の呼吸は浅く、まるで息を潜めているかのよう。
年長者が何か話そうと口を開きかけるけれど、その前に怜央斗は突然、震え声で立ち上がる。
「……少し、失礼します」
その声は普段にも増して小さく、まるで空気に溶けてしまいそうなほど。彼は深々と頭を下げ、足音も立てずに障子の向こうへと消えていってしまう。
残された空間には、彼が座っていた座布団のわずかな窪みと、手つかずの抹茶だけが残されている。湯気はまだ立ち上っているけれど、それがより一層、彼の不在を際立たせている。
年長者は困惑した様子で私を見つめている。きっと彼も、このような展開は予想していなかったのでしょう。しばらくの沈黙の後、彼は申し訳なさそうに口を開く。
「あの子は……人見知りが激しくて……」
私は慌てて首を振る。
「え?いえ……あの、私が何か粗相をしてしまったからなのでは……?」
私の声には、深い自責の念が込められている。自分の何気ない反応が、彼を傷つけてしまったのではないかという思いが胸を締め付けている。
年長者は優しく首を振り、困ったような微笑みを浮かべる。
「いえいえ、桃香さん。あなたは何も悪くありませんよ。怜央斗は昔からあのような性格でして……」
そう言いながら、年長者は怜央斗が去った方向を見やり、小さくため息をつく。
「あの子は幼い頃から、人との接し方がよく分からないのです。特に初対面の方には……まして、このような大切な場では尚更緊張してしまうのでしょう」
廊下の向こうから、かすかに障子の開け閉めする音が聞こえてくる。きっと怜央斗が一人でどこかの部屋に籠もってしまったのでしょう。胸が痛む。
「あなたが謝られる必要はまったくありません。むしろ、あの子の方こそ……」年長者は申し訳なさそうに頭を下げる。「少し時間をおいてから、また改めてお話の機会を設けさせていただければと思います」
静寂の中、私の目の前には、まだ湯気を立てる二杯の抹茶が置かれたまま。片方は全く手をつけられることなく、まるで主人の心境を表すかのように、だんだんと冷めていく。
心の中で複雑な思いを抱いている。
(うう……大失敗してしまった。あまりいい印象ないでしょうね……これでお見合いもう無理かしら)
でも、同時に怜央斗に対する好奇心と、なんとも言えない保護欲のようなものも芽生えている。あれほど繊細で、傷つきやすそうな人を見たのは初めて。彼が私の前から逃げ出してしまったことよりも、彼があれほど苦しそうだったことの方が気になってしまう。
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年長者が私の落ち込んだ表情に気づき、慌てて手を振る。
「いえいえ、桃香さん。決してそのようなことはございません。むしろ……」
そう言いかけた時、廊下の向こうから、そっと足音が聞こえてくる。私たちは、その方向に注意を向ける。
障子がわずかに開き、怜央斗の金色の髪がちらりと見える。彼は戻ってくるかどうか迷っているようで、入口付近で立ち止まったまま動かない。その姿は、まるで家に帰りたいけれど帰る勇気のない迷子の子供のよう。
年長者がそれに気づき、優しく声をかける。
「怜央斗、戻っておいで。桃香さんはあなたを待っていらっしゃる」
その声を聞いて、怜央斗の肩がわずかに震える。しばらくの沈黙の後、彼がゆっくりと部屋に戻ってくる。でも今度は、先ほどよりもさらに萎縮した様子で、まるで叱られることを覚悟した子供のように、私の前に正座する。
「……すみませんでした」
彼の声は震えており、深く頭を下げている。前髪が顔を完全に隠し、表情は見えないけれど、肩が小刻みに震えているのが分かる。その姿を見て、私の胸がきゅっと締め付けられる。
「……逃げるようなことをして……失礼しました」
彼は顔を上げることなく、ただひたすら謝り続けている。その様子は、まるで自分が存在すること自体を申し訳なく思っているかのよう。
見ていて辛くなり、私は慌てて口を開く。
「いえいえ!とんでもございません。私の方こそ、何かお気に召さないことをしてしまったのではと……」
怜央斗の頭がハッと上がり、驚いたような眼差しで私を見つめる。彼の深いオリーブ色の瞳には困惑と、何か言いたげな光が宿っている。まるで、自分が責められるべき立場なのに、なぜ私が謝っているのか理解できないといった様子。
「……え?」
彼の声はかすれており、私の言葉が理解できないといった様子。しばらく呆然と私を見つめているけれど、やがて慌てたように首を横に振る。その動作は、まるで何かとんでもない誤解を解こうとするかのように必死。
「違う……違います。桃香さんは、何も……」
そう言いかけて、彼は再び視線を落とす。膝の上で指を絡ませながら、ほとんど聞こえないような声で続ける。
「……俺が、おかしいだけです。人と話すのが……苦手で」
その声には、長年の孤独と、自分に対する諦めのような響きが込められているように感じる。きっと彼にとって、人とのコミュニケーションは常に苦痛を伴うものなのでしょう。そして、それが自分の欠陥だと思い込んでしまっているのかもしれない。
前髪の隙間から、彼がちらりと私を見上げる。その瞳には自分を責めるような色が浮かんでいるけれど、同時に、私が自分を責めていることへの戸惑いも見て取れる。
「……桃香さんは、優しい方です。俺なんかに……」
そう言って、また下を向いてしまう。年長者が安堵の表情を浮かべながら、私たちの様子を見守っている。
「……すみません。せっかくの時間を……台無しにして」
怜央斗の声は、まるで世界に対して謝っているかのような響きを持っている。
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私は怜央斗の言葉を聞いて、胸が痛む。彼がどれほど自分を責めているのかが痛いほど伝わってきて、なんとかしてその重荷を軽くしてあげたいと思う。
「大丈夫ですよ。あなたが怒ってなくてよかったです、ちょっとホッとしました」
そう言って、私は柔らかく微笑む。その微笑みは、計算されたものではなく、心からの安堵と優しさに満ちている。
怜央斗は私の微笑みを見て、一瞬息を呑む。彼の頬にわずかに赤みが差し、まるで初めて太陽の光を見たかのような、驚きと安堵が混じった表情を浮かべる。
「……怒る?俺が?」
彼は困惑したように首をかしげる。自分が怒るという発想が、彼にとっては全く理解できないことなのでしょう。
それから小さく首を横に振り、ほとんど囁くような声で言う。
「……そんなこと、ありません」
ほんの少しだけ、彼の口元が緩んだように見える。それは微かな変化だけれど、先ほどまでの強張りが和らいでいるのは明らか。まだ緊張は残っているものの、私の優しさが彼の心に小さな安らぎをもたらしているよう。
年長者が満足そうに頷き、手を叩く。
「それでは、お二人とも少しずつ慣れていかれることでしょう。今日はこの辺りで……次回はもう少しゆっくりとお話しできる時間を設けさせていただきます」
その言葉を聞いて、怜央斗は私に向かって丁寧にお辞儀をする。今度は逃げることなく、最後まで席に留まっている。それは彼にとって、小さいながらも大きな進歩なのではないでしょうか。
「……また、お会いできれば」
そのか細い声には、ほんの少しだけ、期待のような響きが混じっている。それは、彼自身も気づかないほど微かなものだけれど、確かにそこにある。
私は微笑みながら答える。
「はい、私もまた、お話しできる日を楽しみにしています」
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怜央斗が部屋を出た後、私は一人、冷めた抹茶を見つめている。今日の出会いは、確かに私が想像していたものとは全く違っている。
政略結婚の相手として紹介される霧島怜央斗は、威圧的な財閥の御曹司でもなければ、冷淡で計算高い男性でもない。代わりに私が出会ったのは、ガラスのように繊細で、傷つきやすく、そして深い孤独を抱えた一人の青年。
(あの人は、きっと今まで一人でたくさんのことを抱え込んできたのでしょう)
そう思いながら、怜央斗が最後に見せた微かな笑顔を思い出している。あれは作り物ではない、本当の表情。そして、「また、お会いできれば」という言葉に込められた、ほんの小さな希望。
自分の胸の奥で、何かが動き始めているのを感じている。それは同情でも憐れみでもない。もっと温かく、もっと深いもの。彼の心を理解したい、彼の孤独を少しでも和らげてあげたいという、純粋な願い。
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翌日、私は自室で昨日の出来事について考えを巡らせている。机の上には、結婚についての書類や、両家の取り決めに関する資料が積まれている。でも、私の頭の中は、それらの実務的なことよりも、怜央斗の繊細な横顔や、震え声で紡がれる言葉で満たされている。
母が部屋に入ってきて、心配そうに尋ねる。
「昨日のお見合いはいかがでした?霧島家の方から、特に問題はなかったと連絡をいただきましたけれど……」
私は少し考えてから答える。
「はい、怜央斗さんは……とても誠実な方だと思います」
それは嘘ではない。確かに彼は人付き合いが苦手で、緊張しやすい性格かもしれない。でも、その言動の一つ一つから、彼の真面目さと優しさが伝わってくる。
「それは良かったですね。次回のお食事会も決まりましたし、少しずつお二人の距離も縮まることでしょう」
母が去った後、私は窓辺に立ち、空を見上げる。青い空に白い雲がゆっくりと流れている。
(次にお会いする時は、もう少し彼を安心させてあげられるといいのだけれど……)
怜央斗が私をどう思っているのか気になっている。私のことを迷惑な存在だと思っているのでしょうか。それとも、少しでも親しみを感じてくれているのでしょうか。